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読書:『第三次世界大戦はもう始まっている』E.トッド

①紹介

フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏による『第三次世界大戦はもう始まっている』(大野舞訳、文春新書、2022年)を紹介します。2年前に起き、今も終息の兆しが見えないウクライナ戦争。その原因は何か?アメリカとロシアの思惑は?突入してしまった新しい戦争の経過とこれからを人口動態の観点から探ります。

②考察

● 「なぜ、ウクライナの人々はロシアに戻りたがるのでしょうか。プーチンに操られたからではなく、ロシアが再び魅力的な国になっているからです
➢ トッド氏によれば、父権性が強い共同体家族型のロシア社会が権威主義的であるのに対し、それが弱い核家族型のウクライナ社会は無政府主義に近いという。このことがウクライナが脆弱な国家としてあり続ける理由ならば、戦争前より起きているウクライナからの人口流出には納得がいく。

● 「この戦争は、『ウクライナの中立化』という当初からのロシアの要請を西側が受け入れていれば、容易に避けることができた戦争でした
➢ 当初「ローカルな問題」に過ぎなかったウクライナ問題はアメリカの軍事介入で悪化の一途を辿ることに。この辺りは、ソ連崩壊前後のロシア史と当時の欧米の対応、その周辺の諸学問に触れておかなければ解けない領域だろう。

● 「アメリカは“支援”することで、実はウクライナを“破壊”しているわけです
➢ 今日のウクライナとアメリカは相互依存の関係にあり、片方が潰れれば、もう片方も潰れかねない。自分の国益のためなら同盟国に兵器を簡単に「布教」するアメリカにとって、ウクライナ侵攻という有事は非常に好都合なのだろう。戦争が終わらない理由はここにあるのかもしれない。

③総合

憶測だが、私たち日本人がメディアを通して観るウクライナ侵攻の報道は大体がアメリカ経由で、アメリカとウクライナへの同情を誘う内容となっているのではないか。また、この戦争の様子だけを見ても原因や展開を掴むことは難しく、トッド氏が人口動態と家族システムの観点から論じているように、別の視点が必要となろう。戦争というものは、地政学だけでは解明できない諸要素を一気に露わにするからだ。

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