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書評:『疫病と世界史』(下)W.H.マクニール

①紹介

カナダの歴史学者ウィリアム・H・マクニールによる『疫病と世界史』(下巻、佐々木昭夫訳、中公文庫、2007年)を紹介します。前回読んだ上巻の続きですね。紀元1200年以降を生きた人類の長きにわたる疫病との戦いと共存、克服の歴史をご覧あれ。

②考察 

● 「ユダヤ人は、ペストの毒を故意にばらまいた下手人と見なされて、迫害されるのが常だったのである」
➢ 14世紀のヨーロッパにおける史実だが、101年前の日本でも似たようなことが起きた。関東大震災後に流れたデマをきっかけに朝鮮の人々が大量に虐殺された事件である。未曾有の混乱に際して人間が差別・殺戮に走ってしまうのは、陰謀論の盲信と同じく愚かだ。

● 「一方に、これまで孤絶していた共同体の徹底的な衰亡があり、他方、病気の経験を有する諸民族における人口増の潜在的な力が強まるという、この著しいコントラストは、ユーラシアの文明化した共同体に不当な優位性をもたらし、世界の均衡を失わしめた」
➢ 大航海時代にスペイン人がもたらした天然痘によって数多のインディオが死滅したことは、のちに「ヨーロッパ=優、アフリカ=劣」という二項対立を作り上げ、近代における合理主義と帝国主義が台頭する遠因の一つになったのではないだろうか。

● 「人類の出現以前から存在した感染症は人類と同じだけ生き続けるに違いない。そしてその間、これまでもずっとそうであったように、人類の歴史の基本的なパラメーターであり、決定要因であり続けるであろう」
➢ 人類は絶滅の瞬間まで疫病と闘い共存することになるだろう。いくらこちらが免疫を以て予防に努めてもウイルスは必ずや人間の虚を突き、隙間に入り込んでくるに違いない。それがウイルスの「生存」戦略ならば、私たちも生きるためにそれに臨むだけ。

③総合

疫病そのものは確かに恐ろしいが、何より恐ろしいのは、コロナ禍の際にも見られた風評被害や「自粛」に傾く空気、そして群集心理だ。その時、人は自らが「感染」していることに気づかない。翻弄されることのないよう、今後も疫病との遭遇が人類の宿命であり続けることを意識し、思索を重ねたい。

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