社員のインフルエンサー化は「ネットワーク」と「コミュニティ」の違いを間違えると失敗しますよ
先日書いたインフルエンサーマーケティングの記事に関連して、社員のインフルエンサー化の話が出たので、それについても所感を述べておきます。
まず、社員のインフルエンサー化は、確実に来る流れだと思っています。これは、ほぼ間違いない(というか、その流れはすでにリファラル採用やベンチャー界隈のマーケティング領域で顕在化してますしね)。
ただし、これはすべての企業(特に日本を代表する大企業)に例外なく訪れる未来ではないと思います。
理由は3点あります。
リスクが大きい
誰もが知る有名企業は(嫌な言い方ですが)炎上をさせる甲斐があるため、炎上の沸点が低いという特徴を持ちます(炎上しやすいということです)。
これはもうずっと前からそうですが、高学歴、高所得、誰もがうらやむ有名企業は、炎上した(させた)ときの代償が大きいため、ちょっとしたことで揚げ足を取られ、燃料が投下されます。
メディアも、誰もが知る(誰もがうらやむ)大学、企業、経営者の炎上を取り上げるとPVが取れますので、こぞってニュースにします。
多くの社員がブログやTwitterを始めた2010年頃、社員の不適切発言や情報漏えいに端を発して企業が炎上する事故が急増したとき、各社はソーシャルメディアガイドラインの作成と社員研修をそれはもう一生懸命行いましたが、従業員数千人規模の社員を抱え、かつ採用や退職などの出入りがあるため、その実効性には限界があります。
たとえ悪気がなかったとしても(というかほとんどの場合、悪気はない)、社員が炎上すれば、確実にその火は企業に飛び火し、企業が燃やされます。
炎上すると、ダメージをこうむるのは企業側だけでなく、社員の人生にも大きな「消えない傷」を負わせることになります。
かくして(すべてとは言いませんが)大半の大企業は、社員のインフルエンサー化に積極的にはならないでしょう。
旗振り役がいない
社員のインフルエンサー化というと、なんとなく耳障りが良いですよね。
でも、これはいま起こっているイケてないインフルエンサーマーケティングと同様、放っておくと、これまたイケてない社員のインフルエンサー化プロジェクトができあがり、関わるすべての人が不幸になります。
「社員インフルエンサー=影響力を持つ応援者=社員だからタダ」という構図ができあがり、新商品や会社が発信する(多くの場合、売り手発想でとてもつまらない)情報を個人のアカウントから投稿せよ!という指示が出ることでしょう(そしてそれが永遠に続く)。
社員のインフルエンサー化は、魅力的ではない商品や情報を社員がタダで広げてくれる魔法の杖ではありません。
自社(の商品やサービス)は、「社員がインフルエンスしたくなるような会社か?」という本質的な問いがまず必要です。
また、お金のために投稿するバイト的発想の社員はそもそも社員インフルエンサーではありませんが、だからといって無料でこき使って良いわけではありません。
社員インフルエンサーの活動によって得られた富は、ちゃんと本人にも再配分される仕組みは必須です。
このあたりをちゃんと設計する旗振り役や統括する部署が社内にないと、掛け声だけが空回りしてうまくいかないと思われます。
熱狂社員が少ない
これが一番の要因です。
あなたの会社には、自社や、自社の商品・サービスを、お客様と同等ないしはそれ以上に愛してくれている熱狂社員は、何人いますか?
僕の経験上、企業の規模が大きくなればなるほど、とても少ない気がしています……。
日本人が会社を信頼している割合は40%で、世界28カ国中、最下位です。
それに呼応するようにして、日本の労働生産性はOECE34カ国中21位、先進7カ国(G7)の中ではずっと最下位です。
こんな状況のままでは、社員のインフルエンサー化なんて夢のまた夢なのです。
それでも時代は社員のインフルエンサー化に向かう
こんな寂しい状態ではありますが、僕は、それでも時代は社員のインフルエンサー化の方向へ向かうと思っています。
理由は、人が働く理由が、ライスワークからライフワークに変わっていくからです。
人は、なぜ働くのか。
むかしは、「今日のパン代のため」、つまり、生きていくため、生活していくため、欲しいものを買うための人が大半でした。
でも、いまはだいぶ変わってきていますよね。
自らの成長のため、自己実現のため、誰かの役に立つため、社会課題を解決してよりよい社会をつくるためなど、仕事に「使命」を感じる人が増えてきています。
ビジョン経営からパーパス経営へ
以前は、ビジョナリー・カンパニーとして、多くの企業がビジョンを提示して、そこに社員を吸引するやり方を採用してきましたが、近年はパーパス経営に舵を切っています。
ビジョンとパーパスって何が違うの? 同じことを違う言葉で言っているだけなのでは? と思ってしまいますが、実はこう違います(博報堂さんのまとめが秀逸なので引用します)。
ビジョンは自分主語、パーパスは「私たち」主語。
パーパス経営の概念には、「会社はこっちを目指すからしのご言わずにお前たち言うこと聞け」という上意下達かつ支配的な企業経営から、「大義のためにみんなでこっちを目指そうよ」という共感経営へのパラダイムシフトが内包されているように感じます。
社員インフルエンサーはパーパスへの共感を共有する伝道者
ここ重要です。
社員インフルエンサーは、商品の短期的な売上を最大化する便利な装置ではなく、会社のパーパスへの共感を共有してくれる伝道者なのです。
だから、KGIを(多くのインフルエンサーマーケティングと同じ)売上獲得、認知拡大、短期的なバズの創出、サイトへの集客としては駄目です。
絶対、うまくいきません。
そうではなく、もっと広く、会社の応援団を増やす媒介者になってもらう。そういう意味で、社員インフルエンサーは、マーケティングやプロモーションという考え方ではなく、Public Relations(企業広報)としての位置づけと考えた方が良いでしょう。
社員インフルエンサーが生むものは拡散ではなく共有である
ここも重要です。
拡散(Spread)と共有(Share)は違います。
拡散は、不特定多数に情報が広がること。広がっているのは、WHATです。
拡散されている情報は、誰か(WHO)の手を離れても、WHAT自体に意味や力があるため、不特定多数に広がります。
一方の共有は、特定少数(コミュニティ)内でやりとりされるもの。
多くの場合、共有される情報は、WHOに紐付いているからこそ共感され、意味があるものです。
会社や商品を愛し、頑張っている友人や知人がいる。その人が努力していることを知っている(WHOでつながっている)からこそ、応援したくなる。
それが共感し、共鳴することで発生する共有です。
多くの人が創造する社員のインフルエンサー化は、多数のフォロワーを抱えた社員が情報を拡散することでしょう。
でも、そうではないのです。
社員がしてくれるのは、拡散ではなく、社員とつながった特定少数に対する共感の共有(そしてそれによる共鳴)なのです。
だからこそ、社員のインフルエンサー化の前に、あなたの会社が、社員にどう思われているのか、パーパスに共感してもらえているのか、お客様と同様ないしはそれ以上に応援したいと思ってもらえる対象になれているのか、問わなければなりません。
社員のインフルエンサー化は、およそ簡単な話ではありません。
だからこそ、それが実現できる会社と、できない会社では、中長期的な競争力に歴然の差が生じるものと思います。
きっと、多くの経営者は、総論賛成、各論微妙だと思います。なぜなら、結果が出るまでに時間がかかるからです。
だからこそ、差が出る。
お金と手間がかからず、誰もが取り組めて、すぐに結果が出る(売上につながる、採用力が上がる)。そんな手法があったら、あなたよりも前に競合がとっとと始めています。
結局、広告効果測定と同様、中長期的視点でコツコツと本質的な取り組みを継続した企業が、最後に素晴らしい果実を獲得できるのだと思います。
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