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台本冒頭「ASAKUSA THUNDER GATE」

こちらは2022年上演、妖精大図鑑「ASAKUSA THUNDER GATE」上演台本の冒頭です。

浅草で上演ということで、観光について。そしてその時心を占めていたオタクのことをテーマに「推しのライブのチケットに当選して初めて地球にやってくる女の子の話」を書きました。



妖精大図鑑
「ASAKUSA THUNDER GATE」

【天の川銀河の一角にて前口上】
天の川銀河の一角。舞台上には観測者が一人。

みしらぬミチ:
宇宙に一千億個あるという銀河、の中の一つ、天の川銀河。の中にある二千億個から四千億個ほどある恒星。の中の一つ。太陽。この太陽を中心にぐるぐる回る天体の集団を、太陽系、The Solar System(ザ ソーラーシステム)と言います。太陽系には8つの惑星があり、その中の一つに地球という星があります。この地球という星はゴルディロックス惑星。つまり恒星との距離がちょうどいい星。水が液体で存在する、生存可能領域。そんなわけで昔々、この地球という星に生命が誕生し、そしていろんな形に進化していったというわけです。ところ変わって、太陽系から見て、みずがめ座の方向に40光年ほど行ったところに、レッドドワーフ、赤い恒星があります。地球の言葉でTRAPPIST-1(トラピストワン)というこの恒星には7つの惑星があり、そのうち三つがゴルディロックス惑星です。その惑星の一つTRAPPIST-e(トラピストイー)。見えますでしょうか?
さらに拡大してピントを合わせますと、この星で暮らす女の子が見えてきます。この子が今回お話しするタビー・ビット。タビーはここ最近、太陽系で活動する音楽ユニットに大ハマりしています。ソーラーシステムというグループには、それぞれ惑星をモチーフにした8人のメンバーがおり、特に第三惑星アースがタビーのお気に入り。さて、ここはタビーの部屋で、今から近所の友達、ユージーン・ロケットがやってきます。これだけわかっていれば、もうこのお話しは大丈夫。さあ、星を観測しましょう。

タビーの部屋、タビーは開封した手紙を見つめて固まっている。そこに友達のユージーンがやってくる。

ユージーン:(形だけドアをノックするが返事は待たない)タビー、昨日の最新話やばくない?我慢できなくてリアタイしちゃったよ~!
タビー:…当たった…
ユージーン:え、何?…厳正なる抽選を行った結果…
タビー:ソーラーシステムの地球公演のチケット…当たった…!

【オープニング はじまりはじまり】
♪M1 ダンス
黄金のチケットを手にしたタビーは、地球へと向かう。チケットは手から手へ。この先の旅路で出会う、様々な観測者たちと風景たちの予感。そのチケットはタビーをどこに連れて行ってくれるだろうか。時空の歪みから現れた手によって、チケットは不確定な宇宙へと飛んでいく。場面変わって、ここは地球へと向かう宇宙船の中。

【旅は未知との遭遇】
アナウンス:本日はギャラクシーラインをご利用くださいまして、誠にありがとうございます。この宇宙船は太陽系コメット11号、太陽行き、急行です。途中停車駅は、海王星、天王星、土星、木星、火星、地球、金星、水星です。準惑星、衛星には止まりません。
     
タビーは座席に座っている、するとそこに、みしらぬミチがやってくる。

みしらぬミチ:すんませーん。ちょっといい? あのぉ、今って宇宙歴1125年26月27日の18時15分であってる? 
タビー:えっと…あってます
みしらぬミチ:ありがと。いやー、ちょこっと訳ありでね。あははは!あ、ここ座ってもいい?
タビー:ど、どうぞ。
みしらぬミチ:ありがと。旅は未知との遭遇ってね。ところでさぁ、キミなんて名前?
タビー:えっと、タビーです。タビー・ビット…
みしらぬミチ:ふうん。タビー・ビットさん…あはは…ごめんごめん変じゃないよ。旅人にはピッタリの名前だね。あはははは。
タビー:はあ…
みしらぬミチ:ところでさぁ、これからどこへ行くの?
タビー:地球に行くんです。
みしらぬミチ:地球に行くんだ!知ってるよ!いいところだよね!
タビー:行ったことあるんですか?
みしらぬミチ:あっちこっちの星をフラフラしてるんだ。地球には何しに行くの?
タビー:ソーラーシステムのライブを見に行くんです。
みしらぬミチ:ソーラーシステム!へえ!チケットの倍率すごいんでしょ?
タビー:知ってます?そうなんです。ダメもとで抽選したら当たって…
みしらぬミチ:遠征ってやつだ!
タビー:はい…!遠征、初めてで、ワープも初めて乗りました。
みしらぬミチ:いいねいいね!太陽系までくるのも大変だったでしょ?
タビー:そうなんです、先生たちのメモ見ながら…あ、友達とか、地球に詳しい先生にアドバイスもらって。
みしらぬミチ:えー!いいねいいね!え、地球までまだまだあるしさ、聞かせてよその話。

タビーの回想。学校での出来事。E先生の研究室に飛び込むユージーン。

ユージーン:せんせーーー!たのもーーーー!
E先生:え?!なに?!ちょっと研究室入る時はノックしてって言ってるでしょ?!
ユージーン:せんせー!地球!地球当たった!
E先生:は?なに?地球?
ユージーン:タビーがソラの、あ、ソーラーシステム分かります?今バチコンきてる太陽系音楽ユニットなんですけど、それの地球公演のバチクソ倍率高いチケット当選した!
E先生:あ、そうなの?タビーさん。
タビー:E先生、あの、地球って行った事あります?
E先生:あー……まあ何回か…
ユージーン:せんせー!遠征だよ先生ー!まず何をどうしたらいい?!
E先生:ええ?そうねえ…会場はどこなの?
ユージーン:ASAKUSA?のホワイトホール!
E先生:ASAKUSA…あー、うんわかった。島だね。
ユージーン:島?
E先生:地球って水が多いんだよ。
タビー:海!海ですよね!
E先生:お、よく知ってるねえ。
タビー:アースのソロ曲で出てくるんです!水の惑星地球!
E先生:(タビーを指して)もう大丈夫じゃない?
タビー:行き方とか乗り換えとかは全然わかりません!
E先生:ああ、そうねえ…こっから行くとすると…

(銀河地図アプリを開く)

E先生:まず定期便に乗って、隣の惑星、TRAPPIST-fまで行きましょう。TRAPPIST-fはTRAPPIST系の中でも大きな惑星で、外の恒星系へのワープ船も多く行き交っています。ワープ船は利用するために天の川パスポートが必要です。これは作るのに時間がかかるので前もって作っておきましょう。

イマジナリー保安検査場で引っかかるタビー。ビビーーーー

ユージーン:(職員のふりで)ベルトとピアスと靴底、全部ダメなので外してくださーい
タビー:あ、はい。
ユージーン:あと搭乗券とパスポート見せてくださーい。はいありがとうございます。123番乗り場に向かってください。(次に通ろうとしたE先生も引っかかる)ビビーーー
      
(キャストの自由「こんな保安検査場はイヤだ」30秒ほどで)

E先生:え、ごめんこれ何してるの?
ユージーン:シミュレーション。
E先生:全部間違えた。話を戻すね。ワープには「ひずみ」「ゆがみ」「ねじれ」の三つの種類があり、太陽系に行くには「ねじれ」の「オールトの雲行き」に乗ります。オールトの雲は太陽系の最も外側にある天体群であり、この駅で太陽系を走る宇宙船、コメットへと乗り換えます。地球への直通便とそれぞれの惑星を回っていく急行とがあって、どちらに乗っても地球にたどり着けますが、値段が違います。あと指定席か自由席かによっても若干値段が変わります。ちなみに、衛星へ行く場合は途中で各停に乗り換えましょう。
ユージーン:直通便乗る?
タビー:乗らないよ!お金ないし、それにそれぞれソーラーシステムの聖地だよ!回っていかなきゃ!
ユージーン:やったー!土星名物「土星のわっか」買ってきてね!
ママン:ナニシニキタ?!
タビー:サイトシーイング!サイトシーイング!
ママン:(無言でハンコを押す。バンッ)
E先生:こっちは誰なの?
ママン:入国審査官です。
ユージーン:タビーのママ。
E先生:お世話になっております。
タビー:E先生、地球出身って聞いたんですけど本当ですか?
E先生:ご先祖さまがね。おばあちゃんの代からトラピスト生まれトラピスト育ち。

回想終了。宇宙船の中に戻っている。

みしらぬミチ:へー!それで異星文化論の先生になったの?
タビー:「きっかけとしてはそうですね~」って。
みしらぬミチ:へー。俺の友達にも居るよ。地球出身の奴。いや、それにしても、身近にそんな先生がいて、ラッキーだったね!
タビー:はい!いろいろ相談して…

 回想が喋り出す。

ユージーン:何着ていくべき?充電器ってこのままでいいの?これだけは食べといた方がいいもんって何?
E先生:その全てがこの本に書いてあります。
タビー:これは…?

みしらぬミチ:「地球の歩き方」!

【風神と雷神】
言わずと知れた名ガイドブックは、地球の名所をこのように紹介してくれる。

地球の歩き方:ASAKUSAといえば、そうサンダーゲート。これは正式には風雷神門と言って、風神様と雷神様が守っている門。火事による焼失と修復を繰り返し、1795年の修復の際に提灯が追加されました。それまで提灯はなかったんですね。そして時は経ち、修復と改良を続けた結果、サンダーゲートは今の大きさになったというわけです。見えますでしょうか?ここASAKUSAにやってくる宇宙船を迎える大きなゲート。いやー壮大ですね。左側が雷神様、右側が風神様。あーという口と、うんという口。あれがいわゆる阿吽の呼吸という奴です。

風神:あ
雷神:うん
 
飛行機や宇宙船が行き交うASAKUSAターミナル。それらの離発着所を司るサンダーゲート。ターミナルの一角、入星審査場で働いている風神様と雷神様は、次々やってくる入星者たちのパスポートに判子を押している。

風神:あ?
雷神:うん?
風神:ああ…
雷神:うん
風神:あーーー…
雷神:……うーん…うん。(判を押す)

龍神様がやってくる。

龍神:風神様~雷神様~。
風神:あ、お疲れ様です。
龍神:交代するので、休憩行ってきちゃってください。
雷神:うん。お疲れ様。
龍神:お疲れ様です~

タイムカードを打刻しながら話をする風神雷神。

風神:あ、そうだそうだ。有給取るって言ってたけど、明日からだっけ?
雷神:うん。そう。三日。
風神:ライブ?
雷神:ライブもなんだけど、他の星から友達がくるんだ。
風神:あー。じゃあ観光案内だ。
雷神:うん。

場面変わってコメットの中のタビーとミチ。機内食のメニューを見ながら話している。

みしらぬミチ:キツネさん?
タビー:いや、どうやらホントは違うらしいんですけど…私が間違えてそう言ったら、気に入ったからそれで良いって言って…あ、すみませんこの「こんにゃく」ってなんですか?
みしらぬミチ:地球の言葉がなんでも分かるようになる補助食品。地球行きの希望者には機内食で出してくれるの。
タビー:わ、絶対食べなきゃ。そうだリアルだと自動翻訳つかないんだ。
みしらぬミチ:そうそう。え?キツネさんとは初めて会うの?
タビー:会うのは初めてなんですけど、クレーターで、あ、クレーターっていうSNSがあるんですけど。
みしらぬミチ:知ってる知ってる。
タビー:そこでお互いソーラーシステムのファンだっていうので友達になったんです。
みしらぬミチ:えーじゃあキツネさんに会えるのも楽しみだね。
タビー:はい!会うのは初めてなので、ちょっと緊張します。

 ところ変わってASAKUSAターミナルのロビー 

雷神:シマシマさん?
タビー:キツネさんですか…?
雷神:うん。
タビー:うわ!えっと初めまして…っていうのもなんか変な感じですけど…えっと、こんにちは。タビーです。
雷神:タビー?
タビー:あ、タビーが本名で、タビー・ビットと言います。地球でお世話になります。
雷神:うん。タビー、地球にようこそ。


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