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書評:『22世紀の民主主義』成田悠輔

①紹介

イェール大学教授の成田悠輔氏による『22世紀の民主主義-選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』(SB新書、2022年)を紹介します。「革命か、ラテか?」と氏が警告するほどに、昨今の民主主義は風前の灯。それに代わる大胆で新たな構想は処方箋になり得るのか。考える余地があります。

②考察

● 「若者が選挙に行って『政治参加』したくらいでは何も変わらない」
➢ 「若者」の総数は日本の全人口の2割しか占めていない。しかもその大半が自民党に投票している。ポピュリズムの餌食になっているとしか言うほかなく、事実であると同時に、選挙を疑う力や思考を失った私たちへの警告と見なすべきか。

● 「民主主義とはつまるところ、みんなの民意を表す何らかのデータを入力し、何らかの社会的意思決定を出力する何らかのルール・装置である」
➢ おそらく今までの選挙でこの「データ」や「意思決定」が考慮されたことは一度もないだろう。そもそも紙切れ一枚で民意を示すこと自体が無理なのだ。記す政治家の名より遥かに重要なことが山ほどあると言うのに。

● 「民主主義の再生に向けた民主主義の沈没、それが無意識データ民主主義である」
➢ 市民による政治的議論が盛んな海外はさておき、それが忌避されがちな日本ではこれが導入されても良い頃だ。間接民主制を採用している時点で全く民主的ではない。この結果が今の裏金問題や増税策を生んでいるのではないか。好転を望むなら、私たちは議論するところから始めなければならないだろう。

③総合

本の内容はJ.オーウェルの『1984年』やアニメ『PSYCHO-PASS』と彷彿とさせるもので、SF要素が少なくない。現実と構想との間に差があると思ってしまうのは結局、私たちが義務教育時代の洗脳によって、本来あるべき柔軟な思考や批判力を削がれたからだろう。「新聞は真実を伝える」「みんな同じように」などと刷り込まれてきたがゆえに議論を嫌い、ポピュリズムに傾くのではないか。成田氏の構想を実践するのが容易でないことは確かだが、この瞬間にも私たちは「革命かラテか?」の二択を意識すべきだろう。

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