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(16)営業組織には「継続的な人材採用」と「退職の最小化の努力」が同時に必要(ミドル期)

スタートアップ「ミドル期」の4番目の記事です。
※ミドル期:一般的には「事業拡大に向けた投資を加速し、成長に差し掛かった段階」を意味します。

今回は、課題(16)「営業組織には「継続的な人材採用」と「退職の最小化の努力」が同時に必要」です。

課題16営業組織は継続的な人材採用と退職マネジメント

①成長の曲がり角

2010年4月、企業研修サービス業界は大きな向かい風の中にありました。
約1年半遅れで、2008年に発生したリーマンショックによる世界的不況の影響を受けることになったのです。

リーマンショックの翌年の2009年にはあまり影響を受けませんでした。
当社アルー株式会社が、大手企業を主要な顧客としており、大手企業の予算編成のタイミングでは2009年は例年通りの研修の企画遂行が成されたためでした。

しかし、世界的な不況により業績を悪化されていた多くの大手企業は翌年にに向けてはコスト削減を進められていました。コスト削減の一つとして2010年4月入社予定の新卒採用人数を絞ったり、取りやめたりする企業もありました。

当社が研修事業立ち上げ直後から数年に渡り、新入社員研修でお取引を続けてきた主要顧客も、2010年新卒採用を取りやめられました。取引金額も大きなお客様でしたので、当社にとっては大きな打撃でした。

振り返ってみれば、バブル崩壊後の不況の90年代を乗り越えて、2003年頃から日本経済は好景気・成長軌道に乗っていました。当社もそうした好景気の中で事業チャンスを得てきた会社でした。

代表的なものとしては、2000年代の大企業の新卒採用人数の増加に合わせた、新入社員・若手社員向け研修プログラムを開発したことで、マーケットチャンスを捉えることができてきたのです。

しかし、その新卒採用分野のシュリンクにより、私達は事業の成長のために新たな取り組みをしなければならなくなったのです。


また2009年末をもって、当社の創業から営業面を大きく支えてこられた取締役副社長の高橋浩一さんがご退任をされました。アーリー期では、会社の売上の9割をお一人で稼いでこられたスーパー営業力をお持ちの方でした。

2007年に営業組織の体制拡充と、仕組みづくりと組織化に取組んできました。そのためこの時点において一人のスーパーマンに依存していたわけではありませんでしたが、それでも接戦の大型コンペティションの勝敗に深く関わられていました。

当社の営業競争力は、大きく低下してしまいました。


もう一つ、当社は創業の頃より、株式上場を目指していました。初期の会社の目標の一つに2010年までに東証マザーズへの上場というものを掲げていました。しかし、リーマンショックの影響による上場マーケットの混乱と低迷により、当時の当社の企業体力・体制整備の程度では到底上場ができるような状態ではありませんでした。


得意分野の市場の縮小、自社営業力の低下、上場という成長のためのステップが遠ざかるという中で、私達は大きく2つの方向の取組みを進めていくことになりました。


②「グローバル」への挑戦

一つの取組みは、当社のグローバル展開、そして顧客向けのグローバル人材育成サービスへの進出でした。

2009年秋に再設定をした新ヴィジョン「アジア人材育成№1となる、事業創造と人づくりで継続成長するグローバル企業」に向けて、全力で取組みをスタートしました。

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2010年に、中国上海に、当社初となる海外現地法人を設立しました。
元大手人材サービス会社出身の陳さんに当社にご参画をいただき、アルー上海の初代総経理(社長)にご就任いただきました。
上海の日系企業に対する人材育成サービスの立ち上げに取り組みました。

その後、2011年にインド現地法人(デリー/グルガオン)、2012年にシンガポール現地法人インドネシア現地法人(ジャカルタ/~2015年に撤退)、2013年にフィリピン現地法人(マニラ)という形で最大5か国への海外展開に取り組みました。

同時期に、欧米系企業との事業提携にも取り組みました。
米国の大手人材育成コンサルティング会社様と事業提携を行い、世界的に多くの実績がある高品質なアセスメント、および組織開発プロジェクトの日本国内展開にも取り組みました。

本提携を実現するために、私を含む数名でアメリカ本土への出張もいたしました。米国出張では、ロサンゼルス近郊の先方拠点で1週間程の研修を受講をさせていただきました。最終日の夜には先方マネジングディレクターの別送にご招待をいただき、広大なゴルフ場に隣接する解放的な庭でバーベキューをご馳走になりながら、日本国内での販売成功の期待を伝えられました。
この件はその後2年程取り組む中で、当社による販売が思わしくなく残念ながら業務提携を解消する結末となりました。


そして日本国内のお客様に向けて、当社オリジナルの事業開発として「グローバル人材育成サービス」に取り組みました。
リーマンショックをきっかけに、国内需要の縮小・低迷に直面していたのは、当社のお客様もそうでした。当時多くの日本企業が、海外事業での成長という戦略を推進されており、そのためにはグローバルで成果を出せる人材が必要という、人材育成の需要が急速に増加しました。

当社はグローバル人材を育成するための研修として、日本国内での教室型研修プログラムの開発に取り組みました。(グローバルコミュニケーション100本ノック)

そして、更に「海外派遣型研修」という形にサービスが発展していきました。特に当社は急成長が見込まれるアジア新興国地域への滞在をしながら、様々なトレーニングアクティビティに挑戦する長期型の研修サービスを開発し、事業の第2の柱として成長させることができました。

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グローバル展開・欧米企業との提携は当社代表の落合さん、グローバル人材育成サービスの事業開発は私が中心となって取り組みました。生き残りを掛けた状況だったから新規事業に取り組めたということもありました。

経営陣が現場の営業から離れて新規事業開発に取り組めるようになってきたのは、既存事業の営業組織が安定してきたということでもありました。

ミドル期に突入したのが2007年。丸3年の営業組織作りが成果を見せてきたのでした。


③営業組織を継続発展させる

もう一つの取組みは、これまでと引き続き、地道に営業組織作りに取り組むというものでした。この取組みは、高橋浩一さんの後任の営業ゼネラルマネジャーとなった田中英範さん(後の執行役員。2019年退任)や、当時の営業マネジャーの方々が中心となって取り組まれました。

2007年に中途・新卒を含めて継続的に採用活動に取り組み、営業メンバーとしての育成、そして営業組織化を続けてきました。

2010年当時では、アーリー期の新橋オフィス時代にご入社をされ、商品も仕組も全く整っていない中「絶対受注リスト」「勝ちの算段シート」等を通じて受注を作ってこられた最初期の営業メンバーの方々がマネジャー(課長)となられて、業績を支えていらっしゃいました。

斎藤俊輔さん(現アルー営業部長の一人)、中村俊介さん(現アルーエグゼクティブコンサルタント)、村田直人さん(現アルーのソリューション部長)、逸見雄一郎さん(現アルーのソリューション部長)などの方々です。

また2007年・2008年に新卒で入社された方々も数年の経験を経て、重要な戦力となられていました。

こうした経験者の方々が中心となりご活躍をいただきました。2010年度は初の減収となった年でしたが、逆風の市場環境の中でそこまで大きなマイナスにならずに留まることができました。


一方で、営業組織作り自体に目を向けると、決して順調なことばかりではありませんでした。2007年以降多くの方に営業部に参加をしていただき、退職という形で抜けていく方々も多くいらっしゃいました。


経営陣の組織デザイン不足・力不足の面が多かったと考えていますが、ここでは俯瞰をして考察をしてみたいと思います。

そもそも営業は「高難度の業務」であり「複雑性の高い業務」です。
特に当社のようなスタートアップ、ベンチャー企業は、商品も洗練されていないケースが多く、顧客開発と商品開発を同時に行うような面があります。強い競争力を商品を扱う営業と比較して、更に業務難易度は高いと言えるかと考えます。

①そうした高難度かつ複雑な業務であるため、向き不向きが大きくなる傾向があります。向かない方にとっては継続が難しい面がありました。
※補足をしますと、上述の営業業務に向かなくとも、別の業務(例:ソリューションカスタマイズ等)に向く方もいらっしゃいます。

②一方で、高難度かつ複雑な業務が得意な方(概して早熟かつ要領の良い方が多い)は、独立を含めて次のキャリアに向かってしまいやすいということもあります。

③当然求められることですが、適切な評価・処遇が必要になります。人材の評価・処遇については事業・組織の成長ステージや業績の度合いによっても、適切な方法・結果は変わってきます。

④難易度や複雑性を下げる努力は必要です。一方で業務難易度を下げすぎると「簡単な仕事」「やりがいを感じづらい仕事」になってしまい、キャリア面の問題が発生しやすいということも実際にありました。
簡単な仕事をしていても、成長につながらないと感じてしまいます。


こうした課題を踏まえつつ、組織拡大に取り組むことが求められました。

営業組織は退職や異動で人の出が激しいため継続的な人材採用が必要です。営業組織づくりの基本路線の一つです。ただし、人材の採用を多数行うと、人の面のトラブルは一定の確率で発生します。

基本的には人の出を減らすことは重要です。しかし退職・人員減少は、複合的な要因によって発生するものです。
そのためリテンションについては複合的な取組みが必要となります。

・採用の見直し
・育成・オンボーディングの見直し
・マネジメントコミュニケーションの見直し
・業務上の担当役割の見直し・最適化
・業務量の見直し・最適化
・目標設定・評価の見直し
・処遇、給与テーブルの見直し
・成長実感を作ること
・ロールモデルの存在
・組織エンゲージメントの向上
・組織の雰囲気・人間関係の改善・・・等

上述のような観点を俯瞰的に捉えた施策デザインを検討する必要があると考えます。


本記事のまとめ

◆営業は「高難度の業務」であり、複雑性の高い業務。向き不向きが大きくなる傾向がある
◆難易度や複雑性を下げる努力は必要だが、業務難易度を下げすぎると「簡単な仕事」「やりがいを感じづらい仕事」になってしまい、キャリア面の問題が発生しやすい
◆営業組織は退職や異動で人の出が激しいため継続的な人材採用が必要
◆基本的には人の出を減らすことは重要。リテンションについては複合的な施策検討が必要


次回の記事は・・・・

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本記事を含む「ミドル期」の全体像を解説した記事はこちらになります。
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