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In One Person

The Hotel New Hampshireを読んだとき、はじめて Paul Austerを読んだとき以来の衝撃がわたしの全身を駆け巡った。

その一作でJohn IrvingがわたしにとってPaul Austerに並ぶ敬愛する作家になる確信が芽生えた。Irvingの紡ぐ一語一句がページから浮き上がって彼の世界に「おいでおいで」と誘っているかのようだった。
彼の描く世界に心から嫉妬した。彼の言葉に抱かれて生きたいと思った。彼の描く人々が、空が、生き物が、建物が、全てが美しかった。

Paul Austerの作品をわたしは「人生讃歌」だと思っている(勿論すべてがとは言えないが)。
The Hotel New HampshireもAusterとは違ったアプローチの「人生讃歌」だと感じた。
そして今回、In One Personを読了してIrving自身の世界が ーAusterの世界の様にー「人生讃歌」なのではないかという気がし始めている。

この年になるまでこれほど世界で愛されている偉大なIrvingの作品を読んでこなかった自分を恥ずかしいと思う一方で、未だページを捲っていない彼の作品が多数わたしを待ち構えていると思うと、興奮で叫び出したくなる!

話が逸れてしまったが、In One Person。
2012年に出版された比較的新しい作品である。

この作品の主要テーマはずばり”sexuality"だと言っていいだろう。

Billyというバイセクシュアルの少年が作家になり、1980年代のAIDsの大流行を生き抜き、様々な人々の愛と生と死にふれていく人生を描いたストーリーである。

Irvingがセクシャルマイノリティーを聖人化せず生身の人間として描いている事が胸を打った。
子供たちの奔放な性的好奇心がコミカルに描かれているし、
Billyと幼馴染みのElaineが抱えるいじめっ子のKittredgeへの長年の片想いもなかなかに屈折していて面白い。

Geeという少年に今は “transsexual” という言葉の代わりに “transgender” という言葉を使うんだと指摘された時、Billyはきっぱりと拒否をする。
「僕はかなりリベラルな人間だけど、何にでもイエスと言うわけではない。」

Irvingのキャラクターはみんな人間味があって、芯があって、格好いい。とても「性格の良い」とは言えないが、愛おしくて美しい人々だ。

“sexuality” というテーマを決して重く捉えず、コミカルに、思わずクスッと笑ってしまうトーンで扱っているのにも関わらず、この作品を通して私が最も強く感じた感情は「怒り」だった。

「間違っている」「勘違い」だと認めてもらえないことへの怒り。
「気持ち悪い」「異常者だ」とラベル貼りをされてしまうことへの怒り。
愛する人の側にいられないことへの怒り。愛情を拒否されることへの怒り。
2020年は、多くの人がエイズによって命を落とした80年代によって幾らか行きやすい時代になったのだろうか。未だ強い怒りを覚えて生きている人が沢山いるのではないか?

ありきたりだけど美しいと思ったシーンを一つ。
義理の父にどんなテーマの本を読みたいのかと聞かれたBillyは「愛してはいけない人を愛してしまう」テーマの本を読みたいという。
義理の父はBillyに優しく諭す。
「愛してはいけない人なんていないんだよ」と。




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