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読書:『いしぶみ』広島テレビ放送 編

①紹介

広島テレビ放送による『いしぶみ-広島二中一年生 全滅の記録』(ポプラポケット文庫、2009年)を紹介します。副題に込められているのは、ありのままの事実と戦争の悲惨さ、そして平和を求めることの意味。広島に原爆が落ちた日から今年で79年。何の/誰のための平和なのか原点に立ち戻って考えてみましょう。

②考察

「泳ぎのできない友人が、『ぼくらは先に行くよ』といって、万歳をさけんで川下に流れていきました。みんな、お母ちゃん、お母ちゃん、と大声でいっていた」
➢ 四学級の浜内茂樹くんが川の中で口にした言葉。救助されてまもなく彼は亡くなったと思われる。「先に行く」の一言が、将来を約束された者たちの希望を無下に破壊した原爆の恐ろしさを如実に物語っているようだ。年端もいかない少年にこれを言わせるとは。

「午後五時には、進め、進め、やっつけろ、と手をしきりにふりまわし、最後には、お母さん、おばあさん、とそれこそ声をかぎりに肉親の声を呼びつづけて死にました」
➢ 一学級の松井昇くんの最期を親戚が証言したものか。平和ボケした私たちは「進め、進め、やっつけろ」という言葉に複雑な思いを抱くに違いない。ただ今はその呪縛も何もかも忘れて安らかに眠り続けてほしいと祈るばかりだ。

「烈し日の真上にありて八月は腹の底より泣き叫びたき」
➢ 五学級の山下明治くんの母親が詠んだ歌。広島に原爆が落ちた8月6日の天気は快晴だったという。戦時中の無垢な一年生321人と教員4人の温かい「日常」が一瞬で奪われたことを考えると、言葉にできないものがある。

③総合

本書は、教育学者の齋藤孝氏が「全人類必読の書」と紹介するほどに人間の命の重さと儚さを現代に伝えるものであり、あちこちから戦争の足音が聞こえてきそうな昨今において、これからの平和教育のあり方について考えるきっかけとなるだろう。ただ、平和の精神を構築するには受動的(誰かから聞かされて覚える)であるよりも能動的(自ら資料を探し究める)である方が望ましい。戦争経験者の高齢化が懸念される今だからこそ取り組むべき課題だ。

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