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どうぶつの森の話するで!

小学二年生の頃、近所に住む幼馴染のKちゃんは犬に夢中だった。
近々犬を飼う予定があるといい、家族と一緒に犬の種類を調べたり、犬を譲ってくれる人を探したり、自宅に犬を飼うためのスペースを設けたりと、まだどこのどいつかもわからない実態のない犬のためにてんやわんやしているらしい。毎日のように細かい進捗状況を聞かされていた私は、犬の話に飽き飽きして、日々なんとかして犬から話を逸らそうとしていた。

しかし、小学二年生の私は、クラスメイト達が盛り上がる話題にもほとんどついていけなかった。当時の女子小学生が好む話題といえば、テレビ番組や流行りのアイドル、歌、芸能人、漫画、ゲーム、シール交換などである。私は両親の方針でテレビや漫画、おもちゃ、ゲーム、駄菓子、ジュースなどを禁止されていて、ゲームに至っては一つも持っていなかった。お小遣いの概念もなく、母がどこからか仕入れた健康情報に従って、クラスでただひとり給食の牛乳も飲まなかった。

食べ物については特に困らなかったが、みんなが一番盛り上がるテレビの話に加われないことは、小学生の学校生活において大きなハンデだった。天才テレビくんやポケモン、ミュージックステーションにめちゃイケにドラマ、流行のCMなど、そのほとんどの詳細が分からず、恥ずかしくて見ていないと言い出すこともできなかったため、毎日必ず新聞のテレビ欄を読み込み、ピックアップされた番組について大まかな内容が書かれた「テレビ試写室」のコーナーだけを頼りに過ごしていた。新聞のラテ欄から内容を予測して会話に入り、カンでおしゃべりに加わっては「千晶ちゃんのなんか違う!」「ウソつき!」と言われ冷や汗をかいたことが何度もある。当時よく流れていたらしいテレビCMの「黒豆コ〜コア♪」というフレーズがわからず、何故か博士っぽいキャラクターが出ていると予測して「ココアなのだ!」と歌って先生にも笑われ、大恥をかいたこともあった。

特に、「どうぶつの森」には悩まされた。当時、主に男子児童と男兄弟のいる女子が遊んでいたマリオやドンキーコング、スマブラなどのゲームに加えて、生き物と暮らすどうぶつの森が登場したことで、女子児童にも一気にゲーム文化が流れ込んだ(と見ていた)。クラスメイト達が、どんなアイテムをゲットしたか、どんな裏技があるかといった話をする中、新聞にもそのヒントが載っていないどうぶつの森の話が始まると、私はみんなに合わせてなんとなく笑うか、誰かに気付いて貰えるまで変な表情を作り続けて、笑ってくれるのを待っているしかなかった。何かの拍子に友達の失敗をからかった際に、「千晶ちゃん、どうぶつの森の話するで!」と言われたときは、子供ながらに皆が私に気を遣って話題を選んでいてくれたのだと気付き、恥ずかしくなった。

Kちゃんは優しい子で、そういえば私が加われないどの話もしなかった。いつも、お絵描きやドブ川探検、変な髪型対決、ご飯の話など、私ができる遊びやおしゃべりに付き合ってくれて、どうぶつの森も持っていたのに、そのことも言わなかった。犬の話くらい、もっと聞いてあげればよかった。

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