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じゃんぽ~る西 単行本ガイド

 今回は、フランスと育児をテーマにしたエッセイ漫画を発表している、じゃんぽーる西さんの作品を単行本ごとに紹介します。ソフトな画風ながらもシニカルで自虐的な視点をもつのが著者作品の魅力です。パリや育児といったポジティブに偏りかねない話題を扱っても客観的で、かといって決してイヤミにもならない作風が特徴です。
 著者作品を愛好して少しずつ買い求めるうちに、気が付くと手元に全作品が揃っていたので(※1)、どうせならと紹介記事にしてみました。基本的に刊行順で紹介します。参考までに、amazon商品ページへのリンクも併せて掲載しています(※2)。

『パリ愛してるぜ~』

 初版2011年5月28日/Kindle ○/紙本新品 ✖/飛鳥新社
 パリ日記三部作の第一弾。
 フランスの漫画に憧れて、バンドデシネを描く修行のためにパリに来た著者の滞在記。帯にある「まったく新しい男目線のパリエッセイ!!」とある通り、おしゃれじゃない、トホホな視点でのパリとそこに暮らす人々への観察が魅力。貧乏アルバイト暮らし、日本人をはじめ在仏外国人との交流、フランス人美少女との(一方通行の)ロマンスなど。他の三部作にも出演する、日本語ペラペラのフランス人の友人トマ、ゲイのおじいさんパトちゃんも本作から登場。日本への帰国で幕を下ろす。

『かかってこいパリ』

 初版2012年4月15日/Kindle ○/紙本新品 ✖/飛鳥新社
 パリ日記三部作の第二弾。
 前作同様のフランス滞在記に、「パリの日本祭り」と題される第1章、第4章の帰国後の訪仏取材をミックスした単行本。滞在記のパートは、第一作の『パリの迷い方』を分割して『パリ愛してるぜ~』と分け合ったことが後書きで明かされている通り、作品内の順序も特に時系列等ではない。パリ日記第一弾『パリ愛してるぜ~』を読んで他のエピソードも読んでみたいと思った方に向けた一冊。どちらも未読なら、ひとまず第一弾がお薦め。第一章では後に妻となるカレンさんが通訳として初登場。

『パリが呼んでいる』

 初版2012年12月13日/Kindle ○/紙本新品 ✖/飛鳥新社
 パリ日記三部作のラスト。4章構成で、各章でトピックが変わる。前半が滞在記、後半が訪問記。個人的には後半が楽しく読めた。
「第1章 パリ暮らし」
 …前作までと同様のパリ滞在記。
「第2章 パリの日本人」
 …在仏日本人や著者を訪れた日本の友人、パリの日本文化など。短い章。
「第3章 パリに呼ばれた男」
 …日本からパリ国際ブックフェアに招待されたエピソードをエッセイ漫画化。本書タイトルの由来にもなっている。テレビ出演シーンも。
「第4章 ヴァカンスでマルセイユ」
 …パリ滞在中に訪れたマルセイユでのバカンスを描く。案内人として日本人女性のレイコさんが登場。食文化、ヌーディストビーチなど。
 あとがきでは、前作で登場して本作の第3章でも西氏のサポート役で出演したカレンさんとの結婚が報告される。

『ニュースじゃぽん
  フランス人に大ウケの日本のいま』

 初版2012年12月13日/Kindle ✖/紙本新品 ✖/中経出版
 フランス人向けのウェブサイトの記事に添えられた4コマ漫画とスケッチを集めた一冊。プロローグでは後に妻となるカレンさんから仕事依頼された前日譚が明かされ、編集者としてのカレンさんとの合作でもある。漫画とイラスト以外に、西氏、カレン氏のコメントと、ウェブ掲載時に掲示板に寄せられたフランス人読者の反応も紹介されている。フランス向けのため漫画内も含め文字は全て横書き。全作品中、唯一の全篇カラー。
 フランス人に向けて当時の日本の最新技術やニュース、日本文化を伝えるコンセプトになっているが、4コマ漫画自体はあまりお題にこだわらず自由に描かれている。西氏の全作品のなかでは明らかに他と毛色が違う異色作。萌え系美少女やリアルな老人などの描写も新鮮。個人的には過去のファミ通連載漫画作品を彷彿とさせられた。他作品には表れないアクの強い魅力に溢れ、エッセイ漫画家としての著者を忘れて純粋に4コマ漫画として楽しめる。Kindleも非対応の絶版扱いは惜しい。機会があれば再びこのようなアプローチの作品も発表してほしい。

『モンプチ 嫁はフランス人』

 初版2015年7月15日/Kindle ○/紙本新品 ○/祥伝社
 全三巻のシリーズ第一作。パリ日記三部作とは打って変わって日本での結婚生活をテーマにしたエッセイ漫画。結婚のお相手は他作品でもたびたび登場している、フランス人ジャーナリストのカレンさん。夫婦二人の暮らしは序盤二回のみで、以降は長男七央くんの出産と育児が最大のテーマとなっている。日本における日常生活が主だが、中盤には家族でのフランス、ニューカレドニア訪問のエピソードなども含む。フィールヤング連載の全15エピソードに、白水社「ふらんす」に掲載された11点の「フランス語っぽい日々」を散りばめる構成。タイトルのモンプチの意味は「私のかわいい赤ちゃん」とのこと。

『モンプチ 嫁はフランス人2』

 初版2016年9月15日/Kindle ○/紙本新品 ○/祥伝社
 シリーズ第二弾。前作から引き続き、長男七央の成長の記録がメインだが、前作よりも夫婦間や育児を通して日仏の文化の違いを描くエピソードが増えている印象。妻カレンさんのフランスの実家訪問や、カレンさんの妹の訪日なども盛り込まれる。パリ日記三部作にも登場したフランス人の友人トマが何度か出演する。全16エピソード。1巻・3巻とは異なり、フィールヤング連載のみで構成されている。

『モンプチ 嫁はフランス人3』

 初版2018年2月15日/Kindle ○/紙本新品 ○/祥伝社
 シリーズ最終巻。全二作では装幀のうえで「嫁はフランス人」が目立つようにデザインされていたが、本作に限ってはここまで副題のように扱われていた「モンプチ」が前面に押し出されている。当初から奥さんのカレンさんより、長男七央くんの育児の扱いが大きかっため、二巻までよりも内容に沿った装幀ともいえる。構成上も、エピソードの区切りが廃止された。フィールヤング連載に、6ページ分だけ「レタスクラブ」掲載作品が組み込まれているが、溶け込んでいる。七央くんの成長もあってか、全三巻のなかで訪仏のエピソードがもっとも多い。パリ日記三部作以来、ゲイのおじいちゃんパトちゃんも回想で登場。最終話では次男の生誕が伝えられる。終盤の「あたまのなかで」で描かれる、七央くんの夢のエピソードにはじんわり。

『私はカレン、日本に恋したフランス人』

 初版2019年12月15日/Kindle ○/紙本新品 ○/祥伝社
 全三巻の『モンプチ 嫁はフランス人』に引き続き、祥伝社のフィールヤングコミックに連載した21話に1ページの書下ろしを加えたもの。日仏ハーフの長男七央くんの成長と育児が大きなテーマだった前身『モンプチ』からは変わって、著者の妻カレンさん視点の訪日・在日体験と日仏比較がメインになっている。ただし、10~12話に関しては完全に著者西さん視点のフランス滞在時の回想だったり、ところどころ育児エピソードもあり、過去作品の要素も含んでいる。前作までにはあまり見られなかった、カレンさんが美しく描かれるカットが多いことも特徴のひとつ。

『フランス語っぽい日々』

 初版2020年10月10日/Kindle ○/紙本新品 ○/白水社
 他とは違って、妻でジャーナリストのカリン西村さんとの共作。見開き左が西氏のエッセイ漫画、右がカリン氏のコラム。なおカリン氏の名称については、過去の漫画作品内ではおそらく半ば匿名にするための「カレン」表記だが、著者名としては本名らしい「カリン西村」表記となっている。横書きのコラムに合わせて漫画内のセリフ等も横書きで左から右に進行。夫婦合作という点も含め、結果的に『ニュースじゃぽん』との共通点も多い。
 内容はタイトルの通り、育児、夫婦の会話、訪仏などのエピソードを交えたフランス語をめぐるエッセイ漫画とコラムになっている。漫画とコラムはそれぞれだけを拾って読み通しても支障はない。テーマが語学ということもあり、コマ内のセリフも多いため図柄も窮屈になっており、率直なところ漫画単体の魅力としては他作品に譲る。
 実は本作、『モンプチ 嫁はフランス人』第一巻にも収録されている「フランス語っぽい日々」と完全に重複している回が複数存在する。おそらく『モンプチ』刊行当時は、本作単体で刊行する見通しがなかったため、併せて収録していたのだろう。ちなみに重複回は『モンプチ』とコマの配置のみが左右逆になっている。

まとめと注釈

 作品群は大きく、フランス滞在記を扱った前期のパリ日記と、カレンさんや七央くんとの家族生活を中心に描く後期に分かれ、唯一、Kindleも非対応の『ニュースじゃぽん』のみが毛色の違う作品となっています。
 紙本については前期はほぼ絶版ですが、エッセイ漫画については基本的に全ての作品がKindleに対応しているため、購読にはそれほど支障はないかと思います。全篇未読の方に向けては、日本人のフランス滞在記が読みたければ、まず『パリ愛してるぜ~』がお薦めです。逆にフランス人の日本訪問・滞在に興味があれば『私はカレン~』。日本での日仏夫婦の育児や夫婦生活なら、『モンプチ 嫁はフランス人』です。本記事が著者作品を読む参考になれば嬉しいです。

※1.『パリ愛してるぜ~』『かかってこいパリ』との内容重複で、絶版にもなっている第一作『パリの迷い方』を除く(⇒2021.1.18 次章を追記)。
※2.出版社ではなくamazonをリンク先に選んだのは、単にリンク表示で書影全体が確認できて、表示上都合が良いためです。

『パリの迷い方』

 初版2008年3月24日/Kindle ✖/紙本新品 ✖/創美社・集英社
 第一作。しかしamazonの著者作品ページにも紹介されていない。なぜかと言えば、『かかってこいパリ』でも少し触れたとおり、本作の内容はその後のパリ日記三部作に転載・アレンジして収録されたため。読者が誤って購入しないよう、完全な絶版扱いとしているようだ。私自身は事情を知ったうえで、この記事を書く動機もあって物好きで購入してみた。
 事前の情報の通り、内容はパリ日記三部作と被っている。ただしすべてのエピソードが完全に転載ではなく、なかにはネタは共通だが漫画自体は描き替えられている回も存在し、後続作品内では見られないコマやオマケも散見される。そして画風についても、その後のソフトなほのぼの路線と比べて、デビュー当時はヘタウマな方向性を狙っていたようにも見える(単に拙いと見ることもできる)。後に刊行されたパリ日記三部作は、第一作である本書のリマスター版ともいえる。
 なお著者名もこの時点では「じゃん・ぽ~る西」と中黒点があり、内容とも相まって著者の試行錯誤の跡が窺える作品になっている。


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