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読書:『21 Lessons』Y.N.ハラリ

①紹介

イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏による『21 Lessons-21世紀の人類のための21の思考』(柴田裕之訳、河出文庫、2021年)を紹介します。『サピエンス全史』と『ホモ・デウス』がそれぞれ人類の過去と未来を語っているのに対し、本書が指し示す地点は「今、ここ」です。情報が錯綜する現代に私たちが生きる意味を21あるテーマの中から探してみませんか?

②考察

● 「人間の愚かさの治療薬となりうるものの一つが謙虚さだろう」
➢ 要は、へり下る姿勢である。停戦に伴う対話の際には、自分の考えがどうであれ、まずは相手の意見に耳を傾ける。そういうことを教えてくれるのは宗教ではなく哲学の方だろう。宗教絡みの戦争は世界中で何度も起きたが、過去に哲学が戦争を引き起こした例が一つでもあるだろうか。

● 「この世で屈指の虚構は、世界が複雑であることを否定し、無垢の純粋さvs.悪魔のような邪悪さという絶対的な構図で物事を考える、というものだ」
➢ 白か黒か、善か悪かという二項対立によってもたらされる「ゼロヒャク思考」を指すか。人がこの虚構に陥ちがちなのは、それが単純だからだろう。しかしそれでは自力で深く考え問うことを忘れてしまう。「わかりやすさ」の罠は私たちの想像以上に大きい。

● 「自分について真っ先に知っておく必要があるのは、あなたは物語ではない、ということだ」
➢ 「物語」を人生と同義か、どう捉えるべきかは人それぞれだ。しかし、一般的に自分は自分であり、自身を物語と見なして生きている人間は皆無に近く、そのような自覚があるとは考えにくい。私たちは無意識的に自分を非物語化して生きていると思われるが、ハラリ氏が投げかけたこの問いにはより深い意味が隠されているのだろう。

③総合

上の考察は21あるテーマの中から3つ(「戦争」、「ポスト・トゥルース」、「意味」)選んで書いたものに過ぎないが、他の章もまた大きな問いの数々を読者に提供している。何事においても選択を誤らないというのは非常に難しい。今の私たちに求められているのは、できるだけ低リスクのものを選択する力とそのための経験だろう。

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