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読書:『失敗の本質』戸部良一ほか

①紹介

社会科学者の戸部良一氏を含む6人の学者ら(残りは寺本義也、鎌田伸一、杉乃尾孝生、村井友秀、野中郁次郎)による『失敗の本質-日本軍の組織論的研究』(中公文庫、1991年)を紹介します。日本軍はなぜ敗けたのか?原因は敵国アメリカが強大だったからではなく、日本軍という組織の内部にありました。非常時における報連相がいかに重要であるかを説く経営学の古典的名著です。

②考察

「日本軍の戦略策定が状況変化に適応できなかったのは、組織のなかに論理的な議論ができる制度と風土がなかったことに大きな原因がある」
➢ 議論は本来、想定外の困難を解決する方法を生み出すために行われるものだろう。組織を動かすためにはこれが必要であり、意見や主張は多く出されるべきだが、日本の組織は一つの主義を崇め、異論を嫌う点で柔軟性を著しく欠いていると言わざるを得ない。

「人的ネットワークを中心とする集団主義的な組織構造は、人間関係重視の属人的統合を生み出すし、業績評価においても、結果よりも動機や敢闘精神を重んじることになるであろう」
➢ 集団主義が重視するのは「組織メンバー間の『間柄』に対する配慮」である。意思決定の遅れはこれが原因で起きるものだ。日本軍は遊び感覚で米軍と戦っていたのではないか。敢闘精神は客観的なデータや競合相手に関する徹底的な下調べがあって初めて存在が許されるものだろう。それらを伴わない鼓舞は却って士気を下げるだけだ。

「異質性や異端の排除とむすびついた発想や行動の均質性という日本企業のもつ特質が、逆機能化する可能性すらある」
➢ 異端の排除が意味するのはイノベーションの否定、そして後退に他ならない。要はブラック企業である。この歪な性質を生み出すのはやはり「空気」だろう。それでは声を上げる勇気が無謀と見なされ、集団から浮いた存在となり、居場所を失いかねない。

③総合

組織というのは、上が駄目ならば下も駄目になる。これでは報連相もままならない。時代に合わせて内部の形態を変化させ、議論が盛んに行なわれる場として機能すべきだ。これこそ本書が空気の澱んだ現代社会に示す失敗の教訓だろう。

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