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書評:『銃・病原菌・鉄』(上)J.ダイアモンド

①紹介

アメリカの進化生物学者ジャレド・ダイアモンド氏による世界的ベストセラー『銃・病原菌・鉄 - 一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』(上巻、倉骨彰訳、草思社文庫、2012年)を紹介します。旧大陸のヨーロッパ人とアメリカ大陸の先住民とを根本的に分けたものは何か。すべては、ニューギニア人ヤリが著者に投げかけた一つの問いから始まりました。

②考察

● 「本書のタイトルの『銃・病原菌・鉄』は、ヨーロッパ人が他の大陸を征服できた直接の要因を凝縮して表現したものである」
➢ 銃器や鉄器は非ヨーロッパ地域で発明されたにもかかわらず、改良に改良を重ねて使いこなしたのは意外にもヨーロッパ人だ。彼らはまた、そのほとんどがアフリカ由来とされる疫病を克服して免疫を得ることに成功した。その要因に食料生産の開始が挙げられるのはにわかに信じ難い。

● 「人類史とは、その大部分において、農耕民として力を得た『持てるもの』が、その力を『持たざるもの』や、その力を後追い的に得たものたちに対して展開してきた不平等な争いの歴史であった」
➢ 農耕を始めた時期が早いか遅いかで勝敗が決まるというのは衝撃的な事実だ。それが技術の発展や強国作りに貢献したことも。だが、農耕を始めた時期が遅かったことは、その大陸の人々が知恵不足だったからではない。当時の環境要因に注目すべきだろう。

● 「大陸が東西に広がっていること、あるいは南北に広がっていることは、農業の伝播のみならず、技術や発明の広がっていく速度にも影響をおよぼした」
➢ およそ同緯度の地域では同じ農作物や発明品が見られるが、およそ同経度の地域ではそのような現象はあまり見られない。ユーラシアや北アメリカが経済的かつ文化的に栄えているのに対し、アフリカや南米の一部地域で原始的な社会が今もなお存続している理由の一つはそれだろう。

③総合

長期的な視点に基づけば、銃器と病原菌と鉄器の出現はいずれも、人類の食料獲得スタイルが狩猟採集(移動生活)から農耕と牧畜(定住生活)に移行したことに端を発することだと理解できるだろう。衝撃の連続を抑えきれぬまま、さらに人類史の核心に迫る下巻へ。

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