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朝の散歩

若い頃は、体が重いなんて感じた事がなかったのに、この歳になると、朝ベッドで目が覚めると、体が重いどころか、寝ていた姿勢であちこちが痛み、どうやって体を持ち上げるのだろうと考えるぐらい、ベッドから立ち上がることに思案する。

なんとか立ち上がって、頭の上にあるカーテンをそっと開けて天気を確認する。
雨だったら散歩に行かなくていい理由ができ、自分の中で納得できる。

しかし、今日はピーカンである。それも、秋空晴れて、気温も丁度良いほどの、散歩日和である。

一瞬、あ〜、残念と思いながらトイレに向かう時には、毎日行っているから、たまには散歩はいいかぁと、自分の中で行かなくて良い理由を探している。

トイレを済まして、冷や水で顔を洗って、少し眠気が遠のいてきた頃、自分の中の怠け癖よりも、一歩外に出ればなんとかなるし、きっと、今日も新しい何かに気がつく散歩になるという、前向きな気持ちが少し頭をもたげかけてくる。

そこからは何も考えず、着替えて、ポケットにポケットティッシュが入っていることを確認して玄関のノブを回して、サンルームに出て、靴を履くところまで、エイヤで進むと、あとは、散歩に出るしかない。仕方がない、引き返すわけには行かない。

外に出て、坂道を歩き出す頃には、先ほどの体の重さも取れてきて、歩けば歩くほど、体が整ってくる。そして、また、昨晩の寝る前のように、体が軽くなり出し、少しずつ坂道を踏ん張りながら前へ前へ進む事が、自分へのチャレンジのように思えて、楽しくなってくる。

そうこうしているうちに、周りの情報を少しずつ五感で感じるようになる。今日は、どんな日なのだろう?今日は、何に出くわすのだろう?どの犬の散歩の人たちに会うのだろうと、興味が湧いてくる。

もう、日差しも心地よく、一枚ジャケットを羽織っている体には、山から吹き下ろしてくる爽やかな風が気持ち良い。

坂を登り終えて、少し平地をトラバースする頃には、息も整いはじめて、今日一日の過ごし方をイメージする余裕も出てくる。今日は、はじめに、冬への備えで、煙突掃除をして、その後、大好きな真空管アンプの木工過程で、仕上げをする事に注力しようと考えて、ワクワクし始めている。

散歩の中盤、林の中へ足を踏み入れると、鳥たちが、あちらこちらで迎えてくれる。あまり、鳥達の生態は知らないが、今日もヒヨドリ達は、あちらこちらで、鳴いている。
今年の夏の暑さは鳥達にも過酷だったようで、猛暑の中での鳴き声は、ギーヨ、ギーヨと苦し紛れに鳴いていたのに、この季節になると、その鳴き声も少し軽やかに、ピーヨ、ピーヨと仲間達とのやりとりが楽しそうである。
私には、このヒヨドリの鳴き声が、イーヨ、イーヨと聴こえ、なんだか、私の人生を肯定してくれているように聞こえて、いつも嬉しくなる。ついつい、いーよ、いーよとこちらからも言い返している。

林の中程を過ぎると、鳥の鳴き声をかき消すように、水の流れる音が聞こえてくる。水が豊富なこの地域は、山から湧いてきた水があちらこちらで流れ出てくる。滝などと言うほどのものではないが、落差を落ちる水の流れは、今日も潤沢である。歩くにつれて左から、右へと水の流れの音が移り、正に、ステレオの世界である。林の中では、木漏れ日が気持ちよく、少し歩いてウォームアップした身体に林の先から吹いてくる冷風が、感覚を研ぎ澄ましてくれる。

やがて、散歩の終盤を迎えて通りに出て東の空を望めば、真夏より軌道が少し傾いている太陽が、燦々と私の体に降り注ぎ、今日一日活力を生み出すパワーを充電してくれる。

そして、自宅に戻り、今日のような清々しい朝に聴きたい音楽を考えていた。
今日は、グリーグ、ペールギュントの朝から始めよう!