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自然写真家より・・普通の自然が、貴重な写真

求められる写真は、だれもが見られて、だれもが触れる自然

僕がヤマセミに魅かれて、写真をはじめたように、多くの若手がスター性のある被写体を最初に撮りはじめます。
それは、クマであったり、モモンガであったり、ワシやタカ、最近であればシマエナガなどのアイドル的な被写体といったところでしょうか。
とは言っても、それを否定しているわけではありません。
あくまでも、趣味で撮り続けるのであれば、何を撮っていても良いのですが、仕事として現実的に一番求められるのは、「身近な普通の自然」なのです。
あまりに普通すぎて、それを真剣に撮る人が限られるため、市場では貴重な写真になるわけです。

著書・「時間のコレクション」より

上の写真は、僕の著書「時間のコレクション」(フレーベル館)のひと見開きです。ご覧の通り、1枚の葉が紅葉していくようすを、定点撮影したものです。当時は、フィルムカメラでしたから、狙った葉が途中で落ちてしまったり、虫に食われてしまえば、そこまでのフィルム代、現像代がすべて無駄になってしまいます。
ですから、何枚かの葉を定点で撮影しなければならず、フィルム代も現像代もバカになりませんでした。
ただ、こうして完成した葉の紅葉定点写真は、カメラがデジタルになり、フィルム代、現像代がかからなくなった現在でも、見たことがありません。
要するに、こんな地味で手間のかかる写真を、楽しんで撮る人がいないということだと考えています。
言い換えて見れば、誰もいないからこそ、葉の色変化となれば、僕の写真が使われることになるわけです。
こんな普通の写真を、たくさん撮ってきたので、40年も写真家を続けてこられたのだと思っています。

普通を撮ることが、面白いと感じる人は、自然写真家に向いています

先に上げた、スター性のある被写体を撮った写真は、僕が若いころから、その先駆者がいて、正直な感想として、その先駆者たちを越えているという感動はありません。
ここ最近、僕と同年代で、同時代に活躍していた写真家たちが、相次いで亡くなっています。
僕も、エンディングノートの一環として、経験を踏まえ、あれこれ書いているのですが、自然の面白さや、不思議さを子供たちに伝えるためにも、もっと身近な、当たり前に見ている自然を、しっかり撮れる写真家の出現を期待しています。
現在でも、そんな若手写真家が何人かいますが、「若手」といっても皆さん50歳代です。そんな若手は、それぞれ得意分野があり、中心的に狙う被写体は違っていますが、皆さん自然大好き人間ばかりです。
やがて、僕を含めて、そんな若手たちも老いていきます。男女を問わず、野山を駆けまわる体力のある若者たちの中から、僕たちの後を継いでくれる自然大好き写真家の出現を、首を長くしてお待ちしています。

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