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書評:『琉球王国』高良倉吉

①紹介

琉球史学者の高良倉吉氏による『琉球王国』(岩波新書、1993年)を紹介します。「なぜ沖縄の歴史は暗いのか」という学生の問いに端を発し、著者含め学者だけでなく、様々な職種のウチナーンチュも携わった研究の成果がここに。かつて繁栄した島嶼国家の姿が見えてきます。

②考察

● 「いまもって『日本のなかの沖縄』の内に『日本の外としての沖縄』が内包されている」
➢ 1972年の返還以来、沖縄は日本に属していながら良くも悪くも異彩を放ち続けている。地理的距離と心理的距離は同義か。歴史や基地問題、その他の情報が内地に伝わりにくいことが「日本の外としての沖縄」の意味するところだろう。

● 「辞令書とは、琉球王国がその内部に明確な組織編成をもっていたことを自己主張する存在であると同時に、それそのものが琉球王国のアイデンティティをアピールする役目を担っているということになろう」
➢ 辞令書は今で言う社内データのようなもので、ひらがな表記だが、発給年月日には中国年号が用いられており、冊封体制下の琉球が交易を通して明代の中国と良好な関係を築いていたことの象徴と見て取れる。「琉球」の名付け親が中国だという事実には驚嘆した。

● 「琉球王国論は、胸をはって自己主張すべきである。その場合、独りよがりになってはならないし、また、被害者的視点で自己を語ることも避けるべきだ」
➢ 2004年の沖縄国際大ヘリ墜落事故や1995年の米兵少女暴行事件が起きる前に本書が世に出たため、いま複雑な感情を抱く読者が現れてもおかしくない。それでも、琉球史の闇ではなく光に注目した学生の問いは大いに共有されるべきだろう。今はこうして研究の対象となっているからだ。

③総合

昨今、台湾有事に伴い「沖縄侵攻」という噂が飛び交っているが、ここで疑うことを忘れてはならない。琉球王国の歴史を正しく辿って理解しなければ、昨今の民族・基地問題、周辺国との関係に触れることはできないだろう。また、「沖縄=善、日米=悪」の二項対立に囚われてばかりでは危うい。歴史学的かつ地政学的な視点を伴う「アジアのなかの沖縄」には再考の余地が少なくないのだ。

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