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レバノンにあるシリア難民の子どもたちが通う学校

こんにちは。世界一周をしながら、各国の学校で授業をやらせてもらっている飯塚直輝です。2010年から12年間勤めた私立中高の英語教員を辞め、2023年3月から旅を始めました。台湾、フィリピン、ベトナム、シンガポール、インドネシア、タイ、ネパール、カンボジア、バングラデシュ、インド、スリランカ、パキスタンを訪れ、1300名以上の生徒たちを教えました。現在13カ国目のレバノンにいます。

旅の日常はInstagramのストーリーズや動画にアップしています。

現在、レバノンにおりまして、シリアからの難民の子どもたちに教育支援をしています。僕がお世話になる学校 Greenhouse for all は、現地に住む日本人の西野義人さんが運営をしており、ご縁をいただき伺うことになりました。イスラエル・パレスチナ間の争いがレバノン国境付近にも飛び火しておりますが、今のところ僕がいる場所は特に問題ありません。この記事では、レバノンに来てから僕が知ったシリア難民の現状や感じたことを、教育に焦点を当ててお伝えし、最後に寄付とお話会の情報を共有します。

レバノンに来るシリア難民

レバノンにはシリアの難民が150〜200万人ほどいると言われており、現在僕がいるシリアとの国境近くには、レバノン人よりもシリア人の方が多く住んでいます。難民というと難民キャンプのイメージがありますが、実際はそのイメージと少し異なります。掘立て小屋のような家に住んでいる人もいれば、難民登録をして、古い建物に住み、マーケットや飲食店で働くシリア難民もいます。

学校に通う子どもたちが住む家

今日も、昼食を食べるためにレストランに入ると、高校生3人組が嬉しそうに話しかけてきました。彼らにどこ出身か尋ねると、シリア人だと教えてくれました。レバノンへの入国方法は違法か合法かわかりませんが、彼らはレバノンで普通に暮らしていて、子どもたちは学校に通い、大人たちは仕事をしているのです。

レストランで会った彼らもシリア出身

多くの難民が生活するレバノンですが、2020年からの経済危機により、ハイパーインフレが起こり、生活苦が続いています。公立学校では劣悪な労働環境と低賃金により、教員のストライキが起き、9月から始まるはずの学校はいまだに閉鎖されています。お金を出して私立学校に通える子たちは問題ないのですが、貧困家庭、難民の子どもたちは日中やることもなく、学びの機会を奪われています。加えて、難民の子どもたちの家庭には、彼らの立場から起こる様々な問題があります。貧困、家庭内の暴力はもちろん、僕らが想像できない問題として、家が狭く兄妹も多いため、一人になれる場所や時間がなかったり、あまりに狭い空間で多くの人が暮らしているので、自分の悩みを誰にも話せずにイライラしている人も多くいるそうです。

「難しい」子どもたち

僕が現在お世話になっている学校には、小学生から中学生までの75名の生徒が通っています。シリアから来た難民の子どもたちが多数通う学校で、授業料無料です。自身も難民であるシリア人やレバノン人の先生4名が教壇に立ち、授業を行っています。

学校の運営資金が十分ではないため、先生の数が足りていませんし、学校の設備が不十分です。子どもたちは、自分の思い通りにならないことがあると相手を殴ってしまったり、金切り声をあげたり、泣いたふりをして、自分の意思を通そうとします。それらのどこまでが、シリア人の国民性や文化かわかりませんが、今まで僕が訪れた世界の様々な学校の生徒の中では、最も「難しい」生徒たちです。

もちろん「難しい」生徒には、その要因があります。例えば、彼らが意見の異なる他者を説得するときに、唯一知っている解決方法が、相手に暴力を振るうことなのかもしれません。また、彼らには兄弟姉妹が多く、小中学生の子どもたちが放っておかれる状況の中で、泣いたり、金切り声をあげないと、親が彼らの方を振り向いてくれないのかもしれません。理由がどうであれば、「難しい」子どもたちの行為の要因は、決して子どもたち自身の素質だけではなく、彼らが取り巻く環境にもあります。シリア難民であること、貧困であることは、彼ら自身のアイデンティティーでもありますので、それを簡単に見下したり、気の毒に思ってはいけませんが、生きていく上での困難や障害となることもあるのです。

学校での彼らの一日

具体的に学校での1日を紹介します。朝、8時半に子どもたちが登校してきます。生徒の多くは近くのキャンプ(いわゆる報道でよく目にするテントのような家)から学校に来ています。彼らの服は昨日と同じものがほとんどです。朝からお菓子を食べている子もいます。僕が街を歩いていても、お菓子を食べている子が本当に多いです。子供たちが簡単に手に入れることができ、安価で十分にカロリーを摂取できるのは、スナック菓子やチョコレートです。

8時50分に授業が始まります。生徒の中には、まだ1歳の兄妹を連れて授業に参加する子もいます。授業を担当するのはシリア人の先生や短期ボランティアです。僕も英語の授業を担当させてもらいました。先生方もすべてシリア難民の方々です。子どもたちはアラビア語を話せる大人たちと話すのが大好きです。家では、話を聞いてもらえなかったり、構ってもらえない子も多いそうです。休み時間には先生の周りには常に生徒が集まり、嬉しそうに話をします。

他国の学校と大きく異なるのは、授業中、立ち歩きや奇声を発する子供たちが非常に多く見られることです。集中力がなく、気だるそうな子供たちも多いです。男女関係なく、年齢に関わらず、多くの生徒がイライラして隣の子にちょっかいを出したり、口論は日常茶飯事。殴り合いの喧嘩になることもあります。これを書いている日は、殴り合いの喧嘩が3回もありました。

先生たちが努力して教材を用意しても、子どもたちが集中しない、立ち歩く、喧嘩が起こる環境だと、その準備は無駄になってしまいます。そして心身ともに疲れ切った先生方は、言葉少なく家に帰ります。月曜から金曜までその繰り返しです。

僕が西野さんから話を聞いた上での推測ですが、これからの問題が起こるのは、学校の組織化がまだ十分になされていないことはもちろん、資金不足で先生を十分に雇えない、生徒の数に対して机や椅子を買えないことが、大きな要因です。「シリア難民の支援をする学校」の現実は、金銭面で苦しく、葛藤に満ちた日常なのです。

机と椅子のみの教室。電気がない。

イスラエルの国旗を踏みつける

僕が授業に参加した初日にこんなことがありました。美術の授業で絵を描いていた子どもたちが、国旗を描き始めました。子どもたちはシリア人なので、当然シリアの国旗を描くかと思っていましたが、彼らが描いたのはパレスチナの国旗でした。そして大声で歌を歌い出し、感情が高まる中で、パレスチナの国旗を完成させた子どもたちは、それらを教室に掲げたり、喜んで僕に見せたりしていました。

パレスチナ国旗を嬉しそうに振る少年

すると、ある子が別の国旗を描き始めました。それはイスラエルの国旗でした。感情が高まった子どもたちは、イスラエルの国旗を床に置き、踏みつけ、くしゃくしゃにして、投げ捨てました。子どもたちはまだ小学生です。こんなに小さい彼らが、なぜ強い怒りの感情を持ち、そのような行為をしてしまうのか、僕は教室の端で、ただ呆気に取られて立ち尽くしてしまいました。そして、ただただ悲しい気持ちになりました。

子供達が描いたイスラエルの国旗(少し違うけどね)

彼らが大きくなり、戦争が続いていたら、彼らは進んでイスラエルを攻撃する部隊に入るかもしれません。シリア難民である彼らがイスラエルに抱く憎しみの感情がどこから来るのかも考えてしまいました。僕がぼーっと考えているうちに、子どもたちの感情はさらに高まり、2つ目の国旗の絵が踏みつけられそうになっていました。

「もしイスラエルの子がこの光景を見たらどう思うかな?」

このタイミングで、彼らの行為に気がついたシリア人の先生、我に帰った僕も子どもたちの行為を止め、僕はイスラエルの国旗を回収しました。

シリア人の先生が機転を効かせ、授業を中止し、円座になり対話の時間を取ろうということになりました。子どもたちを座らせ、シリア人の先生が「パレスチナの国旗を描いたり、それを讃えたりするのは悪いことではないけど、イスラエルの国旗を叩いたり踏みつけることはいけないことだ」と話します。しかし、子どもたちは話を聞いているものの、どうも納得しない顔をしていました。「Naoも話したいことがあればアラビア語に翻訳するから言ってね」とシリア人の先生が言ってくれたので、僕も対話に参加することにしました。

「君たちがイスラエルを憎む理由はあるのかもしれないし、それは理解できる部分もある。でも君たちのしたことを考えなければいけないよ。もし自分たちの国旗を誰かが叩いたり、踏んだりしたらどう思う?」と尋ねると、子どもたちは「悲しくなると思う」「怒ると思う」と言います。この答えを聞いて、子どもたちは、現実に起こっていないことの想像する能力があることがわかり、安心しました。

次の質問をしました。「イスラエルの同い年の子がここにいて、君たちのしたことを見たら、どう感じるかな?」と尋ねると、ある子は「殴ってくると思う」と答えました。実はこの一人目の回答を聞いた時点で終業時間になり、シリア人の先生も対話をやめてしまいました。全員から答えを聞けなかったことが非常に悔やまれます。しかし、起こっていないことを起こったと仮定して自分の感情がどうなるか想像することだけではなく、イスラエルの人の感情がどうなるかの想像をする能力を子どもたちが持っていることが分かったのには、大きな意味がありました。

レバノンが戦争に巻き込まれてしまったら

僕はこの学校でボランティアとして働き始めてまだ4日目です。毎日学校が終わると「子どもたちが抱える問題に対して、自分はなんて無力なんだ」と打ちのめされます。日本にいて、世界で起こる戦争のニュースを見ていた時も同じような気持ちが生まれましたが、目の前に子どもたちがいるのに、アラビア語が話せない、彼らの想いや文化を真には理解できないことに、より一層悔しさを感じます。現在、世界各地で起きる戦争やそれに苦しめられる人々、子どもたちに対して、遠い世界の国にいる人々ができることは、残念ながらほとんどありません。現地に来ても無力感を感じるのに、日本にいたら尚更だと思います。

イスラエル・パレスチナ戦争に、レバノン(レバノンの過激派組織ヒズボラ)が軍事介入をし続けることで、レバノンの国全体も紛争地域になる可能性があります。一部の国からはすでに避難推奨があるそうです。もし戦火が大きくなれば、この学校を支援するボランティアは国外避難し、学校も封鎖されるかもしれません。そして子どもたちは、通う学校がなく、また「難民」となってしまいます。僕らが今だからできることは何でしょうか。

今すぐ必要なもの

彼らに今一番必要なものは、安心して生活できる家庭環境や愛です。そして家庭で問題が起こった時に、彼らの逃げ場となる学校や地域コミュニティーです。その全てを支援するのは難しく、僕が支援できるのは学校内にいる5時間程度でしかありません。しかし、その5時間で人生の救いになる子もいるはずです。現在学校では、鉛筆やノートなどの学習道具だけではなく、机や箒などの備品も不足しています。質のいい教材もありません。先生方が手弁当でテキスト、授業で使う教材を用意しています。しかし、今後もこの学校は、難民のご家庭から授業料を取らずに、寄付だけで運営をしていく方針です。

そんな学校や子どもたちに対して、僕が見聞きした情報を皆さんに伝え、寄付を募ることができると思い、この記事を書くことを決めました。一時的な支援になってしまうことの批判は受け止めますが、支援をしないよりは良い状態に近づくと信じています。

お話会の案内と寄付のお願い

寄付だけではなく、シリア難民の現状を皆さんに知ってもらうため、Zoomでのお話会も開催しようと思います。現地に行かないと気付けないシリア難民の現状や学校の詳細などを、運営をしている日本人、西野さんにインタビューする形で、皆さんに共有する予定です。以下イベントの詳細です。

Naoと世界を旅する教室 お話会 @レバノン
日時:11月4日(土)20時〜21時半
形式:Zoomウェビナー
参加費用:1000円(1000円以上も選べます。頂いたお金は寄付します)
内容:「シリア難民の子どもたちと共に作る平和な世界」

戦争の火が大きくなる現在、レバノンの地でシリア難民の子どもたちのための学校を作る日本人がいます。西野義人さんです。西野さんは新聞記者や営業マン、高校教師、児童相談所での子どもの生活支援や、困窮する貧困家族やシングルマザーの相談・心理サポート、災害時の支援ボランティアなどを経て、現在レバノンでレバノンに住む難民の方々に対して、農業支援や教育支援を行っています。西野さんの活動への想いやご苦労を話していただいたり、シリア難民の子どもたちを教育することの難しさとやりがいをお話いただきます。暗い話になりそうですが、最後には「みんなで平和な世界を作ろう」と前を向けるようなお話会にしたいと思っています。

お話会の第一部(20分ほど)では、飯塚の自己紹介とレバノンの学校で見たことをお話しします。第二部はシリア難民の子どもたちのための学校をゼロから作った西野義人さんにレバノンに来た経緯から学校作りをする上での難しさをお話しいただきたいと思います。最後の30分ほどは質疑応答の時間を取り、皆さんからの質問に西野さんや僕が答えたいと思います。

参加費用は、1,000円から10,000円を選べるような形になっており、何枚買っていただいても構いません。1000円分を買っても、10000円分を買っても、同じ一人分のチケットです。お話会前には1000円分を購入し、お話会後に買い足すことも可能にする設定にする予定です。皆様からいただく参加費用はPeatixの手数料を除いて、全てこの学校に寄付しようと思います。もし当日参加できない方は、チケットを購入していただければ、後日録画したものを共有させていただきます。また寄付だけしたいという方も歓迎いたします。11月のお忙しい中ですが、ぜひ多くの方にご参加いただければ幸いです。


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