小さな田舎町に、2軒もシェアハウスをつくるつもりなんてなかった
やるつもりなんてなかったのに、気付いたら自分の中でやることが決まってしまっていて、ごく自然に「大きな決断」をしている。そんな経験はないでしょうか。
私たちは、2016年に東京からここ大分県竹田市に家族で移住してきました。それから、現在の間に、2軒のシェアハウスをセルフリノベーションしてオープンしました。1軒目のシェアハウスにはオーナーである私たち家族(夫婦と3人の子どもの5人)が住人とともに住んでいます。
移住も、1つ目のシェアハウスも、2つ目のシェアハウスのオープンも、そして家族でシェアハウスに住むことも、ほんとに計画性なく、ごく自然に決断してしまっていました。
でも、そもそもは持ち家だって面倒で、不動産を持つつもりなんてなかったし、共同生活だって面倒だと思っていたのです。
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もっとも最近の出来事は、2つ目のシェアハウスのオープン。これは、2022年11月のことです。
名前は「暮らす実験室 SIKA」。築50年を越す、元歯医者さんと、歯医者さんがご家族で住んでいた住居部分を合わせた物件を、約1年半かけてセルフリノベーションしました。
1軒目のシェアハウス「暮らす実験室 IKI」も、同じく大分県竹田市の城下町にあります。
そこから歩いてたった5分のところに、もう一つのシェアハウスを、つくってしまった。
そもそも、田舎でのシェアハウス運営はリスクが多い
私たちが住んでいる大分県竹田市は、まぁ田舎です。市全体で人口は2万人を切っていて、高齢化率は48.2%。シェアハウスというと、都市部にあるイメージはありませんか?それには十分な理由があります。都市部は住宅のコストが高いので、キッチンやお風呂などのインフラを含め空間シェアすることでコストを抑えられるシェアハウスには明確なニーズがあります。
※人口に対する65歳以上の割合。令和2年国勢調査より
それに対して、田舎はというと。探そうと思えば、2万円くらいから空き家を借りることができる。運が良ければタダで住めるなんていうことも。シェアハウスの「安さ」という魅力が際立たないわけです。
しかも、シェアハウスという文化に馴染みとニーズがあるのは、圧倒的に20代〜30代。人口が少ない上に、高齢化率が高い田舎には圧倒的に不足している存在が若者です。シェアハウスのコスト面の強みが際立たず、ターゲットも少ない。そりゃあ、田舎まちにシェアハウスができないわけです。
ということで、1つめのシェアハウスをはじめるのだって躊躇したのです。でも、ひょんなきっかけで、2つもシェアハウスをすることになるのです。
シェアハウスにぴったりな物件をみつけてしまった
1つ目のシェアハウス「暮らす実験室 I K I」をはじめてから2年ほどが経ったある時(2021年2月のはじめでした)、夫のまさしとともに城下町を散歩していると、ある物件の前に「管理物件」という文字とともに、不動産会社の電話番号が書いてある看板が立っていました。
しほ 「管理物件だって」
まさし「売ってるってことかな?」
しほ 「いくらぐらいなんだろ?」
まさし「きれいだし、場所もいいし、高いんじゃない?」
しほ 「500万円くらい?」
まさし「わかんない」
しほ 「いくらなんだろ?」
まさし「・・・・・・」
しほ 「電話してみる?」
電話してみたところ「料金は、調整できますので!」とはっきりしない回答で、「いったん、内見しますか?」とのこと。翌日に、不動産屋さんがきて案内してくれることになりました。
歯医者さんだった、その古い建物の中へ
その日は、くもり空でした。不動産屋のおじいさんが、歯医者さんの鍵を開けてくれました。
ファイルや文房具が並ぶ受け付けがあって、その奥には、診察室であっただろう部屋が広がっていました。
診察台を取り除いたことがわかる床の跡。
歯科技工士の方が使ってたであろう、小さな部屋もあり、そこを抜けると、かつて歯医者さんがご家族で住んでいたであろう空間に入っていきます。
一階に二部屋。二階には四つの部屋がありました。特に二階は日当たりがよくて、くもっていたのに、電気がいらない明るさでした。
使われなくなって久しいものばかりだったけれど、カーテンもソファもテーブルもセンスがよくて、ていねいに選ばれたものなんだろうとわかりました。
内見が終わって、生後3ヶ月ほどの三女を抱っこしながら、夫と歩きました。
「シェアハウス向きだったね」と言いました。
「そうだね」
「なんか、よかったよね」
「そうだね」
「でも、シェアハウス、もうひとつするのって、どうなの?」
「だよねぇ・・・」
話しながらも私の頭の中では、リノベーションのイメージがもわもわもわと膨らみ続けていました。
城下町の人口の2%が「暮らす実験室」のメンバーになる?
その頃、わたしたちは子育て世帯向けの小さな賃貸物件を作りたいと考えていました。子育て世帯向けの賃貸物件には明確なニーズを感じていたし、小さな物件ならば自分たちのスキルでもそう無理なくリノベーションできるだろうと。
でも、見つけた物件は、どっからどうみても小さくない物件で、ひと家族で住むには大きすぎる。シェアハウスにするには…ぴったりでした。
私は夫のまさしさんに聞いてみました。
「もしも、あそこもシェアハウスにしたら、何人くらい入るんだろう?」
「7人とか、8人とかじゃない?」
「今、IKIに11人住んでるでしょ?新しいシェアハウス が満員になったとしたら、2つのシェアハウスの住人は合わせて…19人!?え〜この城下町で、20人くらいがシェアハウス生活してる状態って、やばくない?!」
この大分県竹田市の城下町(中心市街地と呼ばれるエリア)の人口はだいたい1000人くらいだと言われています。その中での約20人とすると、人口の2%が「暮らす実験室」のメンバーだってことになります。
私たちががきっかけで、誰かがこのまちに住むことになるなんて
住人が入るんだろうか?と不安に思いながらはじめた1つ目のシェアハウス「暮らす実験室 IKI」はしばらく満室が続いていました。しかも、その頃は、ちょうど毎月のように入居の問い合わせがきていました。その度にお断りをするのをもったいなく思っていたのです。
問い合わせの半分くらいは、竹田には縁もゆかりもないけれど、移住先を探している中で、「暮らす実験室 IKI」を見つけたというものでした。
それって、すごいことだと思っていました。
私たちがはじめたことがきっかけで、誰かがこのまちに住むことになるなんて。そんな人たちが増えていけばめちゃくちゃ楽しいだろうな。
満室が続いていたことから、お断りしていた「移住の可能性があった人たち」も、新しいシェアハウスがあれば受け入れて行くことができるんだ。
竹田の魅力は人だった
そういえば私たちが、ここ大分県竹田市に移住してくるきっかけは、人でした。移住の下見旅行で竹田を訪れた3日間の間に印象的だった、まちの未来を自分ごととして語る、竹田の人たち。
「おれは、竹田がこうなったらいいと思うから、こうしている」
「竹田にないのは、これだと思うからこうする」
「竹田には可能性しかない。だからおもしろい」
東京に住んでいた頃、まちの課題解決は、行政がやるものだという感覚がありました。その感覚を覚えることもないほど、まちのあれこれは、遠い、他人事。保育園が足りない、ここのエリアが荒れてる、ここで誰かが困っている。そんなことは、大きな社会の問題で、わたしは目の前の小さな自分の世界で手一杯。そんな態度が当たり前だと思っていました。
だから、竹田の人たちがまちのことに関心を持って、プライベートで取り組もうとしていて、自分がまちに対して何かできると思っている感覚が新鮮だった。かっこいいと思いました。
わたしも、まちの未来に対して、なんらかの前向きなアプローチがしたい。正直、そんなことを、明確に思ったことはありません。
でも、自然とまちのあれこれを自分ごとだと捉え、動く、竹田の人たちのそんな態度は、私たちの中に取り込まれていったように思います。
竹田のまちの未来は、ごく自然と、自分ごとになっていった。
「あるほうの」未来をみたいと思ってしまった
「暮らす実験室 SIKA」となる、歯医者さんだった物件に出会った時点で、私たちが竹田に住みはじめて、ちょうど3年がたっていました。
わたしは、もう一つのシェアハウス ができた、竹田という町の未来を想像してしまいました。
この城下町に、暮らす実験室を拠点に、若者たちが暮らしはじめる。リモートワークする人もいれば、竹田で勤める人もいれば、事業をはじめる人もいるでしょう。スーパーで買い物するだろうし、飲みにも行くし、ごはんも食べる。みんなで温泉に行ったり、遊びに行ったり。友だちを呼んだりもする。
これまでにほとんど見かけることのなかった、この城下町で暮らす若者の姿が素ここで見える。
わたしは、その未来を見たいと思ってしまいました。
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その後、夫のまさしとどんな話をしたのかはよく覚えてません。
そんなにリスクや今後の計画なんかも話さずに、ただ「いいね」「ありだよね」と合致したような気がしました。
ついこの間、あの時の決断ってなんだったんだろう?と夫に投げかけたところ
「ビジネス視点で考えたっていうより、竹田の町のなにかに、賭けた感じだよね」という答えが返ってきました。
うん。そう思います。
そうして、不動産屋さんとの話が進んでいきました。
毎週金曜日に「暮らす実験室 SIKA はじまりの物語」を更新していきます。
何も考えず壁も屋根もぶっ壊してあたふたしたり。
シロアリ被害に泣いたり。
進まなすぎて行き詰まり?私がまさしをボコボコに殴ったり!
ほんとうにたくさんの人が助けに来てくれたり。
いろんな出来事を、書き残して行こうと思います。
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