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書評:『銃・病原菌・鉄』(下)J.ダイアモンド

①紹介

アメリカの進化生物学者ジャレド・ダイアモンド氏による『銃・病原菌・鉄 一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』(下巻、倉骨彰訳、草思社文庫、2012年)を紹介します。前回読んだ上巻の続きで、本書はその各論と言えるでしょう。エピローグにおける著者の歴史研究への熱意と使命がひしひしと伝わります。

②考察

● 「一つの発明が一つの社会で独自に誕生するか、それともよそから借用されるかは、その発明自体の難易度と、その社会と他の社会との隣接度という二つの要因に依存している」
➢ この説に従えば、島国の日本は、発明をアジア諸国から借用したということになる。とりわけ中国からは漢字を借用し、仮名を発明した。それを可能にしたのは、双方の地理的距離の近さと仮名そのものの作りやすさによるか。

● 「ヨーロッパ人がアフリカ大陸を植民地化できたのは、(略)ユーラシア大陸とアフリカ大陸の広さのちがい、東西に長いか南北に長いかのちがい、そして栽培化や家畜化可能な野生祖先種の分布状況のちがいによるものである」
➢ ユーラシア大陸に高度な文明を持つ国や地域があったのは、地理的な好条件が多く揃っていたからだ。標高が高いヒマラヤ山脈を除けば、発明が伝わるのを遮る大きな障壁はあまりなく、横一直線に伝播が急速に展開されたものと見て問題ないだろう。

● 「人間科学としての歴史研究(略)は、何が現代世界を形作り、何が未来を形作るかを教えてくれるという有益な成果を、われわれの社会にもたらしてくれることだろう」
➢ 歴史は時に後世の人々によって利用されかねないので、誤った見方をしてしまわぬよう徹底的な追究が必要だ。そうすれば自らを差別や偏見から解き放ち、近未来を予測することにつながるだろう。

③総合

私は上巻で大きな衝撃を受けたが、下巻の本書でも同じだった。とりわけ、私たちが所属する「国家」の起源に小規模血縁集団があり、それが人口の増加に伴い、部族社会や首長社会という変遷を経て国家に成り代わっていったことには驚愕した。変遷の過程で「宗教」が登場し、強国による暴力行使や自己犠牲を正当化したことは過去の歴史が物語っている周知の事実だ。

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