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映画レビュー『東京物語』(1953)日本ならではのドライな家族観

どこまでも穏やかな作品

「映画好き」を
公言していながら、
「未だに観たことがない」
という作品が多々あります。

中でも、小津安二郎監督は、
20代の頃から、

いろんなところで
その名前を
見かけていたにもかかわらず、

ずっと観ることが
できずにいました。

この度、大変失礼な
話ではあるのですが、

体調の悪い日に、
早めに布団に入って、
なかなか眠れず

おもむろに
「眠たくなりそうな
 映画を観よう」

ということで、
本作を観はじめました。

なんとなく小津監督の作品が
気になってはいたのですが、

なんとなく自分には
合わないのではないか、
という気がしていたんですよね。

ところが、観はじめると、
これが不思議なことに、
夢中になって、

結局、最後まで、
しっかり観てしまいました。

そして、これがとても
穏やかな雰囲気で、
すごく良かったんですよね。

寝る前に観るには、
ピッタリな感じだと思います。

自立した子どもたちと
親の関係

物語の主人公は、
広島の尾道に暮らす
老夫婦です。

夫婦には、
5人の子どもがいて、
一番下の次女以外は、

自立して、
それぞれの家庭を
持っています。

(長男、長女、
 次男、三男、
 次女という構成。
 次男は戦死している)

ある時、思い立って、
夫婦は東京にいる
息子、娘たちに会いに行きました。

最初は歓迎ムードだった
息子、娘たちでしたが、
両親が長く居座ることで、
次第に億劫になっていきます。

東京案内をしながら、
どこかへ連れて行ってやりたい、
親孝行もしてあげたい、

そういう気持ちが
ないわけではないんですが、

それぞれ、仕事も忙しく、
なかなか時間もとれません。

いつも通りの
暮らしもある中で、
急に現れた両親の存在は、

時に疎ましくすら、
感じられてしまいます。

そこで、息子たちは、
戦死した次男の嫁、
紀子(原節子)に

両親への東京案内を
頼んだり、
熱海の旅館へ泊まらせたり、

なるべく、自分たちの
手を煩わせずに済む方法で、
両親をもてなしました。

そして、ようやく、
両親が帰ると、
母が電車で体調を崩した
という報せが届きます。

東京では元気だった母が、
急に体調を崩したことに、
息子たちは困惑するのでした。

日本ならではの
ドライの家族観

前述したように、
小津監督の作品は、
はじめて観ましたが、

画面の作り方が、
同時代の作品と比べても、
かなり個性的で、

そういう部分に、
本作の魅力が
隠されている気がしました。

小津監督の作品で、
特に有名なのが、
独特なカメラの視点で、

一般的な作品よりも
視点が低いのが特徴的です。
(ローアングル)

多くのシーンは、
カメラを動かさず、
固定になっています。

丁度、部屋の中を
覗くような構図で、

四角い画面の中を
役者たちが動き回って、
動きを付けた印象です。

(画面のサイズが
 今の映画とは違い、
 正方形になっている)

また、セリフを言う役者を
真正面から捉えた画面が
要所要所で挟まれます。

このカットは、
強烈な個性を感じさせつつ、
リアリティーも
両立させているんですよね。

なんせ、真正面から
役者を捉えているわけですから、

カメラ目線で、
こちらに向かって、
語りかけてくるような
臨場感があるんです。

長いこと、いろんな映画を
観てきましたが、
こういう映像は、
観た記憶がありません。

このようなカットが
違和感なく
盛り込まれているところに、
すごさがあるんですね。

物語的には、
それほど起伏に富んだ
内容ではありません。

淡々と事実を伝えていく、
そんな印象でした。

ところが、それが
観ていて、全然飽きないんです。

画面の構図が
緻密に計算されていて、

どの画面も限られた制約の中で、
これでもかというほどに、
魅力的な構図になっています。

また、小津監督は、
本作のような「家族」の話を
よく描かれたそうなんですが、

一般的な家族愛を
題材にした作品とは違い、

極めてドライな視点で
まとめられているところに
とても好感を持ちました。

私自身もこれまで、
家族との関係については、
いろいろ考えさせられましたし、
悩むこともありました。

でも、本作を観て、
「そうそう、これが普通なんだよ」
と、思いました。

子どもは成長すれば、
親から離れるものです。

それは決して、
悪いことではなくて、
自然の摂理とも言えるでしょう。

ただ、親の目線からいけば、
そこに一抹の寂しさも
感じてしまいますね。

そんな切なさを
ほのかに漂わせながら、
本作は終焉を迎えます。

家族について、
特に「日本人の家族観」を
考えるうえでも、

本作は貴重な作品の一つ
と言えるでしょう。


【作品情報】
1953年公開
監督:小津安二郎
脚本:野田高梧
   小津安二郎
出演:笠智衆
   東山千栄子
   原節子
配給:松竹
上映時間:136分

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