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好きな詩『動物園の珍しい動物』天野忠

『日本の名詩100』から
私の好きな詩を紹介します。

まずは、
なんの先入観も持たずに、
この作品を読んでみてください。

動物園の珍しい動物

セネガルの動物園に珍しい動物がきた
「人嫌い」と貼札が出た
背中を見せて
その動物は椅子にかけていた
じいっと青天井を見てばかりいた
一日中そうしていた
夜になって動物園の客が帰ると
「人嫌い」は内から鍵をはずし
ソッと家へ帰って行った
朝は客が来る前に来て
内から鍵をかけた
「人嫌い」は背中を見せて椅子にかけ
じいっと青天井を見てばかりいた
一日中そうしていた
昼食は奥さんがミルクとパンを差し入れた
雨の日はコウモリ傘をもってきた。

『動物園の珍しい動物』天野忠(1966)

どうですか!
おもしろくないですか?

私はこの詩をはじめて読んだ時、
噴き出してしまいました。

「世の中にはこんなに
 おもしろい詩もあるんだ!」と、

昨日紹介した島崎藤村とは、
また違った意味の
衝撃を受けましたね。

タイトルが
「動物園の珍しい動物」なのに、

その動物の貼札が
「人嫌い」で、

お客さんに背を向けて、
ずっと椅子に腰をかけて、
空ばかり見ている、

しかも、動物園が閉園になると、
中から出てきて、家に帰り、

翌日の朝には、
自分で小屋の中に入って、
しっかり鍵をかけるんです。

それは、もう人間だろ!
と、ツッコんでしまいます(笑)

しかも、「人嫌い」には
奥さんもいて、
昼にはミルクとパンを
持ってきます。

雨の日は、
ちゃんと傘も持ってくるんです。

こんなシュールな詩は
はじめて読みました。

私はこの詩を読むと、
いつも吉田戦車の4コマを
思い出します。

というか、ありそうですよね。
吉田戦車のマンガに。

一方で、この詩は
「動物園」と銘打ちながら、

「檻」といった
具体的なワードが
一度も出てきません。

「人嫌い」が
どこに入っているのかは、
直接、指し示してはいないんです。

でも、
「内から鍵をはずし」
「内から鍵をかけた」
といった表現で、

読者の頭の中には、
檻の中にいる
「人嫌い」がバッチリ
イメージできるのです。

また、「檻」と
直接書かないことによって、
捉え方に広がりがあるのも、
この作品の大きな特徴ですね。

なにせ、「人嫌い」の
ライフスタイルって、
なんだかその辺にいる
サラリーマンみたいじゃないですか。

朝早くきて、
終業時間になったら帰る、

入る場所を
「檻」ではなく、
「会社」に置き換えたら、
立派なサラリーマンです。

あなたの職場にもいませんか。
いつも天井ばかり見つめて、
ボッーっとしている
「人嫌い」が(笑)

このように、
何か特定のモチーフを
描く場合にも

直接的なワードを用いずに、
「広がり」を持たせるのも
「詩」という世界特有の
表現方法でもあります。

『動物園の珍しい動物』は、
そういった手法の
代表的な作品とも
いえるのではないでしょうか。

逆に具体性を
強めているのは、
この動物園が「セネガル」の
動物園とされているところです。

この記事を書いていて
思い出したのですが、

その昔、欧米では、
アジアやアフリカの民族を
展示する

「人間動物園」なるものが
ありました。
(日本でも万博などで
 そういう展示がされた)

もちろん、これは
「植民地」などに通じる、
人間を優劣で捉える
愚かな行為です。

もしかすると、詩の中で
わざわざ「セネガル」と
書いてあるのは、

そういった悪しき文化に対する
ブラックユーモアなのかも
しれません。

当時のセネガルの
人たちからすれば、

先進国の人間は、
物珍しいでしょうね。

「詩」に正解はないので、
どんな捉え方もできますが、

そんな悪しき歴史を知っていると、
社会風刺も感じられる
作品になっています。

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