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テレビレビュー『いりびとー異邦人ー』(2021)全体に漂う不穏な空気と美しい京都の街並み



原作は美術の造詣が深い
原田マハ

2021年に WOWWOW で
放送されたドラマです。

配信になって、
ようやく観ることができました。

観はじめるまで、
知らなかったのですが、
原作は原田マハの小説です。

原田マハといえば、
以前にも書籍レビューで、
『暗幕のゲルニカ』を
取り上げたことがありました。

原田マハは、
美術館のキュレーターも
務める作家で、
美術の造形が深い方です。

そんなわけで、
本作も美術が深く関わる
ストーリーとなっていました。

心に孤独を抱える主人公、
京都で名画と出会う

主人公のたかむら菜穂(高畑充希)は、
祖父の代から続く、
美術館の副館長を務めています。

東京で夫と二人暮らしを
していましたが、

出産を控えたのをきっかけに
京都の仮住まいで
暮らしていました。

(夫は仕事のために
 東京にいる)

菜穂の美術館には、
数々の名画がありますが、
中でもモネの『睡蓮』は、

祖父と菜穂が大事にしてきた
思い入れのある作品です。

しかしながら、
菜穂には両親や夫とは
相いれないものがありました。

両親や夫は、
あくまでも「ビジネス」として
美術品を扱っています。

芸術の世界に心酔し、
作品を愛でるような
気持ちは薄いのです。

なんとなく、菜穂は、
京都から離れることが
できないでいました。

そして、ある時、
訪れた画廊で、
一点の素晴らしい絵画と
出会います。

木々の間からこぼれる
光を描いたような
幻想的な一枚でした。

それは小さなキャンバスに
描かれた作品でしたが、
菜穂にはその絵画が
画面からはみ出して、

その世界に包まれるような
瞬間を体験するのです。

絵画を描いたのは、
有名な画家である
志村しょうざん
(松重豊)の弟子、

白根たつるの作品でした。

彼女はまだ画家としては
デビューもしておらず、
無名の新人です。

彼女の作品に
ひとめぼれした菜穂は、
それらの作品を世に広めたい、
という思いから、

京都から離れることが
できなくなってしまいました。

最初は京都にいる自分を
「よそからやってきた
 異邦人のよう」
と言ってたにも関わらず、

その街の魅力にひかれ、
徐々に京都の人になっていきます。

そして、家族との溝は
深まっていくことになり、
祖父の代から続く美術館にも
危機が忍び寄るのでした。

全体に漂う不穏な空気と
京都の美しい街並み

原作を読んでいないので、
正確なところはわかりませんが、

ドラマ版の描かれた方は、
ミステリーに近いものがあります。

1話目の最初、このドラマが
どんな場面から
はじまるかというと、

暗い部屋の中で、
ベッドの下に身を隠す少女、
その近くに現われる
男の足音、

このような息を飲むような
シーンから物語が
はじまるのです。

そして、場面が切り替わり、
菜穂の京都での生活、
その家族たちの日々が
描かれていきます。

最初は、冒頭のシーンと
その後の話の結びつきが
よくわかりませんでした。

しかし、観ているうちに、
そのつながりが徐々に
あきらかになっていく、
という構造になっています。

この「謎」が徐々に
明らかになっていくのが、
本作のおもしろいところです。

そして、常に作品全体から
伝わってくる不穏な空気が
あるんですよね。

主人公の夫である
一輝(風間俊介)、
母(森口瑤子)の
一癖ありそうな感じ、

志村照山の不気味さ、
失語症でいつも怯えた感じの樹、

いずれもミステリーっぽさを
さらに引き出しています。

そういったものが
本作の「陰」とすれば、

京都の美しい風景は、
「陽」の部分にあたります。

このような相反する要素が
合わさった本作は、
独特な見応えがありました。

WOWOW のドラマ全般に
言えることですが、

地上波のドラマとは違った、
映画的な映像の作りも
贅沢に感じます。


【作品情報】
2021年放送(全5話)
原作:原田マハ
   『異邦人(いりびと)』
脚本:関久代
監督:萩原健太郎
出演:高畑充希
   風間俊介
   SUMIRE
放送局:WOWWOW
配信:Netflix、U-NEXT、FOD、
   Hulu、TELASA

【原作】

【同じ監督の作品】

『東京喰種 トーキョーグール』
(2017)
『サヨナラまでの30分』
(2020)
『ワンダーハッチ』
(2023)

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