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書評:『FACTFULNESS』H.ロスリングほか

①紹介

スウェーデンの医師ハンス・ロスリングと彼の息子オーラ氏、その妻アンナ氏の三者による『FACTFULNESS-10の思い込みを乗り越え、データを素に世界を正しく見る習慣』(上杉周作・関美和訳、日経BP社、2019年)を紹介します。世界はそれほど悪くないと考えるためには。三十数年にわたる著者の経験が生んだ最強のデータ活用術が今ここに。

②考察

● 「人はドラマチックな本能のせいで、(略)いわゆる『二項対立』を求めるのだ」
➢ ロスリングはこれを「分断本能」と呼び、その原因を「ドラマチックすぎる世界の見方」にあると言う。私たちは、2年前に戦争を起こしたロシアを悪、起こされた側のウクライナを善と見なしがちだ。「アメリカ=善、中国=悪」もこれと似ている。2つの間にグラデーションがあることに注目すべきか。

● 「悪いニュースのほうが広まりやすい」
➢ もちろん、良いニュースよりも、だ。悪いニュースのほうが視聴率がとれるからマスコミにとっては好都合に違いない。メディアは視聴者が食いつくと知っていてそれを報道するのだろう。「ネガティブ本能」は厄介だが、抑えることは不可能ではない。

● 「宿命本能を抑えるには、ゆっくりとした変化でも、変わっているということを意識するといい」
➢ カタツムリのように動きが遅くても、長い目で見れば、変わらないものなどないことに気づく。数百年ものあいだ対話できなかったカトリックとプロテスタントが力を合わせて『聖書 新共同訳』を生み出したように。アフリカの一部地域における貧困も、世界各国におけるジェンダーギャップも半世紀前に比べたら大いに改善した。

③総合

私が②で挙げた本能(思い込み)は10のうちの3つに過ぎない。それらは脳の錯覚や知識の未アップデートが引き起こすもので、時に差別や偏見につながり、世界の見方を誤ってしまう。だから私たちは食物を摂るように、情報の収集にも努めなければならない。とりわけ、どこの国や地域に住んでいようとも、国民の平均寿命や生活の質、子供の数はそこの宗教・文化以上に所得によって決まるという事実は大きな発見である。

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