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Shoplifters

長いこと評判を耳にしていたけれども、なかなか手を出せずに出ていた「万引き家族」。 同作品を撮った是枝監督は、「そして父になる」を見てから何となく苦手になってしまっていた。 福山雅治演じる野々宮良多の家族の境遇が何となく私の家庭に似ていて、でも実際はあんなに素敵なお話にはなれないよなぁ、なんて少し卑屈な気持ちになってしまったのが正直なところ。 そんな訳で、気にながらも見れていなかった「万引き家族」だが、彼氏のお父さんが見たよ、というメッセージを送ってくれたので、私も見てみよう、

    • The Half of It

      セクシャルマイノリティーがテーマの一つな事を知らずに見たので、(というか事前情報ほぼゼロで見たので)なかなかに楽しめた。 ラブレターを代筆する役割を引き受けた事で、自分も恋焦がれる人気者の少女へのアメフト男子の片思いを助ける事になってしまう女の子のお話。 読書家でミステリアスな美女エスターは確かにクラスにいたら惹かれてしまうと思う。アメフト男子もアホ丸出しな脳筋かと思いきや、意外にも率直で心優しい男の子。ウィットに富んでいてちょっとニヒルな主人公エリーは言うまでもなく、な

      • A Rainy Day in New York

        ウディアレンの最新作。ニューヨーカーでお坊ちゃんの大学生ギャッツビーはガールフレンドのアシュリーが得たニューヨークでの大物映画監督への取材という好機に乗っかって、彼女にニューヨークを案内する週末の計画を立てる。 しかし、映画監督にアシュリーが気に入られた事をきっかけにデートの予定はどんどん狂いはじめていく。 待ちぼうけを喰らったギャッツビーは昔の恋人の妹チャンにたまたま再会し、一緒に美術館を散策することに。 新型コロナウィルスの影響で余儀なく帰国することとなった3月まで、ニ

        • The Hudsucker Proxy

          コーエン兄弟による5作目の作品。コメディーだ。 ある日好営業であったハッドサッカー社の社長が会議中に自らの命を絶ってしまう。 規約によって会社の株が市場に開放されることを恐れる重役たちは、自社株買いを行う為に株価を暴落させる策略に乗り出す。 ハッドサッカー社の郵便室に新たに雇われた愚鈍な青年を新社長に拵えることで、会社の信頼を落とす計画を立てるが…。 強烈すぎる世界観! 登場人物はヒステリックでハイトーンにガミガミと主人公に怒鳴り散らす。びくびくと怯える主人公の間抜け面がバ

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          In One Person

          The Hotel New Hampshireを読んだとき、はじめて Paul Austerを読んだとき以来の衝撃がわたしの全身を駆け巡った。 その一作でJohn IrvingがわたしにとってPaul Austerに並ぶ敬愛する作家になる確信が芽生えた。Irvingの紡ぐ一語一句がページから浮き上がって彼の世界に「おいでおいで」と誘っているかのようだった。 彼の描く世界に心から嫉妬した。彼の言葉に抱かれて生きたいと思った。彼の描く人々が、空が、生き物が、建物が、全てが美しか

          In One Person

          The Bookshop

          イギリスのある港町に住む未亡人のフローレンスは、念願の本屋さんを開く。小さいながらも暖かみのある本屋さんは、次第に町の人々で賑わいを見せるようになっていく。また、フローレンスは、人嫌いで滅多に家から出ない読書家の老人と本を通して交流を深めるようになる。 しかし、彼女をよく思わない町の有力夫人により、フローレンスの本屋経営を妨害する画策が動き出す。 田舎町の空気感を良いところも悪いところもひっくるめて素直に描いているなあ、というのが最初の感想。小さいコミュニティーの暖かみを感

          The Bookshop

          Milkman

          読み始めると、独特すぎる世界観に頭のなかが「???」でいっぱいになる。この物語には登場人物の名前は出ず、具体的な地名や国名もあまり触れられることはない。 主人公は18才の女の子。彼女の住んでいるコミュニティは、すべての小さなことがゴシップとしてあっという間に広まり、ラベル貼りされてしまう。 彼女は噂のタネになる事を恐れ、目立たないように今まで生きてきた。政治的、宗教的な対立から距離をおくことを好み、いつでもフィクションの世界に没頭する。 でもある “milkman”という

          Milkman

          Little Women

          アメリカでは確か12月25日のクリスマス公開だったはず。見ようと思いながらタイミングを逃してしまい、結果日本での公開を機に見ることになった。 この映画には余りにも沢山の事についてのメッセージがあり、鑑賞しながら頭がいっぱいになった。原作は19世紀に書かれたものなのに、21世紀を生きる私たちにこんなに痛いほど鋭く思いをぶつけてくる。 この時代を生きる女性の人生は、確かに今の女性の生き方は大きくかけ離れている。でも今の女性は果たして19世紀の女性より決して自由になったと言える

          Little Women

          How Green Was My Valley

          今では遠く失われてしまった古き良き家族の暖かみが映画を通して伝わってくる。 ウェールズの炭鉱町の大家族に生まれた少年ヒュー。肝っ玉母ちゃんと不器用ながら愛情深い父親、歳の離れた働き者の兄達に囲まれてすくすくと育っていく。 家族の中で唯一学校に行く事になったヒューには、家族の他の男達とは違う選択もあった。でも彼は、父さんや兄さん達の様に、炭鉱夫として働くことを選ぶ。 幼いときから父や兄の大きな背中を見て育ったヒューには、炭鉱夫になるという事が “一人前の男になる” という

          How Green Was My Valley

          Once Upon a Time in Hollywood

          初めて見たのは、たしかアメリカの国内線の飛行機のなか。友人がまだ見れていないと言うので、早稲田松竹のリバイバル上映でもう一度見ることになった。 プロットの面白さは言うまでもない。凄惨な事件が実際にポランスキーの身に起こっていた(しかも現実はもっと救いようがない)と知って、この陰湿なインシデントをある意味コミカルに描いてしまうタランティーノに脱帽した。 この映画の魅力は何といっても世界観だと思う! 黄金期のハリウッドは誰の目にも夢の世界に映るのではないか。ポップで、ゴージャ

          Once Upon a Time in Hollywood

          Conversation Piece

          生身の人間関係から距離を置き、絵画に描かれた人々に囲まれて過ごす孤独なおじいさん。 でもある日上階に家族が引っ越してき、物静かで平穏だったおじいさんの日々に終わりを告げる。 上階からは色々な音が聞こえてくる。 足音、笑い声、罵り合い、破壊音、大音量のミュージック。 鳴り止まない騒音はおじいさんに新たな隣人の存在を意識させ続ける。 この映画は、人の二面性、矛盾さをよく描いている様に思う。 おじいさんは所謂インテリで、行きすぎた資本主義を疎み、政治の学問介入を嘆く。でもその一

          Conversation Piece

          Little Shop of Horrors

          こんな花屋さんは嫌だけど、こんな街には住んでみたい。幾つになってもわくわくしてしまう世界がそこには広がっている。 ポップでレトロで、クリスマスのツリーの下みたいな彩りの街角に構える花屋さん。商売は繁盛せず頭を抱えていたところ、冴えないアルバイトの青年が持ち込んできた不思議な植物が、お店をたちまち大人気店にし、青年の叶わなそうだった恋も助けてしまう。でもこの植物、人喰いだった!! アラン・メンケンはキャッチーなナンバーを手がける天才だ。黒人娘3人組のコーラスはたちまち観客を

          Little Shop of Horrors

          Gifted

          何故かは分からないけれど、昔から子供が主人公の映画が好きだ。ピーターパンの子どもたちの様に、あるいはホテルニューハンプシャーのジョンの様に、いつまでも私の心は大人になることを拒んでいるからなのかもしれない。 この映画の最大の魅力は、7歳の天才少女「メアリー」に詰まっている。 非凡なる数学の才能を生まれ持ったメアリーは、同年代の子らとつるむことを疎み、「年相応」に振る舞うことを拒む。 でもその一方で、大人には失われてしまった、ひたむきさ、素直さも少女の中には生きている。 年

          The Moon and Sixpence

          芸術の価値は誰に、どの様に決められるのか。 その価値基準は?傑作と駄作の違いは? 芸術の価値とは至極恣意的で、主観的である。難解な絵画を前に、「芸術の価値」について疑問を抱いた経験がある人も少なくないのではないか。 サマセット・モームの「月と6ペンス」を読んだ。絵画に全てを捧げ、タヒチで人生を終える画家の物語。モデルはもちろん、ゴーギャンである。 彼は文字通り、全てを絵画に捧げる。彼が捧げるものは自分自身の「全て」では終わらない。家族、友人、恋人の人生までも壊すことを躊

          The Moon and Sixpence

          Never Let Me Go

          正直原作の良さの1ミリにも及んでいない気がするが、カズオ・イシグロの物哀しく、暗く、でもどこか郷愁を匂わす世界観はなかなかに再現できていたのではないかと思う。イギリスの曇天の様な、じっとりとしていて、陰鬱で、でも愛おしい空気感。 私達は自分の人生が自分のものである事に何も疑問を覚えずに生きている。何を食べ、何を聴き、どこに住み、誰を愛し、どうやって毎日を重ねるのか。 この映画の世界ほど究極的に、自由の奪われた生き方は今では殆ど有り得ないと言ってもいいだろう。でも何かしらの形

          Never Let Me Go

          Scarecrow

          女のわたしに、男の友情はわからない。 マックスとライオンの友情は、無骨で、荒削りで、男臭い。でも彼らの関係性は、女のわたしに羨ましいと思わせるある種の崇高さがある。 ライオンのひたむきで純粋な人間性は見ていてなかなかに可愛い。マックスがライオンに対してああも献身的になってしまうのも、「うんうん分かるよ」と頷きたくなる。 映画後半から彼らの関係性は「友情」という言葉では形容できないものに変貌していくように見える。ライオンの為に奮闘するマックス。彼の必死さの裏には、友情以上の

          Scarecrow