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読書:『海をあげる』上間陽子

①紹介

教育学者の上間陽子氏による『海をあげる』(2020年、筑摩書房)を紹介します。Yahoo!ニュース|本屋大賞2021年ノンフィクション本大賞に選ばれた本書が訴える沖縄の現実。母(著者)と娘、県民の喜怒哀楽に私たちが思うことは何でしょうか。

②考察

● 「あなたの窮地に駆けつけて美味しいごはんをつくってくれる友だちができたなら、あなたの人生は、たぶん、けっこう、どうにかなります」
➢ 幼い娘と何気ない日々を送る著者が読者に向けた一言。地元の若者たち(特に未成年の女の子)に聞き取り調査を行い、寄り添ってきた上間氏の研究姿勢が反映されているようだ。虐待に風俗、若年出産などを経験した当事者への傾聴を軽んずるべきではない。

● 「私たちはひととおり泣いたら、手にしているものはほんのわずかだと思い知らされるあの海に、何度もひとりで立たなくてはならない」
➢ 基地移設のために辺野古の海に土砂が投入される様子を見て落胆する上間氏は娘にこう語りかける。まるで、両手で掬い上げた生命が指の隙間から少しずつこぼれていくかのようだ。実は私自身、昨年に初めてここを訪れ、クリスチャンとして抗議運動に参加したのだが、それは壮絶の一言に尽きるものだった。

● 「この海をひとりで抱えることはもうできない。だからあなたに、海をあげる」
➢ 実際に現地に赴いた者として私は同じことを考えた。土砂を積んだ何台ものダンプカーの進入を遮るように、ゲート前で私は他の参加者と共に大声で抗議。しかし、座り込めば機動隊員に手足を掴まれ移動されられる。私たちは脇に追いやられ、ダンプカーは遠慮なくゲート内へ。上間氏の言葉からは諦めではなく、共有の意思が読み取れる。日本のどこにいようと、読者は彼女と一連托生の身なのだろう。

③総合

本書を含め、ここ最近の間に沖縄の歴史や社会問題に切り込む書籍を何冊か読んだのは、私が昨年公開の映画『遠いところ』を観たこと、そして辺野古の基地移設に抗議するために現地に赴いたことがきっかけである。私たちは隣の人のことをどれだけ知っているだろうか。「知る」ということを常に心がける者でありたい。

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