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縁日の発電機みたいな音を立て

 海老の助 風塵散らし去り行くきゃつらの
      後ろ姿を見てぴんときました。
      きゃつらこそ。
天麩羅判官 なんだ。
 海老の助 キャッツら。
天麩羅判官 うん?
 海老の助 《猫の瞳》です。

戯曲『カノン』野田秀樹

留守番したくない猫のために弟分を連れてこようと思った。

それで、小さいのが来た。もうすぐ2ヶ月が経つ。

スコティッシュフォールドの、レッドタビー。縞模様だ。

屈託がないというのか、ふてぶてしいというのか、

表情ゆたかで、偉そうでさえある。

先住猫を大きい方、新入り猫を小さい方と呼び分けてTwitter(先日、名称が変わってしまった)では書き分けている。

大きい方は家に来た頃はよく、物を詰めすぎた冷蔵庫みたいな音を立てていた。知らないところに連れてこられた緊張が解けてからは、ほぼ聞かなくなった。

小さい方は、縁日の発電機みたいな音を立てる。家にはすぐに慣れたのだが、毎日それが聴こえてくる。怖い時や不安な時ではなくて、遊び回って楽しい時、興奮した時に立てる音のようだ。胸に抱くと、喉の奥のあたり深いところに振動するモーターが埋め込まれているような感じだ。

さて小さい方とはいうものの、彼はあっという間に大きくなって、生後半年を前にして体格に差が無くなってきてしまった。

好奇心をそのまま行動に移す。大きい方の、慎重とすらいえない臆病具合とはまるで違う。この間は、僕がスーパーで買って帰ったししゃもを、キッチンに上がれる経路を開拓した小さい方のが咥えて去ろうとしているのを見て脱力した。まるで猫みたいだと思った。

大きい方が来た頃を思い出す。終始ぼんやりしている一方で、微かな物音にも驚いて身を縮めていた。

小さい方は真逆の性格。ひたすら、ひたすら遊んでいる。そして、大きい方に遊んでほしくて、白い大きな揺れる尻尾を追い回し、テーブルの上から太陽を背に飛びかかり、首を噛んでじゃれる。

ついにストレスで大きい方は病気になってしまった。朝、ひどい目ヤニが出ていたので動物病院へ連れて行った。

ほんとごめん。
どうか仲良くなれますようにと僕も気が気でない。

未だに警戒を怠らない大きい方は、機嫌を悪くすると姿を消す。ご飯の皿を置いてもどこかに隠れて出てこない。休日、掃除機をかけて部屋に戻ってきたら、皿は空になっていた。絶対にどこかにいるはずなのに決して見つからない、あんなにもさもさしているのに。

小さい方は呼ぶと来る。どっちかに気を遣っていると細かい用事が分岐して増え続け、永遠に家事が終わらない。とにかく早く済ませたいのに。自分の性格に向かないことをしているわけで、どうしてこうなった、と思う猫との暮らし。

最近、2匹並んで佇むところを見かけるくらいにはなってきた。やっとだ。僕が部屋を出ていく時に悲しそうに追いすがってきていた大きい方は、ただ佇んで見送ってくれるようになった。あいつが鬱陶しくはあるけれど、留守番の寂しさが和らいだという風ではある。

縁日の発電機みたいな音を立て、
縞模様の新参者が顔を擦りつけてくる。

彼奴(cats)らがどうか健やかに暮らしていけますように。

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