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書評:『沈黙の春』R.カーソン

①紹介

アメリカの生物学者レイチェル・カーソンによる『沈黙の春』(青樹簗一訳、新潮文庫、2004年)を紹介します。言わずと知れた環境問題の古典。農薬DDTによる生態系の破壊が、やがて多くの化学物質を生み出した人類に跳ね返ってくることを告発する本書は、現代に蔓延る人間至上主義を見直すうえで欠かせない一冊でしょう。

②考察

・「自然界では、一つだけ離れて存在するものなどないのだ」
→人間も例外ではない。本当は離れているべきなのだろう。時代の変化に伴い、人間は自分たちの生活や社会を向上させるために長く自然に頼ってきたが、もはや頼らずして生きてはいけない存在になってしまった。自然は人間がいなくても問題なく存続するが、人間はどうか。もはや癒着である。

・「自然の美しさ、自然の秩序ある世界――こうしたものが、まだまだ大勢の人間に深い、厳然たる意味をもっているにもかかわらず、一にぎりの人間がことをきめてしまったとは……」
→近代の合理主義が浸透した欧米では、美しい自然は専ら征服の対象とされており、そこに日本人が持つ自然への畏怖心はあまり見られない。資本主義体制を推し進める者にとっては尚更だ。まるで大航海時代に多くのインディオを迫害したスペイン人のよう。

・「おそろしい武器を考え出してはその鋒先を昆虫に向けていたが、それは、ほかならぬ私たち人間の住む地球そのものに向けられていたのだ」
→ありとらゆる農薬が殺虫目的で開発されているが、それに含まれている化学物質による害は限りなく広範囲に広がる。土壌に流れ込めば半永久的に残るので地中は汚染され、地上の獣や鳥は次々と死んでいく。生物濃縮の恐ろしさは人間生活と決して無縁ではない。

③総合

はるか遠い昔から人類は幸福のために科学を発展させて世に貢献してきた。しかし、それは同時に自分たちの生活基盤を自ら長い時間をかけて間接的に壊す行為であるとも言えよう。物質的な便利さの代償はいつの時代も変わらず大きい。昨今の環境問題、特にマイクロプラスチック問題の深刻さは、カーソンが鳴らす警鐘に非常に近いものを覚える。

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