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初めての富士登山 鮮烈な体験記。


Nonfiction

  • 5号目: 富士山吉田ルート口に降り立つ

  • 6号目: 高山病対策炸裂

  • 7号目: 落ちる太陽と落ちる体温

  • 8号目: 風速20m, 雨量8mmの悪天候

  • 8.5号目: 「山は動かない」

  • 9号目: 勝鬨

  • 富士山頂: そこに人がいる

  • 8号目: 削られる体力

  • 7号目: 雷、か?

  • 6号目: 行く者と去る者

  • 5号目: カップラーメン




Nonfiction


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5号目: 富士山吉田ルート口に降り立つ


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前日までの天気予報では、雷雨。
絶望していた。

「スバルラインすら通過できないかもしれない。」

マイカー規制中のスバルラインを抜けられるかどうかは、シャトルバスに身を委ねるしかない。
午前朝9時、新宿駅バスタから富士急行シャトルバスに乗り込んだ。

バスの窓から注ぎ込むオレンジの光。
ふと、目を開ける。
夢心地か、景色が霞んでいる。
ただ、たしかに今スバルラインを通過している事実を噛み締めた。

富士山5号目は、ほのかな風。
初夏の甘酸っぱい匂いがする。

「45分ばかし、ゆっくりストレッチしながら高度に順応させよう。」

前日までの絶望が、麻薬か。
初めて富士山の地を踏み締めた感動を、何倍にも感じていた。

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6号目: 高山病対策炸裂

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登山口で、リストバンドを手に入れた。
このリストバンドが、入山料支払った証らしい。
国籍関係なく、全員している。
フェスのような一体感さえ感じるのは、何故だろうか。

雲と歩く。
雲はイルカのようだ。
なんて人懐っこいんだろうか。
遠くにいるなと思っていたのに、気付けばすぐ近くに来ている。
身体に纏わりついてくる。
でも嫌な気持ちにならないのは、何故だろうか。

なんという非日常感。
はやる気持ちに、追う身体。
追う身体に、働く足。

「このペースだと身体に負担がかかる。亀のスピードでいこう。」
" (220 - 年齢) x 0.75 = 適切な脈拍 "

なるほど。
適切な脈拍を保つには、楽しく会話できるくらいのスピードがちょうど良いのか。
スピードを落とすと、見える景色もさらに広がった。

すぅー、と深呼吸をしてみる。
ふぅー、と吐き出してみる。
身体の中に生まれたての酸素が満ち足りていくのを感じた。

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7号目: 落ちる太陽と落ちる体温

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午後13時に登山を開始して、2時間と少し。
今日お世話になる山小屋(7号目トモエ館)に到着した。

ここまでの道は整備されていて歩きやすい。
なんだか楽しいハイキングだ。

「この山小屋のクリームパンがとにかく美味しいの!」
20人ほどメンバーを引き連れた、どこぞの社長さんが教えてくれた。

「この子のクリームパンはあるの?1つこの子にもね!」
クリームパンを分けてもらった。完売スレスレの駆け込みであった。

「チャイと一緒に食べるのが、通なんだよ。」
富士登山初めてにして、背伸びしてみた。
やはり高いところからの景色は格別だ。
少しでも高く、人は景色を望む。

気付けば、陽が傾いてきた。
気温も下がってきている。

夜はフリースを着て寝ると、温かくて良いらしい。

「まだ着なくて大丈夫かな。」

そう思いながら、チャイをくいっと飲み干した。


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8号目: 風速20m、雨量8mmの悪天候


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いまは、深夜23時30分。
不思議と眠くない。

夕方の18時には布団に入って、そこから眠れず3時間。
時折、胸のドクドクが響く。
寝ると呼吸が浅くなるという事実が、自分の本能を刺激する。
「ここで寝てはいけない。」
そう誰かに言われている気がした。

寝れないというのが、こんなにも辛いか。
3時間、何考えていたか。
その後の2時間を気持ちよく熟睡してしまったお陰で、そんなことどうでもよくなってしまった。

ヘッドライトを点ける。
辺りは真っ暗。
風が少し強くなったか。

先行く、外国人登山者。
身構える、日本人登山者。

岩肌が眠気を突き刺す。
自然は容赦ない。
言い訳など聞かず、ひたすら人間を試してくる。

風が強くなる。
次第に、上からヘッドライトの列が蛇行してくる。

「8号目はダメだ!風が強すぎて歩けたもんじゃない。あんなの死ぬぞ。」

悔しさが滲み出る。
その口から吐き捨てる言葉。

彼らを敬意を持って見送る。
登山道を下山するということがどういうことか。
厳しく、辛く、悔しい道が続くだろう。

悲しみの雨が降り注いできた。
1mm
1.1mm
1.2mm
下山者が増える。雨量が増す。

一つ一つの山小屋に着くたびに、天気予報を確認する。
方位磁針を左の掌に乗せる。
「下山するか、ここでステイするか、登るか。」
パーティで確認する。

Mr.Aを信頼する。
IKKOを信頼する。
信頼しているからこそ、本音で言い合う。

"命と命のやり取り"とはカッコよく言ったものである。

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8.5号目: 「山は動かない」


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"山頂の風速25m、雷注意報が2時間後から発令予想"

無理だ。
このペースのまま山頂まで登ると、雷雲の中で怯え、いずれは何処ぞに飛ばされてしまうだろう。

今は朝の4時。
運良く避難させてもらう。
本来であれば、宿泊先以外の山小屋に避難などあり得ないことである。
いや、山小屋の方々に言わせてみれば、運悪く我々が来てしまう。
山は全て自己責任なのである。

今まで出会った全ての山小屋の人々は、朗らかでどこか達観していた。
ただ1つ、皆が口を揃えていうのは、
「山は動かない」

何故、我々は山頂を目指すのか?
何故、今日でなければ行けないのか?

雨が窓を叩きつける。
風が "去れ" と諭してくる。

天気図をじっと見つめる。
失敗は許されない。
どのタイミングで雷雲が抜けるか、風が弱まるタイミングがないのか。
頭をフル回転させる。
失敗とは、この状況下で言えば「死」に等しいのではないか。

朝9時から11時の間で、風が弱まるタイミングがある。
ここが最初で最後のアタック可能なタイミングだ。
まるで、虎視眈々と獲物を狙う狼の如く、時計を見つめる。

午前6時20分。
8.5号目を後にした。


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9号目: 勝鬨

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狼煙を上げる。

今が攻めどき。
今しかないのである。

背水の陣。

当然、水などない。
後ろにあるのは、転落という結末である。

酸素がかなり薄くなってきたようだ。
先を急ぐパーティが多い。
兎のようにぴょんぴょん進んでは、休んでを繰り返している。

我々は亀だろうか。
依然として、脈拍をベースとしてゆったりとしたペースで着実に前を向く。

結末は、正しく「うさぎとカメ」
我々は、道端の地蔵に挨拶しながら、ノソノソと。

9号目を通過する。
御来光である。
少しの安堵感が立ちのめる。
天気図を攻略した我々は、心なしか目力が増す。

右手に持つ金剛杖を空にかざす。
「勝鬨じゃ。」

日本の頂はすぐそこである。

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富士山頂: そこに人がいる

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日本の頂が、一瞬だけ門戸を開けた。
日本で生まれた者として、見ておきたかった、感じておきたかった。
それぞれが、それぞれの富士登山。
登頂した人へも、下山をした人へも、全てに敬意を。

トラクターが一台、通りかかった。
何やら工事をするのだろうか。

人は動く。
どこでも、いつでも。

人を動かす。
大地は、人を動かし続ける。

時に吸収して、時に生み出す。

風が強くなってきた。

「そろそろ去りなさい。気をつけて。」

そう言われている気がした。

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8号目: 削られる体力

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細かい砂が身体を滑らす。

どこまでも続く、赤い道を下っていく。

時折、立ち止まってみる。
面白い形をした岩石と、靴の中に入った石を取り除くために。

どれくらい下ったのだろうか。
シャトルランをしているだけなのだろうか。
雲海にどれだけ近づいてきたかで、己の所在地を探る。

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7号目: 雷、か?

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雲海が近くなってくる。
どうやら、幅の厚い雲だったようだ。

午後15時ごろから山頂付近では雷雨予想。
この雲が上に上がるということなのか。

するりとかわす。
6号目方向は晴天。

どうやら草木も見えてきた。
砂と岩しか見ていなかったので、懐かしい気持ちになる。

山頂ではカップラーメンを食べなかった。
安全に下山したら食べようと誓った。
草木が見え、この旅の終わりが近いことを悟った。

「カップラーメンは醤油味を食べたい。」
そう考えながら、数歩進んでは立ち止まってを繰り返した。

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6号目: 行く者と去る者

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見慣れた景色である。

行く者と去る者が入り交じる。
しかし、表情から、行くのか去るのかどちらなのかすぐに分かる。

去る者は、山の険しさを経験し、顔が引き締まっている。
恐らく、それぞれ去る者は、何かを得てここを出ようとしているのだろう。

行きで見た、去る者はまるで映画のラストシーンでよく見る"戦争から帰ってきた兵士"のようだった。

我々も今、そう見えているのだろうか?
富士山頂の焼印が入った金剛杖を天に掲げ、ニカっと口角を上げた。

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5号目: カップラーメン

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ああ、終わりか。

今までに何度、富士山の写真を見たことだろうか。
今までに何度、東海道線の車窓から富士山を眺めただろうか。
今までに何度、東名高速道路の渋滞中チラッと富士山を見ただろうか。

「いつか登頂してみたい山」
から
「登頂したことのある山」
に変わる。

このゲートをくぐった瞬間に、そう変わるのだ。

特に目に見えて何かが変わることはないだろう。
ただ、その事実だけが、何かを変えてくれることは確かだ。

結局、すぐには変わらなかった。

カップラーメン醤油味にお湯を注いだ。
2分30秒、金剛杖を眺めてみる。
焼印で埋め尽くされた木の棒は、ただならぬ威厳を示す。

「あ、登頂されたんですか!おめでとうございます!」
富士山運営関係者の方が声をかけてくれる。

カップラーメンが出来たようだ。
一口啜ってみる。
口いっぱいにあの味が広がった。

三口ほど啜っただろうか。
なんだか、味に飽きてしまった。





IKKO




富士山に関連する内容を以下にまとめています。
是非、ご活用ください👀


①富士登山完全ガイド


②富士山吉田ルート 全トイレレビュー

*内容にご満足頂けましたら、チップのご支援のほど宜しくお願い致します!


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