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映画レビュー『私ときどきレッサーパンダ』(2022)年頃の女の子の本音を包み隠さず

※2000字以上の記事です。
 お時間のある時に
 お付き合いいただけると嬉しいです。


ピクサーでは珍しい
女の子が主人公の物語

『トイ・ストーリー』、
『モンスターズ・インク』などで
おなじみのピクサー
25作目の長編作品です。

ピクサーの前々作、
『ソウルフル・ワールド』、
前作『あの夏のルカ』と同様に、

感染症拡大の影響を受けて
劇場での公開を中止し、
配信で公開された作品に
なっています。

ピクサーの作品では
珍しい女の子が
主人公の物語です。

従順で品行方正、
真面目な女の子・メイ

主人公のメイは、
中国系カナダ人の
13歳の少女、

カナダ・トロントの
チャイナタウンにある
由緒正しいお寺の
一人娘でした。

両親の言うことをよく聞き、
学校での成績も優秀、
家の手伝いもよくする
品行方正なメイですが、

人気ボーイ・バンド、
4TOWN の大ファンで、

クラスメイトの友人たちと
その話で盛り上がる時には、
テンションも上がり、

年頃の女の子らしい
表情を見せます。

メイは、コンビニで
アルバイトをしている
男の子に恋をしていました。

ある時、メイは
その男の子との
ロマンチックな
ラブストーリーを妄想し、

その光景をノートに
イラストとして
描いていました。

たまたま部屋に入ってきた
母親にそのノートが
見つかってしまい、
母親はおおいに動揺します。

「娘がタチの悪い男の子に
 そそのかされている!」

そのように解釈し、
激怒した母親は、
コンビニの店員のもとに
殴り込むのでした。

そして、そこで、
証拠として、

メイの描いたイラストを
みんなの前で
見せてしまいます。

ノートに描いてあるのは、
大好きな男の子との
ロマンチックな
ラブストーリーですが、

すべてはメイが妄想で
描いたイラストです。

そんなものを
みんなの前で見せられては、
メイもたまったものでは
ないですが、

両親には逆らえない
従順なメイでした。

しかし、鬱屈とした気持ちは
思わぬ形で少女を
変化させてしまいます。

年頃の女の子の
本音を包み隠さず

本作の予告編を観た時、
愛くるしいレッサーパンダの
キャラクターを見て、

「あぁ、たぶん、
 このキャラが人間と
 絡んでドタバタするタイプね」

という感じで、
すんなり作風が予想できました。

ところが、その予想は、
大きく裏切られました。

タイトルにもあるように、

「私ときどき
 レッサーパンダ」
なんです。

つまり、この作品では、
主人公のところに、
レッサーパンダがくる
のではなくて、

主人公自身が
レッサーパンダに
なってしまうんです。

これは、大きく予想から
外れていました。

これまでのピクサー作品では、

それぞれ個性の異なる
キャラクター同士が
コンビで活躍する話が
定番でした。

しかし、本作は、
メイがレッサーパンダに
なることによって、
物語が進んでいきます。

女の子が主人公
というだけでも、
ピクサー作品としては、
異質な方なんですが、

演出の部分でも
その違いは、
かなり多く見られました。

例えば、メイは、
前述した恥ずかしい
出来事があった次の日に、
身体に変化が起きます。

朝、起きると、
自分が赤くて大きな
レッサーパンダに
変化していたのです。

慌てて、トイレに駆け込み、
バタバタしていると、

母親が心配して、
トイレにいる
メイに様子を伺います。

トイレに籠り、
なんだか変な様子の娘を見て、
母親は、

「例のものが来た」
と勘違いしてしまい、
生理用品を用意します。

こういった描写は、
これまでのピクサー作品では、
考えられないものです。

ピクサーといえば、
どちらかというと、
男の子向けの作品が多く、

そういった女性的な要素が
伏せられているのが
普通でした。

ところが、本作では、
その後も母親が
教室に生理用品を
持ってくるシーンがあり、

そういったものを
隠さずに出している印象です。

また、本作は、
女性監督が手掛けている
というのもあってか、

女性中心の視点が
非常に多く出てきます。

例えば、メイをはじめ、
本作に出てくる女の子たちは、
同年代の男の子たちが
大好きなんです。

そういった様子を
恥ずかしげもなく、
言動に出していくんですね。

個人的には、
本作のそういったところに
新しさを感じました。

これが同年代の男の子が
女の子が好きで、
夢中になっている、

という描写なら、
例にいとまがないほど、
見てきた記憶があります。

でも、考えてみれば、
全然、普通のことなんですよね。

男の子が女の子のことを
好きならば、

女の子だって、
同じように異性に興味が
あるはずなんです。

ただ、それを表に出すか、
出さないかの違いが
あるだけのことですね。

そういった
演出の背景もあって、

本作は思春期の女性が
変化をどう乗り越えるか、
という部分を

おもしろいストーリーにした
作品という感じがあります。

また、これは
主人公が中国系カナダ人
という設定が大きいんですが、

中国の文化では、
「両親などの年上を敬う」
儒教の思想が強く、

そういったしがらみと
どのように付き合っていくか、
というテーマも
色濃く反映されています。

かっこいい異性や
かわいい動物を見て、
目をウルウルさせたり、

そういった描写も
これまでのピクサー作品には
なかった演出で、

女の子的なビジュアルが
前面に出た作品ですが、

奥深いテーマも
違和感なく見せていて
おもしろい作品になっています。


【作品情報】
2022年公開
監督・脚本:ドミー・シー
声の出演:佐竹桃華
     木村佳乃
     関根有咲
配給:Disney+
上映時間:100分

【ピクサーの作品】


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