テレビレビュー『南くんの恋人』(1994)'90年代カルチャーが詰まったピュアなラブストーリー
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原作は'86~'87年に『ガロ』で連載
これまでにテレビドラマ化は5回もされており、2024年にも八木勇征・飯沼愛主演(続編の『南くんが恋人!?』)のものが放送されていました。
私自身は『南くんの恋人』を観るのがはじめてで、'94年に放送された2番目の作品(武田真治・高橋由美子主演)を観ました。
すべての作品を観たわけではないので、詳しいことはわかりませんが、なぜ、本作が何度も実写映像化されているのか、気になったんですよね。
何度も映像化されるのは、やはり、原作がよくできているというのがあるのではないかと思います。
もちろん、時代によって設定を変えている部分もあるとは思いますが、おそらく、本作には時代を経ても変わらない「普遍性」があるのでしょう。
主人公は高校3年生の二人
堀切ちよみ(高橋由美子)、南浩之(武田真治)は幼なじみです。
お互いのことが好きなんですが、その想いを伝えることができずにいました(この手の恋愛ものではよくある設定)。
ある時、トラックにひかれそうになったちよみは、その衝撃で身体が小さくなってしまいます。
その大きさは15センチで、実際の身体の大きさに比べて10分の1になってしまったのです。
ちよみは、わけもわからず、側溝に流されたり、その辺にいたアヒルに追い回されたりしながら、南の家にたどり着きます。
小さくなったちよみを見て、当然のことながら南は驚きますが、このことは二人だけの秘密にして、一緒に生活するようになるんですね。
冒頭に述べた本作の「普遍性」は、この設定に詰まっている気がします。
10代の子どもにとって、好きな人とずっと一緒にいられるのは「夢」のような状況ですよね。
その状況に加えて、「ちよみが小さくなってしまったのは二人だけの秘密」であるという設定も重要です(周りに隠しているのは、病院に連れていかれ、モルモットのような実験台にされることを恐れたため)。
南は、ちよみをうまく隠すために、いろんな手段を使って生活していくことになります。
この健気な態度が、多くの人の琴線に触れるのではないでしょうか。
'94年版の魅力は'90年代ならではの雰囲気
キャスティングから見ていくと、当時、アイドル(もしくはアイドル的なポジション)だった武田真治、高橋由美子、千葉麗子といった若手俳優の魅力があります。
武田真治は、現在では「筋肉体操」のイメージが強いでしょう。
デビューしたばかりの頃は、「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」出身のフェミニン(女性的)な俳優として人気でした。
現在のイメージと比べると、かなりギャップがあるでしょうね。
高橋由美子は当時、俳優活動と歌手活動を並行して行なっており、'90年代には「20世紀最後の正統派アイドル」とも言われていました。
彼女は、その後『ショムニ』シリーズ('98~'13)でも、アクの強い役どころで個性を発揮することになります。
その片鱗は、本作でもすでに見られ、「喜怒哀楽」が伝わりやすいメリハリのある演技が光っていました。
相手役の武田真治は、どちらかというと平たんなイメージなので、この相性がとても良かったですね。
ちよみのライバル・野村リサコを演じたのは、千葉麗子です。
彼女は'90年代にパソコン雑誌などによく掲載され、自身もパソコンに詳しかったことから「電脳アイドル」という異名を持っていました。
その個性は本作でも発揮され、今では懐かしいインターネット黎明期のパソコンを駆使する描写が多く出てきます。
メインはこれらの若手俳優が務めていますが、デビューして数年とあって、さすがに「重み」には欠けています(いや、むしろ題材的には10代向けなので、この軽さが大事)。
それを補うためにキャスティングされたと思われる、ベテラン俳優(高田純次、草刈正雄)の安定感も素晴らしかったです。
本作にはまだ「携帯電話」が一般化する前の'90年代的な空気が詰まっています(劇中にそういった時代背景の描写が頻出)。
また、「ちよみが小さくなっている」という物語の設定上、特撮が多く使われているのも、大きな特徴です。
小さくなったちよみが、南の部屋にいる描写の多くは合成を使って作られています。
そういったシーンは、今の目で見るとつたなさも感じられるでしょう。
しかし、本作は技術の足りなさを工夫で補強しているところが多く見られ(特撮ではなく、小さくなったちよみの視点を挟むなど)、そういう工夫のおもしろさがわかると、また一段と本作の魅力は深まるでしょう。
CG を使ったオープニングは、いかにも当時の「Mac で作った」という感じの映像で、粗さも感じられるのですが、これもまた当時の空気感を伴っています。
同様に音楽でも打ち込みの電子音が多く使われており、今のドラマの劇伴とも違った、この時代ならではの魅力があります。
【原作】
【中山史郎演出の作品】