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【小説】盤上の哲学(フィロソフィー)第1話

名門クラブの低迷

 Nリーグ第6節 東京ピットブルズvs.川崎アトレティコのダービーは異様な空気に包まれていた。ホームの東京ピットブルズは現在リーグ最下位。去年までの好調が嘘のように開幕から負け続けている。この日の試合もまったくいいところがなく、前半だけで0-3のビハインド。サポーターの怒りは限界を超えていた。

 「誰が責任を取るんだ」「GM説明しろ」という横断幕が掲げられるスタジアムの観客席を見ながら、竹内は唇を噛んでいた。GMという立場上、責任を取らなければいけないことはわかっている。だが同時に「自分のせいだろうか」「監督の責任ではないのか」という考えが頭を巡り、試合どころではなかった。

 昨シーズン4位でシーズンを終え、順位以上に、若い選手を中心とした運動量豊富でダイナミックなサッカーはファンに大きな期待を抱かせた。GMである竹内 仁は最後のピースとして元日本代表を二人獲得した。一人はドイツで活躍し、ワールドカップにも出場した経験を持つ35歳のFW上野 直樹。二人目もドイツの名門で長年プレーし、日本代表の中心選手として活躍したが近年怪我に悩まされているDF 外村 達哉(34歳)だ。竹内の思惑では二人を入れることで優勝争いに入れるはずだった。だが蓋をあけてみたらどうだろう? ベテランが入ったことで昨年のダイナミックさはなくなり、チームは迷走しているではないか......さらに若手は不満を漏らすなど空中分解寸前。どうしてこうなってしまったのか。

 「ピピー!」竹内は、ハッとした。考えている間に試合が終了していたのだ。スコアボードを見ると0-4と一点を追加されて負けていた。その瞬間携帯電話が鳴る。画面に表示された名前はクラブ社長の原田だった。クラブ社長といっても親会社である新日本システムズからの出向である。原田はスポーツは好きだが、経営能力はなく、親会社の顔色ばかりうかがうような男だった。
「竹内、今小林から電話があった。明日社長室に来てくれ」
「わかりました。何の用件でしょうか」
「まだわからない。とにかく現状を変える必要があると言われている。朝一番で来てくれ」

 竹内は電話を切り、目を閉じて天を仰いだ。「次の監督を探さなくては......今空いているのは......」負けたショックで動かない頭を回転させながら、家に向かうために車に急ぐ。

 0勝6敗18位。クラブ史上最悪のスタートだった。


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