多様性の反対は忠誠(ロイヤリティ)
現代では多様性が評価されていますが、経営者は表面的な多様性に翻弄されていると感じる場面があります。本当に必要なのは「多様性と忠誠のバランス」であり、無責任な自由ではありません。多様性が経営にもたらす影響と、本当の多様性の意味についてひも解きたいと思います。
これは、多様性に翻弄される経営者に捧げる処方箋かもしれません。スタートアップから古典的な会社まで数多くの企業に向き合ってきた私の「体験的な確信」を書き残しておこうと思いました。
超ニッチなネタなうえに7000字超の長文ですが、経営者だけでなく、経営を志す方々にも読んでいただければ嬉しいです。
1:多様性の虚像
①多様性と緩ぼの関係性
多様性という仮面の責任のない自由は、「緩ぼ(ゆるぼ)」という時代背景から生じています。「緩募」とは「緩く募集」の略で、突き詰めると「何の責務(オブリゲーション)も負いたくないけど、お願いはしたい」という意味です。これは「責任は追わないけど自由は欲しい」という思考様式に繋がっています。確かに「ガチ」ばかりだと超絶ブラックになるので考えものですが、「緩募」だけでは経営は機能しません。「緩ぼ」は、経営者の「能力」と「人間の器」の問題にまで及ぶ象徴的なコトバではないでしょうか。
②多様性が美化される「ありのままの自分がスキ」というワナ。
会社の経営は猿山のルールに似ています。制度設計そのものです。だから採用時に「カルチャーフィット」が重要視されるのでしょう。しかし「もっと成長した社会人になろう」という考え方より、「ありのままの自分が好き」だとカミングアウトする方が人間的であり「良いこと」だと考える人が増えています。しかし、ありのままの自分を肯定すると「自己中心的」と「利他的」が重なり合う部分を探す※努力をしなくなります。「人の役に立ってなんぼ」の根幹が崩れかけていると言っても過言ではありません。
※「自己中心的」と「利他的」が重なり合う部分とは・・・自己の利益を追求しながらも他者に貢献する行動を取ること。「自己的な動機が、利他的な行動につながる」という意味。
③経営者が多様性を追求する裏にある「経済的動機と矛盾」
多様性を推進する企業の背景には、経済的な動機があります。ブラック企業を逆手に取って言い放つ経営者もいますが、多くの経営者は多様性を示さねば採用も転職離脱もままなりません。ネットで「素早く・低コストで比較できる」時代には、多様性は避けて通れない現実です。しかし自分の思うような経営をするためには「自分の理想を実現する動き」を社員にしてもらう必要があります。
上記の①〜③を経営会議のシーンに置き換えると、「がしかし・・・」肯定派と「・・・そうは言っても」否定派に分かれます。そんな簡単に解決するなら経営者は苦労しません。ここで「肯定意見」と「反対意見」で比較して紐解いてみます。自社の会議に置き換えてイメージを膨らませてください。その先に「経営者」や「経営者を支える幹部」のやれることがあります。
2:忠誠(ロイヤリティ)の本質
①忠誠が組織にもたらす本当の価値
―安定性
忠誠心の高いメンバー(仲間と言ったほうがよい)は離職率が低く長く留まる傾向があります。企業は継続的な業務遂行が可能となり顧客から信頼を得ることに繋がります。結果として売上や収益に繋がります。
―信頼関係の構築
忠誠心の高いメンバーは、上司や同僚との信頼関係を構築しやすくチームワークが向上します。プロジェクトの遂行や問題解決が円滑に進みます。
―危機対応
忠誠心の高いメンバーは、困難な状況や危機に直面してもチームを支えようとする意識が強く柔軟かつ迅速に対応します。
②忠誠が強い組織と弱い組織のパフォーマンス比較
すべての組織が完全にこれに当てはまるわけではありませんし、企業特性や業界によっても変わります。あえて下記・表にすると分かると思うのですが、組織パフォーマンスは、経営者の気質が独裁か民主的かの違いに大きく関係しているのが分かると思います。もう少々お付き合いください。
③多様性と忠誠はバランスするか?
もはや生成AIに聞いた方が良さそうで、1年後のことなど何が本当なのか?何が大事なのか?もはや正解などありません。ここに経営者の掲げるビジョンや存在意義(パーパス)が関わってきます。だからこそ、肯定派・否定派が論じそうな事をイメージする想像力が必要ではないでしょうか。
3:本当の多様性とは
①多様性の本当の意味を共有する
経営者の気質が独裁か民主的か?それに対して社員には取り為す術がありません。最終責任は経営者が背負っているからです。上場企業でさえ独裁帝国になってる場合が少なくありません。それはまるで江戸時代の藩主・お殿さまのようなものです。
しかし「儲かるか・儲からないか」という「経済的動機」の前では「多様性の本当の意味を共有する」ことは利益につながります。結果的に企業価値が高まり、チーム全員の利益に繋がるはずです。しかしその事を共有することが難しい。
ここで「共有する」とは「情報をシェアする」というイメージより「対話して分かち合う」というイメージのほうが近いかもしれません。
②責任のない自由ではなく、お互いの尊重と協力を重視する多様性
対話はお互いの尊重がなければ成り立ちません。しかし経営者も幹部も成功体験から現在地があります。営業20年選手の部長や、マーケ界隈で著名なメンバーには「過去の成功」があるから現在のポジションや評価(=給料)があるのです。これは「それぞれの成功体験が積み重なって会社そのもの」になっているわけですが、これがフラットでオープンな関係性を育む障害になっている場合が多いのも事実です。
私はサイボウズ第二編集部で開催された全国のワークショップで「営業成績で結果を出してる部長に何も言えない」とか「マーケで大成功した先輩に言うすべが分からない」という悩みを数多く見てきました。むしろ経営者自身がそのような存在かもしれません(まぁそういうケースが多いんだけど)相互の尊重を阻む空気は過去の成功体験から生まれている。だから難しいのだと思います。
③攻殻機動隊から学ぶ多様性
「集まったみんなで協力して頑張ろうね!」というチームありきのチームプレーを目指すと、実際は曖昧な行動や離脱に繋がりやすい。これを「缶蹴り型チームプレイ」と呼んでます。いつ入っても、抜けてもいい。まさに冒頭に書いた「緩ぼ型」のチームプレイです。
それとは対局にある「個々が自分の能力を自由に発揮できる環境から自然と生まれるチームワークこそ最強」というのがこの発想です。そのためには、攻殻機動隊・メンバーのように「尖って」「強い」個人が存在しないと実現は不可能です。このように心身ともに強く、能力の高いメンバーが揃えられるでしょうか?そのためには多くの資本金よりも、経営者の能力と人間の器が必要です。会社とは社長の能力と器以上にはならないからです。だから難しい。その答えとして、攻殻機動隊・荒巻課長の続きのコトバがあります。
これだけはっきり言える経営者が日本にどれだけいるのでしょう。このような非財務価値をどのように数値化すればいいのでしょうか?(いやぁ日経新聞はこのような調査や、データ分析をしてほしいです)ヒトは困難や恐怖に陥るとどうなるかはそれぞれですが、過去の震災を振り返ればわかります。多様性の反対は忠誠(ロイヤリティ)ですが、そこには極めて難しい問題が底流に流れていることが理解していただけるのではないでしょうか。
4:忠誠を育む具体的な方法
ま。そうは言っても「最終的な責任を負うのは経営者」です。なので具体的な事も書いておきます。長年にわたりよく目にしてきた「経営者あるある」の一つが「感謝と報酬の提示ができているか?」という問題だからです。
①評価じゃなくて感謝
評価じゃなくて感謝。組織が大きくなればなるほど難しいものです。従業員の努力に対して感謝と報酬を明確に示すことは重要です。しかし売上や利益が伸びなければ給料も伸ばせられない。対話をしても埋まらない溝があるのは、このような厳しい現実があるからでしょう。
②報酬の制度や表彰の制度(仕組み)について
経営者あるあるのひとつに、メンバーの忠誠を高める仕組みが「社長の勘所」だけで運営されている場合が多いというのがあります。つまり成長の現動力となるのに「経営者の勘所」と「さじ加減」だけで回っているケースです。創業オーナー社長に多い傾向ですが、その個性ゆえに経営がワークしているので、仕組み化が難しいのも確かです。だから後継者選びで失敗するのでしょう。
③経営のPDCA
この仕組み化とは「具体的な質問」をデータ蓄積して、経営者が自らの能力を高めるためのPDCAを回すことなのですが、人事部長的な視点にしないと抽象論になってしまうので、具体的な質問例をあげておきます。
5:社長も褒めて伸びる
①経営者は褒められるのが大事
経営者の短所を伸ばしても会社は成長しません。経営者が褒められるから長所が確認できるし、長所を伸ばすから業績も伸びる。経営者が社員を褒めることはあっても、社長が褒められることは少ないものです。(おべっかを言う社員はいます)だから社長が褒めてもらい、社長の長所を伸ばす仕組みが重要なのです。ただし、褒められて図に乗る経営者は「人間の器」に問題があるので、それは別noteで書いてますのご参考にどうぞ▼
⇒ ビジネスの場面でよく使われる、人間の器とはなにか?
②メンターの存在
世襲制の会社では、二代目を地元の青年商工会議所など「メンター」に出会える場を先代が設けてくれるケースがあります。そうではない経営者の場合には、その仕組を自分で構築しなければなりません。それには時間もお金もエネルギーも必要になります。しかしメンター獲得を予算化・スケジュール化するケースは少ないのではないでしょうか。
経営者がメンターから学んだ知識は重要ですが、極めて属人的で暗黒知化されやすいものです。なぜなら「経営者の弱点」を晒すような要素があるのでブラックボックス化しやすいのかもしれません。なぜならば、脇の甘い社長が寝首をかかれるのはいつの時代も変わりません。信長しかりです。これも経営者の人間の器を試される要素であり、優れた投資家はこの部分を見ているとも言えます。
③景気より天気であり天気より元気
経営者が元気でいればなんとかなります。会社の成長も危機を脱するのも経営者と社員の元気から生まれるからです。企業価値を高める地盤はヒトから生まれます。だから「人的資本経営」が問われているのでしょう。キレイ事では伝わりにくいので、反対にある「元気を削ぐ」経営について書いておきます。
6:違いは「経営の質」から生まれる
上記ように「上手く経営されているケース」と「上手くいってない経営のケース」を比較すると、「経営の質」の違いがわかります。端的に言えば、それは「経営者のリーダーシップ」の違いでしょう。
しかし、上記NHK特集の最後にも書かれていますが「経営者そのものにフォーカス」を当てるより、「経営陣による経営の質」が問われているのではないでしょうか。
経営者ひとりでは経営はできません。経営の質の違いは経営層が生み出していると言えます。
7:多様性と忠誠のバランス
素晴らしい経営について書かれた書籍は数多くありますが、読んでも真似できません。アルゴリズムもありません。だから難しい。だから面白い。なので経営者には参謀役である壁打ち相手が必要なのだと思います。
しかしこれは経営をささえる幹部、経営企画部、広報、IRの方々にも当てはまるのではないでしょうか。多様性と忠誠のバランスはどこにあるのか?その本当の答えは経営の質を高めるプロセスにあるのだと思います。
経営者の「多様性の反対は忠誠(ロイヤリティ)」を起点に、ひとつの視点を書きました。皆さまの日々のお仕事の「栄養」になれば幸いです。他にもいろいろな視点があると思います。お忙しいとは思いますが、あなたの視点と考えのnoteが読めれば嬉しいです。心からお待ちしています。
ハッシュタグは
#多様性の反対は忠誠・ロイヤリティ
ではまたnoteでお会いしましょう。
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