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書評:『共産党宣言』マルクス、エンゲルス

①紹介

言わずと知れたドイツの思想家マルクスとエンゲルスによる『共産党宣言』(大内兵衛・向坂逸郎訳、岩波文庫、2007年)を紹介します。19世紀中頃に書かれたものとは言え、現代社会が抱える環境・労働問題にも一石を投じていると理解でき、その影響は計り知れません。

②考察

・「ヨーロッパに幽霊が出るーー共産主義という幽霊である」
→その「幽霊」は後に20世紀末のソ連崩壊と資本主義の勝利によって大半が消え失せたが、勝ったはずの資本主義が今度は「怪物」となって世界中に格差と気候変動をもたらしている。これを食い止めるために共産主義を採用することが仮に妥当だとしても、ソ連の失敗に学び、極めて慎重かつ厳正に捉え直さなければならないだろう。

・「今日までのあらゆる社会の歴史は、階級闘争の歴史である」
→最近よく聞く「勝ち組」と「負け組」は、昨今の日本における格差と深刻な労働問題を象徴している言葉かもしれない。世界には貧しくても幸福度の高い国がいくつかあるが、日本はどうか?幸福とは言い難い。見えづらい社会の暗部を解き明かすために、日本近現代史や国際経済史に触れる必要がありそうだ。

・「万国のプロレタリア団結せよ!」
→これをすぐに「ルサンチマン」の一言で片付けて良いのか?答えは否だろう。上の発言に同意する人は少なくないと思われるが、経済の話題になった途端、私たちは「金持ち(上級)か貧民(下級)か」という二項対立を用い、同時に「親ガチャ」と「自己責任」とを結びつけて因果関係を作りがちだ。お金以外の面でも人は価値観や学歴を理由に分断を引き起こしているような気がしてならない。団結することはなぜ難しいのか。社会心理学の視点も必要だろう。

③総合

本書はマルクスの主著『資本論』の要約ものとして気軽に読むことができるため、入門に相応しい一冊だろう。ソ連の末路や中国の現状を見れば、共産主義が昨今の日本や世界において不評であることは想像に難くないが、行き過ぎた資本主義によって荒廃しかけている地球環境や労働者の権利を回復する策として相応の力を持っていることは否めない。プロレタリアにとっては耳触りのよい文が続くが、用い方次第では悪になり得るため、歴史の一部あるいは反面教師と捉え、中身(具体策)を構想するくらいが現時点では良いだろう。

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