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ワンピース94巻分を一気読みしてこそわかるその魅力 -その①

ワンピースといえば日本を代表する漫画。
長期連載かつ人気作品のため、色々と賛否両論が起こりやすい作品です。

僕の周りでよく聞く意見は:

長すぎて空島編で断念した。
キャラが多すぎ。
DQNが好きそう。
にかわが読むような漫画。

散々ですね・・・キャラが多いのは否めないですが。

僕も途中で脱落してここ5年ほど読んでいなく、追いかけるのもめんどうだったのでパンクハザード編で放置していました。

ですが今年、友人から映画『ONE PIECE STAMPEDE』を一緒に観ないかとお誘いが。ワンピース映画なんて人生で一度も観たことがないのですが、誘われたからには行かないと!

しかしアニメ20周年記念ということでアベンジャーズ的な展開が待っているとのこと・・・これは大変だ。このままではおそらく劇中のキャラクターが一人もわからない事態にもなりかねない。

そう思い、おさらいもかねてすぐにkindleで全巻をポチリ。

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4万円が瞬時に吹き飛びました。

3週間読み続けてわかったこと

仕事をしながら。
通勤電車の中でも。
トイレの中でも。
kindleを片手に四六時中ワンピース。

94巻全部読み終わった頃には3週間が経ちました。

そして悟りました、この漫画は一気読みしてこそ真価を発揮するのだと。

おかげさまで僕の中でワンピースに対する評価がガラリと変わりました。

もはや『銀河英雄伝説』なみの超大作

ワンピースは今年で連載22周年。冒頭でも書いた通り、かつてはパンピーが好むマンガという印象が強かった作品ですが気がつけば超長期連載マンガ。

キャラクター総数は全部で675人以上。

最新の「ワノ国編」では複数のグループ、大量のキャラが入り混じっていて単行本のキャラ紹介がカオスになっています。

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この域まで達すると、ちゃんと読んで内容を把握している人たちはパンピーどころかガチオタクです。

ですが長期連載=良作品ということではないのも十分承知です。

田中芳樹先生によるSF超大作、『銀河英雄伝説』も同じく30年以上の長期連載かつ1500万部を売り上げている大人気作品。

学術的な見解や史実を取り入れることでよりディープかつ壮大なスペースオペラへと昇華させていますが、そういった部分と比較をするとワンピースはあくまでも少年向けなので「ライト」な印象を受けるかもしれません。

なので「かの『銀英伝』と比べるなんておこがましい」という声も聞こえるかもしれませんが、94巻分をじっくりと3週間かけて読むと、少年マンガにとどまらない奥深さや魅力がたっぷりと詰まった作品であるということがよくわかります。

対立する陣営のイデオロギー、人物像、権謀術数、人物模様などの群像劇の流れを前面に出し、ただの海賊マンガには留まらない世界観で読者を引き込みます。

ですので、ワンピースの魅力を個人的な見解で、下記のように簡単にマンガ手法をもとに要素分解してみました。

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これを機になぜワンピースがこんなに人気なのか?そんなに面白いのか?そういった疑問を複数のnoteに分けて払しょくできればと思います。

ネタバレ要注意!

I. 重厚かつ普遍的なテーマ

ワンピースのあらすじは単純明快で、「大海賊時代に、ルフィという青年が海賊王になることを夢みて『ワンピース(ひとつなぎの大秘宝)』を探しに行く冒険譚」。

しかし海賊王になるのは簡単ではなく、道中たくさんのトラブルに巻き込まれます。そのトラブルが、現実社会において切っても切れぬ問題を中心に構成され、それを解決していく過程でルフィが成長していき、ルフィが定義する海賊王へと(本人は自覚せずに)近づいていくのです。

「正義」とは何なのか

この言葉はワンピースにおいて重要なキーワードとなっています。
それもそのはず、この漫画は「週刊少年ジャンプ」の連載にもかかわらず、主人公は「海賊」。つまり世間的には「悪」なのです。その悪は「正義」のジャケットを着た海軍たちに追い回されます。

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けれども上記にも記載したとおり、ルフィは物語の進行上、さまざまなトラブルを「解決」しています。それは多くの場合、読者視点では「勧善懲悪」。あきらかに人を「不幸」に陥れている人たちを懲らしめているのです。

この漫画は常に正義ってなんだ?と、読者に問いかけます。
その真骨頂が『頂上戦争マリンフォード編(56巻 - 61巻)』。
海軍本部に対して、処刑されそうな仲間を助けにきた四皇白ひげによる戦争は、「正義」vs. 「正義」を真っ向から描きます。

例えば海軍大将"赤犬"は海賊を「完全悪」とみなし、味方が死のうが喚こうが戦いを継続させます。そんな中、新米兵士のコビーが全力で戦争を中断させようとしても、やめずに彼を手にかけようとします。

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これではどっちが「悪」なのかわかりません。

その疑問を総括するかのように吠えるのがドフラミンゴ。
彼は海賊なのにもかかわらず、海軍を支援する王下七武海なのでただ楽しむためだけに戦場にいます。そんな彼の"中立視点の言葉"がズシンときます。

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この言葉に賛同するかどうか、海軍 or 海賊のどっちが「正義」かは読者の判断にゆだねられます。実社会でも警察や司法が本当に「正義の味方」なのかもわからない時が多々ありますからね。

繰り返される「差別」

ワンピースの世界では「差別」をするもの、「差別」に苦しむものが多く描かれます。その中心的な役割を担うのが「魚人族」。

彼らはワンピース初期にメインキャラのナミを苦しめる悪党という形で登場しますが、ストーリーが進むにつれて魚人族が受けている差別、境遇などが明るみに出ます。そして魚人たちが受ける「差別」に焦点を当てたのが『魚人島編(61巻 - 66巻)』。

ここまで来るのに人間がなぜ魚人を差別するのかは間接的ながら描かれており、ルフィたちもその理由に関して薄々と学び始めてはいました。わかりやすく言えば「見た目」。自分たちとは異なる、異質なものを排除したがる人間性により、魚人たちを"気持ち悪い"などと言って蔑んだりします。

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現実世界では、人が肌や人種の違いで差別をするのを、『ワンピース』では魚人に置き換えて描いております。

しかし魚人等編ではその「表面的な差別」だけではなく、魚人側の事情が深ぼられ、魚人がなぜ人間に憎悪を抱き、差別がなくならないのかに踏み込んでいます。いわゆる「差別の連鎖」、「差別返し」といったところでしょうか。

そのキーポイントとなるのが教育です。

魚人島編では「差別返し」によって人間を滅ぼそうとする「ホーディ・ジョーンズ」を、ルフィたちが止めようとする話です。しかし、ふたをあけてみると実はホーディは直接的な差別を受けたことがないのです

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要するに、彼は先輩たちが人間たちと戦うのを見て「人間は滅ぼすべきもの」という教育を受けた存在。上の世代が憎悪を持っていると、それは下の世代にも伝染し、実被害を受けたことがないのに被害を受けたと妄想をしてしまうのです。

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これは現実世界においても大きな社会問題となっており、昨今の日韓問題や黒人差別問題などにも直結しています。日々の報道や大人による言動によって、子供たちは大きな影響を受けます。憎悪まみれの言葉を聞くと、憎悪に満ちた性格が形成され、反対にやさしい言葉を受けていると穏やかな人格が形成されます。ナチスドイツの時代や昨今のアメリカもそうですが、ヘイトやナショナリズムを活用し、対立を煽ることで一定の利益を得る勢力もいるので、これを解決することは非常に困難ですが・・・

魚人島編では、この対立する構図をホーディとオトヒメ王妃&フィッシャー・タイガーによって描かれます。もちろん、そもそもの発端は人間側による差別が原因です。ルフィはそういった魚人族の中の対立を解決し、差別をする人間にも鉄槌を食らわせます。結局、この問題を終わらせるにはルフィが唱える「みんな友達じゃねえか」というところに落ちつくんですよね。

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こういった重いテーマをピックアップし、エンターテインメントに落とし込む尾田栄一郎さんは日々どんなインプットをしているのかが気になるところです。

「自由」の定義

さて、ここまでは「正義」や「差別」を書いてきました。『ワンピース』が誰でも共感ができる、普遍的かつ重厚なテーマを中心に描かれていることがおかわりいただけたかと思います。

ですが肝心の主人公「ルフィ」ってそういった問題とか別にどうでもいいと思っているんですよね。

彼の行動を分析すると、大義名分とかはなく、単純に友達や家族を助けるために動いている。あとは飯や宴のため。非常に単純明快です。

ただ、そんな彼にも行動指針はあります。それは海賊王になること
海賊王になるために頂上戦争や魚人島の問題に首を突っ込む。

けど海賊王=この世の富と名声のすべてを手に入れた海賊。この定義は世間一般的に考えられているものなのですが、多くの登場人物が海賊王を目指している海賊らしかぬ行動を取るルフィの行動に疑問を抱きます。

そんな疑問が払しょくされるのが、ドレスローザ編が終わる80巻。一緒に闘った海賊たちが麦わらの一味の傘下に入ると申し出たとき。通常の海賊であれば自分の勢力が大きくなるので喜ぶのですが、ルフィは拒否します。

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思わずツッコミを入れるトラファルガー・ローが面白いですね。
連載開始から実に17年。ここで初めてルフィが定義する「海賊王」と世間(読者)が認識している「海賊王」の定義にズレがあることが示されます。

驚きです。
だって物語の核が覆されるようなものだもん。

じゃあルフィが目指すものは何なのか?彼は海賊王とはこの海で最も自由な者と言及しており、そんな権威や名声といった俗的な価値観とは無縁なものだとしています。

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ここでやっと、彼の行動理由に説明がつき、ただの「正義マン」ではないことが証明されます。勧善懲悪なんか関係なく、彼は仲間だったり、魚人たちが抑圧されて自由がないときに動くただの海賊。そう、「自由」とは『ワンピース』の核となるテーマなのです。

まとめ

魅力的な物語というのは、生きる上での指針が盛りこまれているものです。その指針は時には「哲学」という言葉で表現されたり、あるいは「テーマ」という言葉で表現されたりもします。

日本の「マンガ」という媒体は歴史的にみて、とても特殊です。その特殊さゆえに、キャラクターや熱い展開などが注目されがちですが、物語はあくまでも「テーマを伝える手法」という点を忘れてはなりません。
(日常系や萌え系はまた別の軸になるかもしれませんが)

『ワンピース』は壮大な世界観で描かれるストーリーの流れの中で、モンキー・D・ルフィという純粋な心を持ったキャラクターを通じ、自然に哲学、ひいては「生きる意味」を読者に与えます。

週刊連載だと断絶されがちですが、一気読みするとこういった一連の流れがスッと入ってくる。
非常に価値のある「文学」だと思います。

その②へ続く

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