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毒書:『わが闘争』(下)A.ヒトラー

①紹介

ドイツの政治家アドルフ・ヒトラーによる『わが闘争』(下巻、平野一郎・将積茂訳、角川文庫、2001年)を紹介します。上巻に引き続き、これを読む日が来ようとは……。センセーショナルな文言が多いので、読む際には相応の覚悟と注意・批判力が要るでしょう。

②考察

「ただ健全であるものだけが、子供を生むべきで、自分が病身であり欠陥があるにもかかわらず子供をつくることはただ恥辱であり、むしろ子供を生むことを断念することが、最高の名誉である、ということに留意しなければならない」
➢ 今なら炎上不可避。そもそも「健常」や「欠陥」とは何か。大なり小なりの欠陥を持っていても、それと真摯に向き合い、乗り越えればその人は健常と言えよう。子を持つか否かは本人の意思だ。差別の種を蒔くのは今も昔も自称・健常者ではなかろうか。

「われわれが必要としたもの、また必要としているものは、(略)力強い大衆行進においてなされるべきなのであり、そして運動はその道を、(略)街頭を征服することによって開くのである」
➢ ヒトラーはドイツ国民の士気を高めるために手段を厳選したかのように思われる。民主主義は独裁と紙一重だ。2021年1月にアメリカの連邦議会議事堂がトランプ前大統領の支持者らに占拠された事件を思い起こさせる。

「国家社会主義運動は、わが民族の人口と面積の間のふつりあい(略)や、わが国の歴史的過去と希望がもてぬわれわれの現在の無力さとの間のふつりあいを取り除くように努力しなければならない」
➢ この二つの「ふつりあい」を取り除くために行われたものこそ、アウトバーンの建設や失業率低下、福祉政策ではなかろうか。この時すでにドイツ国民は思考を捨てていたのかもしれない。

③総合

人は自分を絶対に正しいと思い込んだら最後、SNS上のいわゆる「○○警察」にあっという間に転落してしまう。そういう意味では洗脳も同じようなものだ。これを退け、自分で考える力を養うために誰かと議論を重ね、読書などを習慣づけることが重要になるのではないか。悪名高さのゆえか、本書に数多くの教訓が見られるのが何とも皮肉である。

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