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読書:『新・100年予測』G.フリードマン

①紹介

世界的な情報機関ストラトフォーの創設者で「影のCIA」こと、ジョージ・フリードマン氏による『新・100年予測-ヨーロッパ炎上』(夏目大訳、早川書房、2015年)を紹介します。EUはこれからどこへ向かうのか?2014年のクリミア危機を予言した氏の先見の明に脱帽すること間違いありません。

②考察

「ヨーロッパの統合が紛争を防いできたというのが本当なら、EUなしでは、バルカンやコーカサスのような紛争が他でも起き、ヨーロッパの未来は多くの人の期待とは大きく異なるものになる」
➢ バルカンやコーカサスは多くの異なる民族や言語、宗教を抱えている。この二地域で起きた紛争を抑えるのにEUは尽力してきたが、完全に終わったわけではない。今EUが崩れかけていること自体、新たな紛争の兆候と言えよう。

「トルコの力が強くなれば、コーカサスやバルカンを含めたヨーロッパに長期的に大きな影響を与えることになるだろう。これまでのように単にトルコや他のイスラム諸国から多くの移民が来るということにとどまらない影響があるはずだ」
➢ フランスの作家M.ウエルベックの『服従』(河出文庫)の内容を彷彿とさせる。アジアとヨーロッパを結び、双方の「翻訳」を担ってきたトルコが時勢に従って力を持ち、世俗主義を捨ててイスラム原理主義に立ち返る可能性は否めない。

「重大な紛争はすでに起きている。ロシアとヨーロッパ大陸の間の、境界地帯をめぐる紛争だ。主な焦点となるのはウクライナである」
➢ 氏は、2022年のウクライナ戦争も予言したのではないか!境界地帯が紛争の火種あるいは緩衝地帯になりやすいということを知っていれば、どこで紛争が起こるのかをある程度予測することが可能となろう。

③総合

今やヨーロッパは世界の中心ではなくなり、大国アメリカにとって代わられた。創設以来、EUは平和を掲げてきたが、20世紀末より各地の紛争処理に追われ、その根底は揺らぎつつある。連帯意識が弱くなっている今、ヨーロッパのどこに火種が生じても不思議ではない。氏曰く、戦争は「その必要に迫られ(=現実に強制され)」て起こるものだからだ。

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