好きの反対は嫌いではなく無関心
『愛の反対は憎しみではなく無関心である。』
愛と慈しみの象徴「マザー・テレサ」の言葉です。有名ですよね。
これ、マーケティングでもめちゃくちゃ大切なことだと思うんです。「好きの反対は嫌いではなく無関心」である、という事実。
脳の85%の時間は自動運転
2008年に出版された、僕が大好きな本。
ニューロマーケティング(脳科学の知識をマーケティングに応用した手法)についてまとめられている楽しい一冊です。
この本の中で、僕たちは、毎日、自分の意思で生きていると思っているけれど、まったくもってそんなことはなく、日常生活のほとんどは習慣化された自動運転によって、ほぼ無意識で動いていることが示されています。
・朝起きてトイレに行く、洗面所に行って歯を磨く
・いつもの道で駅に向かう
・ホームの定位置で電車に乗る
・電車の中でTwitterをやる、ゲームをやる、動画を見る
・会社近くのコンビニでいつものペットボトル(水かお茶)を買う
・家に帰ってTwitterをやる、YouTubeを見る、風呂に入る、寝る
ぜんぶ、自動運転。ほぼ何も考えていない。無意識と言っても良いかもしれません。
脳がつくるショートカット「ヒューリスティック」
前に書いた記事で、これらを「脳がつくるショートカット」と表現しました(専門用語で「ヒューリスティック」と言います)
「あなたは毎日、これをやってればだいたいOK!」と、脳が自動運転を促進してくれているわけです。
毎日、ほぼ同じ生活動線。
見ているメディア(デバイス)はテレビとスマホ。スマホではTwitter、Facebook、Instagram、LINE、YouTube、Yahoo!ニュース、スマニューを見る。
YouTubeなんて、いつも見ている動画によるレコメンデーションがどんどん賢くなるから、ついつい、次から次へと「次の動画(関連動画)」を見てしまい、気づくと興味の幅は拡張していない。
Yahoo!ニュースも、毎日膨大な量のニュースが配信されているものの、タップして読むのは自分の興味があることだけ。
このように、僕たちは「情報洪水」と言われるこの現代社会の中で、実はめちゃくちゃ狭い世界でしか生きておらず、情報洪水どころか、いくつかの蛇口から出てくる限られた情報範囲の中でしか生きていないのではないか、とすら思ってしまいます。
この世は99.9999999%の無関心でできている
毎日数千万もの投稿がされる日本語のツイート。100回分の人生でも見きれないほどあるYouTube動画。膨大な量のYahoo!ニュース。豊富なテレビ番組。HuluやNetflixで配信されている大量の映画やドラマ。
たとえじゅうぶんな時間があったとしても、僕らの触手が伸びる対象は、実はびっくりするくらい少ないものです。
試しに、いまスマホでYahoo!ニュースを開いてみてください。
いくつのニュースをタップして読みたくなりますか? たぶん、10個あったら多い方だと思います。残りの1,000本以上のニュースは、自分にとっては、興味がない=無関心なのです。
好きと嫌いの共通項は「高い関与度」
「好きの反対は嫌いではなく無関心」。では、好きと嫌いの共通項は何でしょう。
それは、好きも、嫌いも、どちらも高関与であることです。つまり、好きも、嫌いも、強い関心がある。
誰でも、ひとりやふたり、「あの人、大好き!」「あの人、大嫌い!」という人がいるでしょう。あなたは、その両方に、強い関心があるのです。
関心があるから、好きだし、嫌い。隣にいたり、おしゃべりすると、楽しい。もしくは苦痛。
その逆は、無関心。いてもいなくても同じ。気にならない。無味無臭。へたをしたら「あれ? いたの?」と。
『「最初に会ったとき、なにコイツ!めちゃくちゃムカつく!」って思ったんだよ(でもいまは大好き♡)」というのはトレンディドラマでよくある設定。
「大嫌い!」から「大好き!」への転換。
これも、高い関心がある相手だから成し得たウルトラCであり、「最初に会ったとき、何の印象もなかったんだよ。あれ? いたの? くらいにしか(でもいまはだいちゅき!♡)」というアメリカンドリームはなかなか起こらないのです。
職場でも「叱られているうちが花」という言葉が流通しています。
褒めるも、叱るも、相手に対して高い関心があるからゆえ。どうでもいい(=無関心の)相手には、叱りもしません。多くの人は見て見ぬ振りをして華麗にスルーしてしまいます。
このように、現代社会において、最も恐れるべきは、「無関心ゾーン」に入ってしまうことだと思うのです。
「使っていること」と「関心があること」は違う
「我が社の商品は、毎日数千万世帯もの人たちが使っているから、関心を持ってもらえているはずだ!」と言う人がいます。
果たして、本当にそうでしょうか。
たとえば、お醤油。
日本人はお醤油が大好きです。あっちにタラッと、こっちにドバッと、なにかにつけてお醤油を使います。
では、あなたが毎日、お醤油を使うとき、何を考えているでしょうか。
「俺は!いまから!キッコーマンの!!いつでも新鮮(R)しぼりたて生しょうゆをかけるぞ!!!かけたー!!!(もぐもぐ)うまい!!!」なんて考えているでしょうか。
僕は考えていません(キッコーマンさん、ごめんなさい)
無意識です。「お、味がうすいな。醤油、醤油…と。(タラッ)(もぐもぐ)(うん)」です。
使っていることと、関心があることは違います。
使っていても、無意識で使っていれば、それは無関心ゾーンに入ってしまっているのです。
低関与商材におけるブランドスイッチの難しさ
仮に、巨人・キッコーマンの牙城を崩すべく、ある醤油メーカーが立ち上がったとします。
大豆へのこだわり、発酵へのこだわり、無添加へのこだわり、職人による手作り…とにかく頑張ります。そして、それを少ないプロモーション予算ながら、消費者に広告で訴求します。
刺さるでしょうか。売れるでしょうか。
難しいですよね。
なぜなら、多くの人は、毎日醤油を使ってはいるけれど、無関心だからです。
無関心の人に、いくら声高に「こだわり」を訴求しても、無関心なんだから、届きません。
「気づかれない」んです。
「無視」は、意識して行います。「無視する」と決めて、無視するわけですから、高関与な行動です。
一方の「気づかれない」は、そこにいること、発信していることに、気づかれない。無視でも、スルーでもなく、気づかれない。
これが、無関心ゾーンの恐怖なんです。
課題は兎にも角にも「自分ゴト化」
無関心ゾーンに入らないために。無関心ゾーンから脱するために、兎にも角にも興味を持ってもらわなければなりません。
高度成熟化したマーケティング環境下において、ほとんどの消費者のニーズは充足されてしまっています。そして、その中で、自動運転化が進んでしまっており、それ以外のことには無関心です。
無関心のものは買ってもらえないし、ブランドスイッチも起こせません。
無関心のまま、ブランドスイッチを促す方法は、価格訴求だけです。商品には無関心だから、価格という関心事で興味喚起をする。
でも、それって本質的じゃありませんよね。利益は減るし、ブランド価値は毀損してしまいます。
じゃあどうすんのと。
当たり前ですが、「自分ゴト化」させるしかありません。「あ、これ、自分にとって必要なことだ」と思ってもらうしかない。
では、その肝心の自分ゴト化は、どうやったら促進できるのか。
広告? 難しいですよね。気づかれないまま埋没してしまう可能性が高い。
オウンドメディア? 自社サイトは、そもそも興味がある人がやってくる場なので、無関心の人は来ませんよね。
ということで、僕はやっぱりEarned & Sharedの出番だと思うのです。
Earned(記事)の中立的・第三者的な発信(評判)と、Shared(ソーシャルメディア)で(企業ではない)「人」から発信される身近でリアリティのある情報。
さっきまで無関心だったものを、0.1秒で自分ゴト化させてしまう。EarnedとSharedには、その力があります。
みなさんも、Twitterでフォロイー(フォローしている人)が紹介している本をAmazonでポチッたり、評判が良い映画やドラマを見始めたり、おいしそうなレストランに行ったりしたことがありますよね。それです。
次のハードルは「意向」の向上
興味を持ってもらえたら、買ってもらえるのでしょうか。残念ですが、人生、そこまで甘くありません。
次なるハードルは、「意向(Intention)」です。
「興味はあるけど、まあいいかな。」
これは、興味喚起はしたけれど、意向まで到達していない状態です。
意向とは、「行ってみたい」「買ってみたい」「食べてみたい」「飲んでみたい」「やってみたい」という状態です。
興味で止まらず、意向に押し上げるためには、「誰が言っているか」と、「どのくらいの人(量)が言っているか(話題になっているか)」の2つが重要です。
これは、早稲田大学の恩藏直人大先生と、ADKの井上一郎氏が提唱したR3 Communicationsというフレームです。
消費者のリアルな声があふれるソーシャルメディア時代におけるブランド戦略は、企業がコントロールするものから、Supporterを巻き込んだものに変わらなければならないと提唱しています。
この図では、自分ゴト化(Relevance)は、BtoCで企業・ブランドから行うものとして示されていますが、昨今の環境変化を鑑みると、BtoC「だけ」ではじゅうぶんな自分ゴト化を促進させることは難しいと感じます。
となると、キーマンはこの図で言うSupporter。既存顧客。Brand Advocates(ブランドの熱烈な支持者)、ファン、熱狂顧客の存在です。
Supporterに良質なReputationを形成してもらうために、大切なのがBwithSのRelationship。企業・ブランドと既存顧客の信頼関係づくりです。それが、良質かつ持続可能なReputationを形成する。
それが、ZMOTになるというわけ。
個人には「色」があります。
だからこそ、人はその人の声に耳を傾ける。「おやっ、なんだろう」とスマホの指を止め(興味喚起)、「この人が言うなら良さそうだ」と購入や行動の意向が向上する。
その量が増えれば、仲間ゴト化が広がりのあるReputation(評判)をつくり、話題が大きくなれば、それをメディアが取り上げ、世の中ゴト化のチャンスを得る。
認知はお金で変えるが、興味と意向はお金で買えない
こう考えると、昨今のインフルエンサーマーケティングブームも、理にかなっていると言えます。
個人の力を活用したいんですね。
でも、多くの企業は、インフルエンサーのリーチ力(フォロワー数)ばかりを欲しがります。リーチが欲しいなら広告を買えばいいのです。
広告で解決できない課題をなんとかするために、インフルエンサーの起用を考えていたはずです。
僕は、それが興味喚起力と意向向上力だと思うのです。
だからインフルエンサーマーケティングの効果測定は、リーチやインプレッション、はたまたCPF(Cost Per Follow:公式アカウントのフォロー単価)などで測るのではなく、興味喚起や意向向上、もっと言えば、それで行動が変わったのかまで、キッチリ測るべきです。
もっと書きたいことがあるんですけど、時間が来たのでこの辺で。このあたりに興味がある方はこちらをフォローしておいていただけると。随時更新しています。
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