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映画レビュー『フォードvsフェラーリ』(2019)汚い大人たちに囲まれても変わらぬレースへのひたむきさ



二人の主人公の出会い

'60年代に実際にあった
スポーツカーレース耐久レースでの
フォードとフェラーリの覇権争いを
モチーフにした作品です。

主人公の一人、
キャロル・シェルビーは、
(マット・デイモン)

'59年のル・マン24時間レースで
優勝しましたが、
心臓病を患い引退しました。

その後、キャロルは、
シェルビー・アメリカンを設立、
カーデザイナーとしての道を
歩みはじめるのでした。

もう一人の主人公、
ケン・マイルズは、
(クリスチャン・ベール)

第二次世界大戦後、
イギリス軍を除隊し、
アメリカに移住、

自動車整備工場を営みながら、
自らレーサーとして、
レースにも参加していました。

この二人を結び付けたのは、
とあるレースでした。

レースがはじまる前に、
偶然出会ったキャロルは、
マイルズを挑発しました。

頭にきたマイルズは
スパナを投げつけ、

キャロルが用意していた
車のフロントガラスを
割ってしまうのでした。

この出来事はキャロルに
マイルズの存在を
印象づけることとなります。

レースではマイルズが
見事な走りを見せ、
優勝を勝ち取りました。

マイルズの走りを気に入った
キャロルは投げつけられた
スパナを持ち帰り、
それをオフィスに飾ります。

フォードvsフェラーリ勃発

フォードでは、
創業者の息子である
2代目の社長が、

このままでは
さらなる会社の成長は見込めない
という危機感のもとに、

社内で大々的に
新しいアイディアを募っていました。

これに応えたのが30代にして
副社長にまで昇りつめた
リー・アイアコッカです。

リーは、フェラーリを買収し、
フォードに新しいイメージを
吹き込み、

これから新しい車を
購入することになる
若い層を取り込むことを
画策しました。

当時のフェラーリは、
ル・マン24時間耐久レースにおいて、
4連覇を果たし、

世界中から憧れられる
ブランドとなっていました。

そんなフェラーリですが、
経営危機に陥っており、
フォードはそこを狙ったわけですね。

ところが実際に
フェラーリの本社を訪ねると、
この交渉はうまくいかず、

リーはフェラーリの創業者から
罵倒を浴びせられ、
退散せざるを得ない状況になります。

また、フェラーリは
買収を断るどころか、
フォードの買収話をダシにして、
フィアットへの売却を進めていたのです。

このことに怒りを覚えた
フォードの社長は、

総力を挙げて
ル・マンのレースでフェラーリを
打ち負かすことを指示します。

汚い大人たちに囲まれても
変わらぬレースへの
ひたむきさ

フォードがレースの参戦にあたって
パートナーに指名したのが、
シェルビーでした。

そして、シェルビーの経営者であった
キャロルがケンにも声をかけて、

フェラーリを超える
最高のスポーツカーの開発に
乗り出すのです。

ここまでが前半の話になります。

とにかく長い話なので、
あらすじだけで
終わってしまいそうな勢いですが、

フォードとシェルビーが
組んでからも、
波乱に満ちた展開が待っており、
なかなか思うように進まないんですね。

本作を観て、一番強く感じたのは、
やはり、組織は、
規模が大きくなるほど、
汚い部分が露呈するということです。

シェルビーが
関わるようになってから、

フォードの社内でも
足の引っ張り合いみたいなものが
頻出するのです。

そして、一番気がかりだったのが、

スポーツカーに関して、
一番知識があり、
レーサーとしての実績もある
ケンへの配慮のなさですね。

彼を蔑ろにするフォードの姿勢には、
観ていて本当に頭にきました。

しかし、ケン自体は、
そのことを気にしないとは
言わないまでも、

そのことに対しては、
人前で怒りをあらわにすることは
ほぼありません。

ケンという人は、
冒頭のスパナを投げつけた
エピソードからもわかるように、

どちらかというと、
短気な性格なのですが、

なぜかフォードから受ける
失礼な態度に対しては、
直接怒りをぶつける場面が
ほとんどないのです。

(新車の発表会に招かれて、
 それを途中退場する
 というようなことはあったが)

それを観て、
なんてカッコいい人なのだろう
と思ってしまいました。

彼はレースのことにしか
興味がなく、

自分の理想のマシンで
サーキットを駆け抜けることにしか
興味がないんです。

(だからこそ、自動車整備工場の
 経営は厳しい困難を迎えたが)

そして、ケンのそのような姿勢を
家族やキャロルがおおいに認め、
彼をサポートします。

『フォードvsフェラーリ』という
タイトルが表しているように、
本作がメインに描いているのは、
企業間競争です。

企業間競争と書けば、
聞こえはいいですが、
要するに大人の社会の
醜い部分も多く描かれています。

そんな中にあって、
キャロルとケンの純粋さが
光って見えるのは
当然のことかもしれません。

レースシーンの描写は圧巻ですし、
ビジネス、スポーツの話としても
楽しめます。

そして、何よりも
仲間や家族とのつながりも
感じられる温かい物語でした。


【作品情報】
2019年公開(日本公開2020年)
監督:ジェームズ・マンゴールド
脚本:ジェズ・バターワース
   ジョン=ヘンリー・バターワース
   ジェイソン・ケラー
出演:マット・デイモン
   クリスチャン・ベール
   ジョン・バーンサル
配給:20世紀フォックス、
   ウォルト・ディズニー・
   ジャパン
上映時間:153分

【同じ監督の作品】

『ウルヴァリン:SAMURAI』
(2013)
『LOGAN/ローガン』
(2017)
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』
(2023)

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