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映像で読み解く(16)アニメ『怪盗グルーの月泥棒』(2010)

この10年で急成長した
人気アニメシリーズ

アメリカの 3D の CG による
長編アニメーションは、
’90年代中盤にピクサーが
はじめて制作し、

その後、『シュレック』シリーズ
などで知られるドリームワークスが
後を追う形で、参入しました。

CG アニメのシーンは、
長らく、この二つのスタジオが
牽引してきましたが、

2010年代になって、
『怪盗グルー』シリーズを
引っ提げて颯爽と現れたのが
イルミネーションです。

イルミネーションにとっては、
1本目の作品であり、
まったく新規の作品でしたが、

あっという間に人気シリーズとなり、
今ではユニバーサルスタジオジャパン
にも登場しています。

今夏もスピンオフの新作
『ミニオンズフィーバー』の公開が
予定されており、
その勢いは留まるところを知りません。

(『ミニオンズフィーバー』は、
 7月15日(金)公開予定)

敢えて歪ませたフォルム

本作を見ると、
まず、キャラクターのフォルムが
目を引きます。

例えば、ピクサーの
キャラクター造形では、

実際の人間の骨格を
模した人形的なフォルムが感じられます。

それに引きかえ、
『怪盗グルー』に登場する
キャラクターたちは、

ピクサー作品のそれよりも
さらにデフォルメされており、

多くのキャラクターが
四角い枠に無理やり
押し込めたような
造形になっています。

(型に押し込められて、
 ムギュッとした感じ)

潰す

人間のキャラクターは
胴がしっかりした形で、
腕や脚はほっそりしているんですよね。

(逆に肩から胸が細めで、
 お腹が出ているキャラクターも)

この奇妙な造形が、
ギャグ多めのコミカルな作風に
ピッタリ合っていて、
かなり効果的な見た目に感じました。

アンバランスな体系が
ちょっとした動きのおかしさを
増長させているのです。

さらに、こういった
奇妙なバランスの造形は
人物だけでなく、

劇中に登場する乗り物や
アイテムにも当てはまります。

この世界に出てくる
あらゆる立体物は
粘土を歪めたような形に
なっているんです。

細かいところですが、
他社 CG アニメとの差別化が見えます。

テンポ抜群の切り替え、
音楽好きも唸らせる音楽

他にも他社の CG アニメ、
特に、ここでは先行していた
ピクサー作品と比べると、
展開のスピードがかなり速い印象です。

例えば、一般的な作品であれば、
もう少し間を空けるであろう
と思われるところを

本作では、その間を詰めて、
一つでも笑えるシーンを
入れようとします。

笑いのためだけの
遊びのシーンが多いのも
本作の大きな特徴です。

また、テンポの部分で言うと、
音楽も絶妙なバランスですね。

何より、音楽に
ファレル・ウィリアムスを
起用するあたりが、
他のアニメ映画にはない試みでした。

(ファレル・ウィリアムス:
 ザ・ネプチューンズ、N.E.R.D のメンバー。
 ’06年ソロデビュー。グラミー賞も多数受賞)

ヒップホップ、ファンク色の強い
サウンドトラックは、
とんでもなくオシャレで、

なぜか、本作のコミカルな
キャラクターたちとの
相性も抜群にいいんですよね。

ミラーボール

なお、音楽に対する強いこだわりは
イルミネーション作品全般に見られ、

『怪盗グルー』シリーズの続編、
『SING』も音楽好きの大人も
うならせる本格派の楽曲が
印象的でした。

シーンの切り替えのテンポ、
音楽のかっこよさに加え、
本作を魅力のある映像にしているのは、

時折、挟まれるカメラの視点を
切り替えたカットです。

敢えて、視点を下げて、
子どもの視点を再現してみたり、

ミサイルが飛んでくるシーンで、
自分に向かってきているような
カットが挟まれたりします。

この手の演出で圧巻だったのは、
中盤でグルーが子どもたちと
ジェットコースターに乗るシーンです。

ここでもカメラの視点が
ジェットコースターに
乗っている目線に切り替わり、
抜群の臨場感が楽しめます。

また、ここのファレルの歌も
いいんですよね。

個人的には、本作の中で
一番、心に残ったシーンです。


【作品情報】
2010年公開
制作国:アメリカ
監督:ピエール・コフィン、クリス・ルノー
声の出演(日本語版):笑福亭鶴瓶
配給:ユニバーサル・ピクチャーズ

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