深夜、戸の隙間からこぼれる微かな光と小さな声が好きだった。
『良い子は、早く寝なさい。』と母から教育をうけてきた。
就寝時間は9時。
今考えても、寝るには惜しい時間だったと思う。
すぐ寝付ける日もあれば、
夜中に目が覚めてしまう日もある。
起きてしまったら最後、
喉の乾きを潤そうか、はたまた寝てしまおうかと考える時がくる。
薄ら目ぼんやり、暖かな布団の中。
寝室の引き戸から微かにこぼれる光。
両親の話し声が聞こえる。
私はその時間が好きだった。
独特の空気感。
母は、1日の終わりをゆっくり語り
父は、仕事終わりの晩酌をしている。
親という役割から、少し遠ざかった
二人の時間がそこにあった。
「あら?起きたの?」
母の声は、
いつもの「早く寝なさい」
という厳しい口調ではなく。
気の抜けて優しい声。
父の晩酌に用意されたご飯の匂いが、
私の食欲を湧かせてきた。
そして、
「ちょっと食べたら寝なさいよ』
といってくれる母に甘えて、こっそりと腹を満たすのだ。
あの時間だけ、両親を独り占めした感覚になる。
自分が特別な存在になれる気がする。
兄弟にも邪魔されることのない空間がそこにはあったのだ。
そして、普段聞くことができない
両親の本音も聞けたりして。
大人の会話に混じって、勝手に大人になった気分になるのだ。
もうそれを味わうことは出来ないが
ふと思い出したのでここに書留める。
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