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映画レビュー『スナッチ』(2000)簡略化の美しさ・滑稽さが詰まった作品

※2500字以上の記事です。
 お時間のある時に
 お付き合いいただけると嬉しいです。

注意!ブラピが主役ではない

この映画を紹介するうえで、
最初に断っておくべきことは、

DVD のジャケットの中央に
ブラッド・ピットがいますが、
彼が主役ではないということです。

たぶん、公開当時、
彼を目当てにこの映画を観て
ガッカリした人も
いるのではないでしょうか。

もちろん、ブラピも
ただの脇役ではなく、
重要な役どころですし、
見応えのある演技を披露しています。

ただ、それが、
彼のファンにとって、
望ましい形だったかと言われれば、
心もとないところもあります。

もちろん、私にとっては
大好きな作品です。

ただし、それが誰にでも
オススメできるかというと、
この作品はなかなか癖のある
作品と言わざるを得ません。

まず、本作の難しいところは、
主人公がはっきりしない部分ですね。

たくさんの登場人物が
次々に出てきて、
場所も人物も
どんどん切り替わっていきます。

人によっては、
人物の見分けがつかなかったり、
物語が理解できなかったり、

といった障壁が多い作品
なのかもしれません。

しかし、私はここに断言します。

20年以上前に公開された作品で、
これまで見落としていたのですが、
これは間違いなく名作です。

特に、映像という点において、
これほど完成度の高い作品は
そうそうあるものではありません。

集中して観れば、それほど難解ではない

本作は、ストーリーを説明するのも
なかなか難しいです。

なかなか突拍子もない場面から
話がはじまります。

スーツに身を包んだ、
とある男、二人が

年輩とおぼしき男性になにやら
話を聴いているところから
シーンがスタートするんです。

この時に、誰かの語りが
ナレーションのように入りますが、
誰の声かわかりませんでした。

話を聴いている側の二人は
口を閉じているので、
当然、声が聴こえるはずは
ありません。

一方で、それに対する
語りかけているような感じの
年輩の男性は、

カメラに背を向けているので、
彼が喋っているかどうかも
よくわからないのです。

このわからない状態のまま、
観続けていると、
画面が急に切り替わります。

防犯カメラらしき画面に、
ラビ(ユダヤ教の聖職者)の
服装をした複数の男たちが

どこかの建物へ入っていく姿が
映し出されます。

ラビ
Wikipedia より引用

この時の映像の魅せ方が
ものすごくおもしろいんです。

複数のモニターを横断するように、
シーンが繋がっていきます。

やがて、ラビの格好をした彼らは、
建物にいた人たちを銃で脅し、
そこに隠されていた
ダイヤモンドを奪っていきました。

この間も、冒頭に聴こえた
男の問わず語りが流れ続けます。

そして、再び、シーンは、
冒頭のスーツ姿の男達に
切り替わることで、

つまり、この声は、
この二人の男の片割れの
ナレーションである
というのがはじめてわかるのです。

こんな風に文字で説明しても、
ピンとこないかもしれませんが、

本作の冒頭は、
敢えてわかりにくく
作っている気がしました。

わかりやすくしようとすれば、
素人の私から見ても、
いくらでも改良の余地があります。

しかし、敢えてそうしなかったのは、
観客に「?」と思わせて、
一気に画面の中に惹きつける
意図があったのでしょう。

もしかすると、
この冒頭のシーンだけでも、
観る人によっては、
不可解かもしれません。

しかし、ここで立ち止まらず、
じっくり付き合って
いくことによって、

徐々に物語のことが
わかっていきます。

なんせ、これは冒頭の
数分のシーンのことです。

その間に画面の中には、
キャストやスタッフの
クレジットが表示され、

実にカッコいいオープニングが
展開されます。

序盤から、続々と
新たな登場人物が出てきますが、
ここで、ひるんではいけません。

このオープニングシーンが
何を意味していたのか、

その本当の意味がわかるのは、
エンディングです。

その達成感を得るためにも、
少々の難解さは許容して、
最後まで観ることをオススメします。

簡略化の美しさ・滑稽さが詰まった作品

ストーリーのことを書くのは、
このくらいにして、
映像のことを書きましょう。

ストーリーもおもしろいですが、
なんせ、映像が素晴らしい作品です。

この作品を観て、
シナリオのことだけに
終始するのは、はっきりいって、
もったいないです。

なんといっても、
本作はテンポが抜群に
いいんですよね。

画面の展開のしかたに
一切の無駄がないんです。

例えば、本作のおもな舞台は、
イギリス・ロンドンですが、

劇中には、アメリカの
マフィアの親分も出てきます。

彼は弟のゆくえを探していて、
(冒頭でダイヤを盗んだ男)
ロンドンにいる知人に
電話を掛けるんですね。

そういえば、本作は、
電話のシーンも印象的です。

電話で話すシーンでは、
画面をワイプにして、
(塗り替えるような切り替え。
 wipe=拭き取る)

違う場所にいる二人の人物を
二つの画面で映し出しています。

こういうカットの挟み方は、
まさに効率重視の画面構成ですね。

そして、電話を切った
アメリカのマフィアのボスは、
耐え兼ねて、
自らロンドンへ赴くのですが、

この時の魅せ方が
実におもしろいんです。

これも文字で書くと、
あまり伝わらないかもしれませんが、
敢えてやってみると、

「飛行機に乗る」
「機内で酒を飲む」
「パスポートを見せる」
(入国のスタンプが押される)

これらのいくつかの
ごく短いカットを
高速でつなぎ、
(時間にして数秒)

あっという間に彼は
ロンドンの知人の元にやってきました。

文字や言葉で説明するのではなく、
敢えて、視覚的にこれを
簡略化して見せるのです。

その小気味よさ、
簡略化された爽快感といったら、
このおもしろさは、
なかなか言葉では伝えられません。

本作は映像に関して、
いろいろと書きたいことが
あるんですが、

とても全部は書ききれないので、
(1万字くらい書けそう(^^;)
またの機会に改めます。

最後に、本作の難解さについても、
いろいろ書いてきましたが、

一つだけ、親切な部分を
強調しておくと、

たくさんの登場人物が出てきても、
混乱しないように
少しだけ配慮している部分も
ありました。

それはロシアの武器商人が
登場するシーンです。

この人物は
それほど多く出てこないので、
たぶん、観客が「?」
となるのを考慮したんでしょうね。

(このような群像劇において、
 登場する頻度の少ない人物は
 忘れられがち)

彼が登場すると、
必ずロシア民謡の
「コロブチカ」が流れます。
(『テトリス』で有名な曲)

その牧歌的な響きと、
劇中の殺伐としたシーンの
アンバランスさが
また滑稽なんですよね。

マフィアなどの裏社会を描いた
シリアスな作品でありながら、
さりげないコメディーの部分も
よくできた作品になっています。


【作品情報】
2000年公開(日本公開2001年)
監督・脚本:ガイ・リッチー
出演:ベニチオ・デル・トロ
   デニス・ファリーナ
   アラン・フォード
配給:コロンビア映画
   スクリーン ジェムズ
   SPE
上映時間:104分

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※トップ画像は
 公式サイトからお借りしました。

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