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読書:『ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ

①紹介

イギリス在住のライターであるブレイディみかこ氏の『ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー』(新潮文庫、2021年)を紹介します。南東部の都市ブライトンにある元底辺中学校に通うことになった息子の成長を綴った本書は、Yahoo!ニュース|本屋大賞2019ノンフィクション本大賞を受賞しました。

②考察

「多様性は、うんざりするほど大変だし、めんどくさいけど、無知を減らすからいいことなんだと母ちゃんは思う」
➢ 人種や性別、国籍、貧富の差……何から何までごちゃ混ぜの中学校に通い始めた息子が「多様性」に疑問を持ったことに対して。無知に気づいても差別がなくなるわけではないが、無駄なストレスは減るに違いない。結局は自分のそれに対する向き合い方次第だ。

「他人の靴を履いてみる努力を人間にさせるもの。そのひとふんばりをさせる言動力。それこそが善意、いや善意に近い何かではないのかな」
➢ 本書のテーマは「エンパシー」だ。これは異文化への寛容の前段階にある、自分と他者との間にある「違い」を一つの事実としてまずは受け入れよという意味だと理解できる。「善意」は悪い印象を持たれがちだが、エゴに満ちた安易なものでなければ、エンパシーに繋がるはずだ。

「僕は、人間は人をいじめるのが好きなんじゃないと思う。……罰するのが好きなんだ」
➢ 他者を裁くことによって生じるのが優越感というものではなかろうか。かく言う私も、人を差別していないとは断言できず、何かと理由をつけて誰かを差別しているに違いない。そこには「謙虚さ」の欠片もない。どうやら私たちは加害者にも被害者にもなり得る時代に生きているようだ。

③総合

本書が生まれたのは、EU離脱で揺れるイギリス国内の貧困を目の当たりにしつつ、底辺保育士として実子を含め多くの子供たちを見てきたブレイディ氏の経験に負うところが大きいだろう。ある地域内に住む人々の品格を測る役割を果たす社会状況が母子目線で素朴に語られているのが本書の魅力だ。貧困に苦しみ、「多様性」にぶつかっている点で、日本社会はイギリスのそれと大して変わらないのかもしれない。

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