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読書:『サピエンス全史』(上)Y.N.ハラリ

①紹介

イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏による大ベストセラー『サピエンス全史-文明の構造と人類の幸福』(上巻、柴田裕之訳、河出書房新社、2016年)を紹介します。遥か大昔にネアンデルタール人を滅ぼしたホモ・サピエンス。なぜ私たちの祖先は生き残ることができたのか。「認知革命」がもたらしたその進歩史に衝撃を受けます。

②考察

「虚構、すなわち架空の事物について語るこの能力こそが、サピエンスの言語の特徴として異彩を放っている」
➢ 虚構というのは、吉本隆明の言う「共同幻想」と同義で、宗教や民族、国家、人権もその典型例だ。それらは言葉という器のおかげで可視的に感じられるだけで、本質的には目に見えない概念である。サピエンスが生き残りをかけて考案した戦略としての虚構の功罪は計り知れない。それは時に農耕を、時に戦争を生み出したからだ。

「私たちは、生物史上最も危険な種であるという、芳しからぬ評判を持っているのだ」
➢ 皮肉かな。サピエンスは虚構によってネアンデルタール人との戦いに勝利し、文明を築き上げてきた。同時にそれは生態系の頂点に立つことを意味しているのではないか。果てしない幸福の追求は常に、世界中に棲む生き物たちの犠牲の上に成り立っているからだ。

「これまで考察されたもののうちで、貨幣は最も普遍的で、最も効率的な相互信頼の制度なのだ」
➢ ハラリ氏によれば、貨幣もまた虚構の一つである。紙幣や硬貨が取引の場面で「使える」のはそこに信頼という呪術的な力が込められているからで、信頼がなければそれらは効力を持たない紙屑と石ころに過ぎない。本来意味のないものに意味を与えて他者との協力を可能にしてしまう点は、サピエンスの最大の特徴として無視できない。

③総合

サピエンスは別の人類種との差別化を図るために無意識かつ本能的に認知の仕方を変形させて、虚構を作り出したのだろう。それは不特定多数の人間の心を惹きつけて支配する「麻薬」だという見方も可能で、人間の内面を反映した芸術や文学が何世紀にもわたって人々に愛される理由もこれで説明がつく。知的好奇心を刺激されながら下巻へ。

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