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テレビレビュー『ブラッシュアップライフ』(2023)誰もが一度は思い描く「2周目の人生」

※2000字以上の記事です。
 お時間のある時に
 お付き合いいただけると嬉しいです。

バカリズム脚本にハズレなし

バカリズムは、
その昔、『笑う犬の生活』の
姉妹番組『笑う子犬の生活』
というコント番組で
知ったコンビでした。

(『笑う犬の生活』:
 ’98~’99年にフジテレビで放送された
 コント番組。
 出演:内村光良、ネプチューンほか)

名前と見た目だけは
記憶に残っていましたが、
二人とも地味な感じで、

それほど印象には
残っていません。

そこから数年経つと、
バカリズムは一人になっていて、
ピンのコント芸人に
なっていました。

(’05年にコンビ解消)

世間的には、この辺りから
注目されていた気がしますが、

個人的には、
それほど好きな感じでもなく、
「普通」という印象でした。

そこから、さらに年数が経つと、
トーク番組などで、
バカリズムを
見かけるようになりました。

正直なところ、
バカリズムの
毒の強い芸風は苦手でした。

でも、たまに、
とんでもなく
心に刺さる一言を

ポツリと
つぶやくように吐く、

その感じには思わず
笑ってしまうことも
あったんですよね。

そこから、さらに年数が経ち、
「この人、すごいかも」
と思ったのが、

彼が脚本を手掛けた
ドラマを観た時のことです。

今から11年前、

2012年に放送された
『世にも奇妙な物語』で
バカリズムが脚本を
手掛けていました。

『来世不動産』という作品で、

亡くなった人が、
次に生まれ変わる生き物を
不動産の「物件」のように
探す話でした。

(主演もバカリズムだった)

これがものすごく
おもしろくて、

私の中ではバカリズムが
「おもしろい脚本家」
という位置づけになったんです。

その後に脚本を手掛けた
『素敵な選TAXI』('14)
『黒い十人の女』('16)
『架空OL日記』('17)も
観てきましたが、

どれも抜群におもしろく、
いずれも繰り返しの鑑賞に
耐えうる作品になっていました。

(『架空OL日記』は
 向田邦子賞を受賞)

脚本家としても、
これだけハズレのない方は
珍しい気がします。

そして、今回放送された
『ブラッシュアップライフ』ですが、

これは私がはじめて観た
バカリズム脚本の
『来世不動産』をベースに
したような内容で、

さらにパワーアップさせた
作品になっていました。

近藤麻美 享年33歳

本作の主人公の
近藤麻美(安藤サクラ)は、
市役所に勤める30代の女性です。

市役所の仕事は、
窓口でお客さんのクレームを
聴くことが多い、
大変な仕事でした。

しかし、プライベートでは、
学生時代からの地元の友人たちと
交流が続いており、

家族とも仲が良く、
それなりに幸せな日々を
送っています。

ところが、麻美は、
33歳で交通事故によって
亡くなってしまうのでした。

麻美が目を覚ますと、
真っ白な広い空間に
立っていました。

空間の奥には、
窓口のようなものがあり、
受付係(バカリズム)がいます。

「33年間、おつかれさまでした」
受付係がこう告げると、

ようやく、麻美は
自分が死んでしまったことを
理解しました。

事務的な受付係は、
次に生まれ変わる
「来世」について

分厚いファイルを開き、
探しはじめます。

残酷にも、麻美の来世は
こう告げられるのです。

「南米のオオアリクイです」

ファイルから取り出された
写真には、アリを食べる
オオアリクイの姿が
映っています。

もちろん、麻美が
これを喜んで
受け入れることはなく、

他に方法はないのか、
受付係に尋ねるんですね。

すると、受付係は、
もう一度、人生を
やり直すことができるのを
教えてくれました。

どうやったら、
もう一度、人間に
生まれ変われるのかというと、

その人が生きた人生で、
どれだけの「徳」を
積んだかによって、

生まれ変わるものが
違うんですね。

そんなわけで、
麻美は、もう一度人間に
生まれるべく、

二週目の人生を
はじめることになりました。

誰もが一度は思い描く
「2周目の人生」

「もう一度人生をやり直せたら」

誰もがこんなことを
考える瞬間があると思います。

「学生時代にもっと勉強していたら」
「あの時に好きな人に告白していたら」
「別の職業に就いていたら」

人間というのは、不思議なもので、
「選んだ」人生よりも
「選ばなかった」人生に
時折、強烈な魅力を感じるものです。

「もしも、2周目の人生があったら」

そんな妄想を映像化したのが
本作でもあります。

誰もが一度は思い描くような
物語だからこそ、
親近感が湧き、

主人公の葛藤にも共感が
生まれるんですね。

突拍子もない話ではありますが、
不思議なリアリティーも
感じられるのが本作の
おもしろいところです。

またしても、バカリズムによる
脚本がよくできていて、

何げない日常を
おもしろおかしく描きつつ、
「その何げないもの」が、

後々、ストーリーの
伏線となって出てくるところに、
思わず唸らされてしまいます。

そして、物語は、
2周で終わりではありません。

何週も続く人生の中で、
最終的に主人公は、
何を手に入れるのでしょうか。

純然たる
コメディーでありつつも、

自分の「人生」にとって、
何が一番大事なのか、

そんな問いかけも感じられる
奥深い作品です。


【作品情報】
2023年1月~3月放送(全10話)
脚本:バカリズム
演出:水野格
   狩山俊輔
   松田健斗
出演:安藤サクラ
   夏帆
   木南晴夏
放送局:日本テレビ
配信:TVer、Hulu

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本作を観るきっかけとなったのが、
森野しゑにさんのこの記事でした。
作品の魅力について、
読みやすくまとめてあるので、
オススメです。
(森野さん、ありがとうございました)

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