「お得訴求」の限界~あなたの商品・サービス・お店は、なくなったら「不便」ではなく「寂しい」と思ってもらえますか?
㈱コメ兵・執行役員のふじはらよしあき @yfujihara さんがこんなツイートをしていて、これぞ商売の基本であり原点(!)素晴らしいなと。
バブルが崩壊して景気が低迷し、新規顧客に新商品を売ることで拡大を続けてきたマーケティング環境は一変しました。
メーカーも小売も外食サービスも、新規顧客獲得一辺倒、マーケットシェア最優先の時代から、既存顧客維持、顧客シェア重視(=Life Time Value:顧客生涯価値)へと経営の重要指標を変更。
CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)という言葉が大流行し、「マスマーケティングからOne to One Marketingへ!」「顧客ロイヤルティ経営の時代!」などが声高に叫ばれ、各社ポイントカードの発行を乱発しました。
それから20年以上が経ちました。
「XX様へ」という宛名がカスタマイズされたメールは一日何十通も来るし、ポストを開ければ「XX様への大切なお知らせ」と称したクロスセルDMや友達紹介キャンペーンの通知はたくさん来るようになりました。
さてはて、製品(ブランド)や小売店や外食店と、顧客の「信頼関係」はどのくらい向上したのでしょうか。
「もっと買ってくれ」「友だち紹介してくれ」の「依頼」や「連絡」が顧客との信頼関係を向上させるCRMの理想のゴールだったのでしょうか。
買ってくれたら1%のポイントがつきます。
あなたは(たくさん買ってくれる)大切なお客様なので、ポイント還元率を2%にします。友だちを紹介してくれたら3,000円のクーポンを(紹介者と被紹介者の両方に)プレゼントします。
お得!お得!!お得ゥゥゥ!!!
どこもかしこも、金銭的ベネフィットのオンパレードです。
いつからCRMは顧客関係管理という名の販促システムに成り下がってしまったのか。
年間購買金額上位20%の顧客をロイヤルカスタマーと括(くく)る企業は少なくありません。
でも、売上は結果でしかありません。
大事なのは、「なぜ買ってくれたのか?」という「理由」のはずです。
売上上位20%のお客さんに「なぜあなたはうちの商品をたくさん買ってくれるのですか?」と聞いてみてください。
「クーポンがあったからさ」「いつも安いからさ」「家や会社から近くて便利だからさ」という理由が多かったらどうでしょう。
「クーポンがなかったら買わない」「特売しなかったら買わない」「家や会社からもっと近くに同様のお店ができたらいかない」薄氷の上に成り立っている売上ということです。いつなくなってもおかしくありません。
私たちは、「欲しい物がない」「ほとんどのことに満たされている」という超高度成熟社会に生きています。
普通の金額のお金を払えば、だいたいの商品やサービスは手に入れることができる。
「どれを買っても大差がないなら、安い方を買うよ」
多くの企業が提供している商品やサービスの品質は、ほとんどが横並びのコモディティ時代。
これが全産業で起こっている(コモディティ化による)際限のない熾烈な価格競争の実態です。
でも、だからこそ、もう「お得訴求」は限界を迎えているのではないか。
ポイント2倍! 3,000円クーポン! XX還元! 30%OFF!などのお得訴求は、常習性の高い魔の一手です。
そして、その常習性は、売り手だけでなく、買い手の心理をも大きく変えてしまいます(変えてしまいました)。
僕は、「うちの商品(お店)がなくなったら、どう思いますか?」という質問への回答が、この時代における競争力を表していると考えています。
「他のを買う(利用する)から別にいいよ」が最も競争力が弱い状態、次に「え!そんなの不便だよ!」という回答があります。
一見、必要と認識されていると感じますが、これはあくまでフィジカルベネフィット(商品やサービスのスペックがもたらす物理的な便益)に対してのもの。
いまや多くのフィジカルベネフィットは競合も提供することができてしまうため、ここで安心するわけにはいきません(もっと便利な商品、もっと近いお店ができたら、そちらへ行ってしまう可能性があります)。
理想的な回答は、「え!そんなの寂しいよ!」ではないでしょうか。
物理的な便利さや便益だけでなく、感情的・精神的な結びつきが形成されているからこそ、出てくる言葉(感情)です。
なくなったら、不便ではなく、寂しい。
そんな存在になることができれば、あらゆるものがコモディティ化し、熾烈な価格競争が起こっている魑魅魍魎としたマーケティング環境の中でも、中長期的な差別的競争優位を発揮していけると思うのです。
じゃあ、そんな「気持ち」で結ばれるために、どうしたらいいのでしょうか。
僕は、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を、レスポンスからエンゲージメントへ変えることだと思います。
売上は大事。そこれは当たり前のことです。
でも、「売上は結果である」。これも事実だと思うのです。
売上が結果である以上、「売上をあげろ!」という号令は意味をなしません。売上を上げるために、「何か」をしなければなりません。その「何か」が、売上を上げるために重要なプロセスとなるKPI(=重要指標を動かす重要施策)です。
ここでも細かく書きました。
売上は結果を表す数値ですから、それは目標としつつも、大事なのは売上に影響を与える施策です。
その施策によって動く重要な指標がKGIであり、そのKGIに影響を与える指標がKPIです。
整理するとこうなります。
上段がいままでの一般的なCRMの考え方。
メールなどで刺激を与え、クリック(タップ)してもらう。このときのKPIはレスポンス(反応)率で、KGIは、そのKPIによってもたらされたコンバージョン(資料請求や売上)です。
これの何がイケてないかと言うと、この施策を繰り返しても、顧客の感情はほとんど上がらないからです。
一部に、メールが届くと「おっ♫」と心が踊るメルマガがあるかもしれませんが、100通来るうち1通あれば良い方ですよね? ほとんどのメールやDMは読み手(書い手)との信頼関係を形成することよりも、今日の売上をつくることを目的としているため、そうなって当然です。
だから、KPIは反応率で良いのです。「反応」したかどうか。それ以上でもそれ以下でもなく、相手の反応を計測する。
でも、CRMなんです。顧客との信頼関係をマネジメントするのですよね?
であれば(レスポンス率もとれば良いですが)KPIはエンゲージメントであるべきなのではないでしょうか。
engageは、「従事させる」「引き込む」「参加させる」という意味ですが、日本ではエンゲージリング(婚約指輪)のイメージが強いですよね。
エンゲージメント(率)は、ソーシャルメディアの登場で新しく注目された指標ですが、日本語に訳しにくいので「エンゲージメントってなんですか?」と聞かれると「ユーザーのいいねやコメントなどの反応」と返している人が少なくないのでは。
でも、「反応」ならレスポンス(率)で良いわけです。
あえて、エンゲージメント(率)と言っているからには、表現したい文脈が違うはずです。
それを、僕は下図のように解釈しています。
自分と相手がいて、両者の双方向的な関わり合い(エンゲージ)によって相思相愛の婚姻関係が結ばれる。でも、この状態ではまだ結婚はしていません。
その後、さらなる信頼関係を形成し、晴れて結婚をする。
エンゲージメントとは、結婚に向けて両者で同じ方向とゴールに向かって歩みを進めている道のり(プロセス)そのものなのです。
一方が刺激を与えて、一方がレスポンス(反応)するのではなく、両者で、結婚に向けて愛を育んでいく共同作業。それが「エンゲージする」ということです。
エンゲージのゴールは、絆を形成することです。これをマーケティングでBrand Bondingと言います。Bondingされた顧客を、Brand Advocates(ブランドアドボケイツ:ブランドの熱烈な支持者)と呼びます。
このBrand BondingこそがCRMのゴールであり、売上はBondingされた状態のBrand Advocatesからもたらされる結果に過ぎません。
お得訴求によって今年度を息切れしながら乗り切ることも大切です。
でも、それをいつまで続けるのでしょうか。お得によって買ってくれたお客さんに買い続けてもらうためには、次なるお得訴求が必要です。
来年も、再来年も、ずっと値引きやプレゼントキャンペーンを乱発しなければなりません。
これから年々、市場はさらに成熟化し、競合との差別的競争優位は薄まっていきます。つまり、環境は年を追うごとに、どんどん苦しくなる。
だからこそ、コロナ禍でみんなキツイいまだからこそ、少しだけ未来に目を向け、今年度の予算で来年度以降の売上につながる顧客との関係構築を始める。
強い企業、勝つ企業というのは、いつの時代も競合よりも高い視座と、広い視野で未来を見通しているものです。
ぜひエンゲージメントの本質を理解し、次なる一手につなげてください。
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