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#椿三十郎 から学ぶ組織論

知の巨人と呼ばれる内田樹氏の『七人の侍』の組織論をご存じでしょうか。10年以上前に書かれたコラムですが何度も読み返しています。いつかこんなコラムが書きたいなと思っていました。組織において適材適所でヒトを活かすのがいかに難しいか言うまでもありません。そこで黒澤映画の名作から組織論を書く事で「何か」役立てればと思い書き残したくなりました。お手すきの時に本作品も一緒に観ていただき楽しんでもらえたら嬉しいです。

映画・椿三十郎とは・・・

名作「用心棒」の続編ともいえる三船敏郎主演、黒沢明監督の時代劇映画。上役の不正を暴こうと立ち上がった9人の若侍たちを浪人・椿三十郎が凄腕と知略を駆使して助けていく。加山雄三をはじめとした血気にはやる若侍たちをうまく制御し敵方の用心棒である仲代達矢と知恵比べをしつつラストの決闘シーンへと物語は導かれていく。
1962年製作/96分/東宝

・あらすじ

江戸時代のとある藩で起こるクーデター。通りすがりの浪人と藩を導こうとする若侍たちの姿を描く物語。物事には裏表があるというテーマが深く描かれている。浪人に不信感を抱きながらも藩を守るために奮闘する若者達との信頼関係。何が正しいのか?判断がし難い現代の大企業やスタートアップにも通ずる組織のリアルが込められている映画。


キャスト人間関係図


視点①:椿三十郎から学ぶ「適材適所」の難しさ

椿三十郎(主人公の浪人)は常に本質を突いて正しい判断と戦略を提示するのですが、血気盛んな若侍たちは毎回「疑心」と「希望」の狭間で揺れ動きます。非常事態には何が正しいのか解からない。いつの世も難しい問題です。希望論派、疑心論派、仲介役派と若侍たちは流れの中で「役割」分担されていきます。居場所を自分たちで見出すことで納得していくのです。この様子を椿三十郎は兄貴分として見守ります。この父性とも言える背中を見せる事で「適材適所」を自然発生的に仕向けるのは難しい。失敗と解かっていてもやらしてみる。山本五十六の「やってみせ言って聞かせて、させてみせほめてやらねば、人は動かじ。 話し合い、耳を傾け、承認し、任せやらねば、人は育たずやっている姿を感謝で見守っ、信頼せねば、人は実らず。」という人材育成方法を行います。最近こんな兄貴役を大企業ではみかけなくなりました。それが失われた日本の30年なのではなかろうかと思うのです。

※変化期には出来上がった組み合わせを壊して外部との入れ替えが必要になる


視点②:若侍たちの行動から学ぶ「チームプレイ」の難しさ

血気盛んな若侍たちは「自分が正しいと信じている」から分断が生じます。つまり視野が狭いのですが、経験は積まねばわからないものです。視野を広げるには体験改革しかありません。それはよその飯を食うコトです。失敗を見守る兄貴役には我慢が必要になってくるのですが若侍たちにそれは見えません。ココに難しさがあります。この未熟さがときには突破口を見つけることがあります。だから経験者は自分が優れていると思ってはなりません。成功体験を体得して血肉にしていくからです。これがダイナミズムを生み出すのです。椿三十郎は、ティーチングする(教える)のではなくコーチング(能力を引き出す)していると言えるでしょう。

チームプレイには視野の広さが必要になる。視野の広さは”他の飯”を食ったかで変わる。


視点③:家老・睦田から学ぶ「異能の処遇」の難しさ

捕まってものらりくらりと要求をかわす睦田(城代家老)ですが才能を見る目があります。才能とは偏りであり長所と短所の背中合わせです。彼は自分より器の大きな才能は自分には収められないと知っているのです。お皿より大きな料理は乗らない。その異能は異能の器の大きさにしか収まりません。そもそも異能の処遇とは人間の器量の問題なのです。だからトップは努力して器量を広げねばなりません。異能は評価も数値化するのも難しい。だから企業で生き残るのが難しい。残念ですがそれが異能の悲劇。この歴史は繰り返している普遍のテーマだと思います。椿三十郎が浪人なのもその所以かもしれません。

※異能を測るにはトップの器量が必要


視点④:睦田の奥方から学ぶ「正論」をシェアする難しさ

睦田の奥方は正論をおっとりと述べます。「あなたは良く切れる刀。でも本当にいい刀は鞘のうちにあるもの」それを聞いて椿三十郎は苦い顔をします。その通りなのですが、非常時に正論だけでは生き残れません。現代組織では「とはいえ・・・」慎重派と「がしかし・・・」積極派に分かれて正論を巡る議論は水掛け論に終始する場合が多いと思います。

しかし正論は立場が強い者が使うから効果が発揮されるのであって、そうでない場合は既読スルーされるのがオチです。正論を通すのであれば偉くなるしかない。正論は使っても成果に結びつけられるヒトは少ないのです。

これはドラマ「踊る大捜査線」の「事件は現場で起きている!会議室で起きているのではない!」に通じます。その比喩さえも古くなってしまいました。ごめん。自戒を込めて言うのですが、皮肉にもこのnote自体がそれを表しているのかもしれません。私自身、何者でもないのですから。


視点⑤:黒澤監督から学ぶ組織における「鶴の一声」の難しさ

首謀者の菊井(大目付)は自害してしまいました。「命だけは助けられたのに。もっと穏やかにコトを収めたかった。三人とも体よく隠居させればよかった。なに若いものが謝ることは無い。ワシに人望が無かったのが問題なのだ」と睦田(城代家老)は云います。しかしそれは結果論です。組織に残った睦田(城代家老)の責任は問われません。鶴の一声は良くも悪くも日本の組織そのものだからです。現代社会でも「鶴の一声」でコトが決まる場合が多い。読み解けばそれは椿三十郎のような異能を納めきれない器のことを指しているのです。そして若侍たちの成長の限界をトップが押さえている現実であり、組織そのものの本質なのです。愛と勇気をもって改革に挑戦しなければ組織は滅びてしまう。椿三十郎のような異能を受け止める器があるのでしょうか。

黒澤監督は日本の組織や社会に対して「イノベーション(革新)を起こせないと成長はない」と痛烈なメッセージを遺してくれたのではないかと感じるのです。

※ムラ社会構造(集団主義)と都市社会構造(個人主義)のちがい


映画『椿三十郎』キャスト

椿三十郎(三船敏郎)
浪人。本名は謎だが、たまたま椿を見て“椿三十郎”と名乗る。前作の用心棒では、桑畑を見て“桑畑三十郎”と名乗っていた。頭も切れるし剣も凄腕の強者。口が悪いので誤解されやすいが、心根は優しく面倒見が良い。藩など組織にカタチに嵌らないノーブランドの異能の侍。

室田半兵衛(仲代達矢)
大目付菊井の忠実で切れ者の部下のふりをして藩を利用している。菊井派として睦田を陥れようと暗躍。小物の菊井よりも大物の睦田(城代家老)を恐れている。三十郎(三船敏郎)の腕を見込んで相棒になれと誘う。切れ者同士で、三船と仲代は認め合っている。ラストの決闘シーンは細かく脚本に書かれていなかったらしい。

井坂伊織(加山雄三)
この藩の若侍。城代家老である睦田の甥。
9名の若い世代で結託して次席家老・黒藤の汚職を告発しようとする。
しかし素直さゆえに菊井(大目付・清水将夫)に騙されて皆を窮地に追い込んでしまう。三十郎のアドバイスを受けて誘拐された城代家老睦田を救おうと奔走する。育ちの良さは「若大将シリーズ」の韻を踏んでいる。加山雄三は東宝映画の大スター「若大将シリーズ」の主役。

保川邦衛(田中邦衛)
井坂の仲間の若侍。
血の気が多く、口の悪い三十郎に反発する。軽率な行動で三十郎の計画が台無しになる。田中邦衛は東宝映画の「若大将シリーズ」の「青大将」役
ダメでモテない金持ちのボンボン役はその韻を踏んでいる。フジテレビドラマ・北の国からの五郎さん役のヒトでもある。

木村(小林桂樹)
菊井の家臣。
三十郎たちに拉致され殺されそうになるが、睦田(城代家老)の奥方に助けられる。頭脳明晰だがとぼけた役を演じる。三十郎たちの話を聞くうちに、悪者は菊井だと気づく。小林桂樹は、映画・日本沈没で異才の地震科学者役で国民的スター・有名になった名優。

菊井六兵衛(清水将夫)
藩の大目付。
本作の黒幕の中心。黒藤(次席家老)と竹林(黒幕の小物)と組んで城代家老の睦田を陥れ藩の実権を握ろうと企んでいる。切れ者のふりをしているが実は大した人物ではない。

黒藤(志村喬)
藩の次席家老。
菊井に踊らされている黒幕。椿の咲き乱れる自宅屋敷に誘拐した睦田(城代家老)を監禁している。志村喬は、七人の侍の主役・リーダー役を演じていて黒澤作品に欠かせない役者である。

竹林(藤原釜足)
藩の用人。
黒幕の仲間に加わっているが小心者で何の役にも立たない。悲観的観測ばかり言っている。藤原釜足は黒澤明作品の常連俳優、計12本出演して個性的な役を演じた。黒澤作品『隠し砦の三悪人』で千秋実と演じた農民コンビは、ジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ』登場するC-3POとR2-D2のモデルになった。

藤原釜足(中央) 志村喬(右)清水将夫(左)

睦田弥兵衛(伊藤雄之助)
藩の城代家老。
様々なことを冷静に考えている大人物。温厚でユーモアセンスに富んでおり決して偉ぶらない。伊藤雄之助は、特徴のある顔とアクの強い演技で多数映画で名脇役として活躍。前作・用心棒では大詰めだけの出演ながらも存在感を示した。

睦田の奥方(入江たか子
睦田(城代家老)の妻。
おっとりしているが話すことにいちいち説得力がある。三十郎のことを“鞘に入っていない刀のよう”と表現する。入江たか子は、華族出身で父の東坊城徳長は子爵、貴族院議員。華族出の入江の映画界デビューは戦前の時代を騒然とさせたらしい。

入江たか子(左)伊藤雄之助(右)

千鳥(団令子)
睦田の娘。
いとこにあたる井坂と恋仲の様子。天真爛漫なお嬢様。団令子は60年代を代表する東宝アイドル女優のひとり。

監督:黒澤明
日本映画を代表する映画監督で国際的にも有名で影響力のある映画監督の一人。ダイナミックな映像表現、劇的な物語構成、ヒューマニズムを基調とした主題で知られる。生涯で30本の監督作品を発表したがそのうち16本で三船敏郎とコンビを組んだ。


おわりに

この映画の公開は1962年1月。製作された1961年のご時世を考えると、ジョン・F・ケネディがアメリカ大統領に就任し、「もはや戦後ではない」と言われて5年経った頃です。日本は高度経済成長という青春時代でした。果たして私たちは歴史から何を学べばいいのか。これを他人事とせず自分事としてシェアできたら、それが何かの一歩になると思うし、皆さんと一緒に向き合い続ければ嬉しいです。

正解が見えない時代だからこそ「名作から学べること」は多いのではないかと思いました。独りで悩まず仲間と議論するのもいいでしょうし、noteを使って広くに問いかけることも意味があるでしょう。まずは恐れずに勇気を出して動く事ではないでしょうか。

お忙しいところ最後まで読んで頂き感謝です。3年後にまたこれを読み直してみたいと思います。皆さんにとって来年が良き明るい年でありますように。

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※なおこの映画のベースになったのは「日日平安」山本周五郎/著です。

切腹のマネをして一飯を乞うほどに落ちぶれた浪人が、藩の騒動にまきこまれ、それを手際よく片づけるまでをユーモラスに描いた『日日平安』。安政大獄によって死罪を命じられた橋本左内が死に直面して号泣するという“意外な”態度のなかに、武士道をこえた真実の人間像をさぐった『城中の霜』。ほかに『水戸梅譜』『しじみ河岸』『ほたる放生』など、ヒューマニズムあふれる名作全11編。

https://www.shinchosha.co.jp/book/113409/ より



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