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映像で読み解く(2)MV『Thriller』(1983)


短編映画としても楽しめるMV

今やアーティストの新曲が
発表される時に映像作品として
ミュージックビデオも公開されるのは、
当たり前になっています。

しかし、昔は当たり前のことでは
ありませんでした。

MV の起源については、
諸説あるようですが、

一つの有力な説としては、
ビートルズがはじめた
という話もあります。

その説によれば、
新曲を出す度にテレビ出演などの
プロモーション活動をすることが
大変だったので、

新曲とともに映像を発表した
ということらしいです。

ですから、楽曲用の映像のことを
今は「ミュージックビデオ」
と呼ぶのが主流ですが、

昔は「プロモーションビデオ」
と言っていました。

そして、MV の存在意義を確立した
金字塔として、
やはり、マイケル・ジャクソンの
『スリラー』が挙げられるでしょう。

この記事を書くにあたって、
その周辺の年代のマイケルの MV を
いくつか観直してみたのですが、

映像作品としての見応えは
『スリラー』が突出していました。

映画監督が映像を手掛けているのもあり、
全編に渡って、
映画的な作りになっています。

これ以前に作られた
マイケルの MV にも
映画を意識したようなものはありますが、

ここまで本格的なものは、
はじめてでした。

なんせ、楽曲がいきなり始まるのではなく、
しっかりとオープニングがあり、
曲のパートに移行し、
エンドロールまであるのです。

今でこそ珍しい手法ではありません。

しかし、当時は、
MV でこのような演出がされることは
はじめてのことでした。

実際、この MV の制作には
当時の相場の制作費の
約10倍の資金がかかったようです。

若い方でも、
この MV でゾンビがダンスする映像は
一度は観たことがあるのではないでしょうか。

究極のダンスと映像のテンポ

マイケルのパフォーマンスは、
映像の演出がまったくなくても、
素晴らしいものです。

そのダンスのキレは
『スリラー』以前、

いや、ジャクソン5として
デビューした時から
人知を超えるものでした。

ですから、特に演出がなくても、
彼が歌って踊るだけでも
映像作品として成り立つでしょう。

そんな彼の抜群のパフォーマンスに
本作では様々な装飾や演出を施し、
みごとな短編映画に
仕上げているのです。

これがおもしろくないはずがありません。

一番の見どころはもちろん、
マイケルとゾンビたちの
ダンスシーンです。

ゾンビ

何度も言いますが、
ただ画面の中央に出てきて
踊っただけでも
充分に画が成り立つところに、

特殊効果やカメラワークを
プラスしているので、
まさに「鬼に金棒」です。

とにかくカメラがよく動きます。

マイケルをズームアップしたかと思えば、
全体を俯瞰で見せたり、

足元だけを切り取って見せたり、
脇役のゾンビだけのカットがあったりと
目まぐるしく画面が
切り替わっていくのです。

楽曲のテンポと映像の切り替えが
抜群のコンビネーションを発揮し、
楽曲自体の魅力を
さらに引き出しています。

今観ても、まさに理想の MV ですね。

特殊メイクの完成度

『スリラー』といえば、
特殊メイクにも
注目しないわけにはいきません。

特殊メイクには、
今ではその道の巨匠と言われる
リック・ベイカーが参加していました。

(2015年に惜しまれつつ引退。
 代表作『スター・ウォーズ』『狼男アメリカン』
 『メン・イン・ブラック』など)

MV の冒頭で見られるマイケルが
狼男に変身するシーンが凄まじいです。

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顔や指先の皮膚がバリっと割れて、
中から狼の毛皮や爪が出てくるのですが、
あまりのリアルさに痛みすら感じます。

ゾンビの造形は、
過去のゾンビ映画を
参照しているとは思いますが、

このケミカルな色合いや質感は、
『スリラー』以降に
定着したものではないでしょうか。

(※ゾンビ映画に詳しくないので、
  間違っていたらすみません。
  今後、検証していきます)

MV という宣伝材料でありながら、
これほど、のちのエンタメに
影響を与えた映像作品は
他にないでしょう。

【作品情報】
1983年公開
制作国:アメリカ
監督:ジョン・ランディス
出演:マイケル・ジャクソン、
   オーラ・レイ
レーベル:エピック・レコード

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