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映画レビュー『blank13』(2018)映画マニア・斎藤工の長編初監督作品



映画マニア・斎藤工の
長編初監督作品

俳優の斎藤工は、
「斉藤工」名義で映画監督
としても活動しています。
(監督名は「斎」の字が違う)

その昔、TSUTAYA が1年に1回
発行していた映画の冊子があり、

そこで斎藤工のインタビューが
掲載されていたことが
あったんですよね。

(インタビューというか、
 著名人のお気に入りの
 10本といった企画)

それを読んで、私は
彼がかなりの映画マニア
であることを知りました。

なので、彼の監督した映画が
どんなものなのか
以前から気になっていて、

今回、ようやく
その長編デビュー作を
はじめて観ることができました。

やはり、映画が好きな人が
作った映画は一味違います。

一つひとつのカットの構図、
各シーンのつなぎ方、
全体の構成、

どれをとっても、
映画好きならではの
こだわりが感じられ、

映像を観ているだけで
おもしろいタイプの作品です。

13年間音信不通だった
父が余命3か月

本作は放送作家の方の
実体験をモチーフにした
作品なんだそうです。

最初はもっと短いコントの
企画だったらしく、

斎藤工からの提案で、
海外の映画祭に出展できる
70分の長さになったとのこと。

そして、本作はそのねらい通り、
各国の映画祭で公開され、
いくつもの賞を受賞しています。

(ゆうばり国際
 ファンタスティック映画祭、
 上海国際映画祭、
 ウラジオストク国際映画祭など)

父親(リリー・フランキー)は、
多額の借金を背負い、
13年前に失踪しました。

その息子の二人を
斎藤工、高橋一生が演じています。

父親の借金のせいで
苦労させられた子どもたちは、
13年間父と会っておらず、
父を憎んでいました。

そんな彼らでしたが、
父がガンを患い、
余命3か月であることが
知らされます。

兄(斎藤工)が、
この話を母と弟に知らせ、
見舞いに行くべきか否かを
尋ねますが、

二人の答えは「否」でした。

もちろん、兄も
父には会いたくありません。

兄や母の前では
否定した弟でしたが、
彼はこっそり、父の病室を
尋ねました。

そこには昔と変わらない
父の姿がありました。

病院の屋上で二人、
たばこを吸いながら、
とぎれとぎれの会話を
していたところに、

父の携帯電話に着信が入ります。

父の電話への対応から、
まだ借金を繰り返しており、
まだお金を借りようとしているのが、
なんとなくわかりました。

弟は呆れて、父の元を去ります。

父への憎しみ、
亡くなってからわかること

本作の冒頭は
「火葬」についての説明から
はじまるんですよね。

(黒のバックに文字で解説が入る)

この解説で興味深かったのは、
火葬というのは、
面積が小さい国で
採用されがちなものなんだそうです。

土に埋めるのに、
容積が小さいほうが
助かるからでしょうね。

そして、その説明のあとに、
前述した父親の葬儀の場面から
はじまります。

たまたま隣のお寺でも、
同じ苗字の方の葬儀が
行われており、

最初は間違って
こちらの葬儀場に来た人たちが
次々に隣の葬儀場に行く光景が
おもしろかったです。

この時に受付をしているのは、
女性(松岡茉優)なんですが、
彼女が何者であるかは、
物語が進んでいくうちにわかります。

このように隣に
同じ苗字の方の葬儀を
持ってくることで、

父が生前、
どれほど人望が薄かったか、
差を見せつける構図になっています。

たしかに父の葬儀に訪れる人は少ないです。

しかし、「人望」
という点においては、
実際のところどうだったのかは、

これもまた物語が進んでいくうちに、
わかっていくことです。

葬儀の場面から、
今度は時代がさかのぼり、

父が失踪する前後の
子ども時代にシーンが
転換していきます。

このパートはなかなか観ていて
つらい感じがありました。

4人家族で借金を抱えて、
日々の生活がままならず、

借金取りが毎日のように、
取り立てにくる
という想像を絶する生活なのです。

そんな中でも、弟には、
多少なりとも父との
思い出がありました。

父とキャッチボールをした思い出です。

しかし、それも父親の失踪とともに、

借金返済のために
朝も夜も働きづめの母の姿を
見ているうちに、
遠い記憶となっていきます。

こんなシリアスなパートが終わると、
再び葬儀のシーンに切り替わります。

ここからが本作のおもしろい部分です。

もともとコントとして
企画された作品なだけあって、
コメディーの部分もよくできています。

数は少ないながらも、
生前の父とつながりのあった人々が
そこには集まっているのですが、

どの人物も見るからに怪しく、
わけありな感じのする人ばかりです。

そして、彼らの口から語られる
生前の父の姿は、
息子たちが知っているものとは
かなり違うものでした。

それを聴いて、息子たちは
何を思うのか、

本作はそういった複雑な心境が
うまく描かれた作品になっています。

身内から見た父、
他人から見た父、
それぞれの人物像に乖離があるのは、
珍しいことではないかもしれません。

私たちは亡くなってから気づくのです。

あの人のことを知っているようで、
何も知らなかったのだなぁと。


【作品情報】
2018年公開
監督:斉藤工
脚本:西条みつとし
出演:高橋一生
   松岡茉優
   斎藤工
配給:クロックワークス
上映時間:70分

【同じ監督の作品】

『ゾッキ』(2021)
※竹中直人、山田孝之との共同監督
『スイート・マイホーム』
(2023)

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