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『ディア・ハンター』のデ・ニーロは至高の演技力かも

映画人として、『アイリッシュマン』はNETFLIX配信前にアップリンク吉祥寺で鑑賞をいたしました。まさに米国政府を巻き込んだ壮大なアウトレイジ。東西冷戦、人種、表と裏、家族・・・様々な要素を盛り込んだヤクザ映画。
3時間以上に及ぶ、大画面でデ・ニーロの演技を堪能できる、贅沢なフルコース。大手ハリウッドスタジオが創ることを辞めた、ネットフリックスだからこそ創れる作品。間違いなく歴史に残る名作です。

こんな偉そうなこと言ってますが、ぼく実はデ・ニーロの映画って全然観たことがないんですよ。

僕とデニーロの出会い

アメリカで映画の道に踏み込んだ僕はそんなに映画を観ない人間でした。デ・ニーロを認識してはいたものの、『タクシードライバー』も『レイジングブル』も『ゴッドファーザー』も観たことがありませんでした。こんな人間が映画を語っていいのでしょうか。

僕が初めて「デ・ニーロ」という名前を認識したのは小学生の時に読んだ浦安転勤家族。たまたま登場したゲストキャラでした。
浦安に迷い込んだ、なんでも演じることができる世界的俳優というキャラクターなのですが、僕はそこでデ・ニーロという人はホクロが特徴的な俳優なんだと知ることに。

そして社会人になった僕は初めてデ・ニーロが主演を務める映画を鑑賞。2015年の『マイ・インターン』。アンハサウェイとの掛け合いが平和的で面白く、デ・ニーロはベテラン俳優ならではのオーラで満ちていました。ですがそこにいるのは年老いたデ・ニーロ。映画人としては全盛期のデ・ニーロを観とけよって感じですよね・・・

衝撃を受けたディア・ハンター

『マイ・インターン』から3年の時が経ち、ついに僕にも昔のデ・ニーロ作品を観る機会が訪れました。なんと2018年12月に『ディア・ハンター 4K デジタル修復版』が映画館での上映を開始したのです。

もちろん、映画にわかの僕はこの作品のことは全然しりません。内容も知りません。ただアカデミー賞を取ったということは知っていたので、ワクワクしながらさっそく映画館に向かいました。

そこで観たのは『ディア・ハンター』という言葉からは想像もつかない壮絶なベトナム戦争の描写。平和なアメリカの対極に位置する狂気に満ちたロシアンルーレット。一つ一つのシーンが脳に刻まれる、印象的な映画でした。

実際にベトナム戦争中に作られた今作だからこそ、登場人物たちの気持ちや演技などがよりリアルに描写されています。当時のアメリカの田舎町(製鉄所で働くロシア系移民の町)など今では消えてしまった風景がそこにはあります。地元で鹿狩りを楽しんでた若者たちが地球の反対側で殺される。ロシア系移民が、ベトナム戦争で共産主義陣営に殺される。親友同士がロシアンルーレットで殺し合いをする。たくさんの悲劇が詰まった名作です。

デ・ニーロの狂気あふれるメソッド演技

この映画ではメリル・ストリープやクリストファー・ウォーケンなど名だたる名優が登場していますが、やはり輝いているのはデ・ニーロ扮するマイケル。狩り好きな田舎町の若者が、戦争帰りの悲しみに満ちた兵士へと変貌する様はデ・ニーロ以外では演じきれなかったと思います。特にクライマックスのニックとのやりとりは、観ている側からすると溢れ出る感情が抑えきれません。

『ディア・ハンター』には様々な名言がありますが、やはり自分の頭からは離れないのは:

Michael: You have to think about one shot. One shot is what it's all about. The deer has to be taken with one shot. (「鹿は1発で仕留めなきゃいけない。1発が全てなんだ」)

この「1発」という単語はこの映画を象徴し、最後のロシアンルーレットへと導く単語。この重みのある言葉を、親友を救うため最後に何度も口にするデ・ニーロ。けれど救うことはできませんでした。

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『アイリッシュマン』を観る一年も前にこの作品のデ・ニーロと出会えてよかった。

私の好きなデ・ニーロです。


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