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映画レビュー『[リミット]』(2010)アメリカを痛烈に風刺した密室サスペンス

目を開けると、そこは棺の中だった

イラクでトラック運転手をしていた
アメリカ国籍の主人公は、
何者かに襲われ、
気がつくと棺の中に閉じ込めれていました。

棺は地中に埋められ、
いくら主人公が暴れても、
びくともしません。

本作は『デッドプール』で
おなじみの俳優、
ライアン・レイノルズが
主演を務めています。

劇中はほぼ暗い棺の中だけで、
展開される密室劇です。

あまりにもリアルなので、
閉所恐怖症の方には、
おすすめしません。

密室劇である理由

本作のように一つの舞台で、
展開される作品は、
描き方によっては、
退屈なものになってしまいます。

多くの映画では、
自由自在に場面転換をしたり、
さまざまな登場人物の視点を
織り込んだりします。

そうすることによって、
現実の世界では味わうことのできない、
映画ならではの体験ができるからです。

しかし、本作では、
そういった要素をすべて捨て、
閉じ込められた主人公の視点でのみ、
物語が描かれています。

これは閉じ込められた恐怖感を
強調するために、
必要な英断でした。

状況に対する説明もないため、
観客は主人公と同じく、
何が起こっているのか、
わからない状態に置かれることになります。

そうすると観客は、
劇中の事態を把握するために、
主人公の携帯電話での外部との
やりとりに注目するでしょう。

事態を把握する手がかりが、
その会話の中にしかないからです。

もしも、これが一般的な映画のように、
複数の視点を入れた作品であったなら、
観客は場面転換のたびに、
緊張感から解放されてしまいます。

決して本作のような、
緊張感が持続する映画には、
ならなかったことでしょう。

現実社会を知ると奥深さがわかる

とはいえ、密室劇です。

動きが少ないがゆえに、
散漫なイメージになることが、
容易に想像できてしまう部類の作品です。

しかし、その点でも、
本作はよくできていました。

シナリオやカメラワークで、
しっかりとメリハリをつけ、
94分間、最後まで飽きさせません。

次々とトラブルに見舞われ、
棺の中の主人公は、
息をつく暇もないのです。

ネタバレをしないために、
これ以上のことは言いません。

ラストに関して、
賛否両論あるタイプの作品だと思います。

ですが、現実のアメリカのことを
多少なりとも知っていると、
本作の感じ方は大きく異なるはずです。

少なくとも、私は、
本作に現代のアメリカを
痛烈に風刺する意図を感じました。

なぜ、中東でこのような問題が、
起きているのでしょうか。

なぜ、主人公は母国に妻子を残し、
イラクに出稼ぎに行かなければ
ならなかったのでしょうか。

これはフィクションの作品ですが、
きっと同じような問題は、
現実に起きています。

単なる娯楽作品としてだけでなく、
社会的な背景も視野に入れつつ、
本作を観ると、
なかなか深い作品に感じるはずです。



【作品情報】
2010年公開
監督:ロドリコ・コルテス
脚本:クリス・スパーリング
出演:ライアン・レイノルズ
   ロバート・パターソン
   ホセ・ルイス・ガルシア・ペレス
配給:ライオンズゲート、ギャガ

【劇中の背景がわかる本】




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